2024年03月29日( 金 )

吉本興業がノーベル平和賞受賞者と連携

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 「ソーシャルビジネス」という言葉をご存知だろうか。デジタル大辞泉によれば、(1)環境・貧困などの社会的課題の解決を図るための取り組みを持続可能な事業として展開すること。(2)環境・地域活性化・少子高齢化・福祉・生涯教育など社会的課題への取り組みを、継続的な事業活動として進めていくこと――などが記されている。

 世界が経験したことのない少子高齢化社会に突き進んでいく日本にとって、欠くことのできない産業形態として注視されているソーシャルビジネス。そこに新規参入を宣言したのが“お笑い界のガリバー”、吉本興業である。3月28日、同社は東京・有楽町の外国人特派員協会で記者会見したが、その“ビジネスパートナー”にバングラディシュの経済学者、ムハマド・ユヌス氏を指名したというのだ。

 ユヌス氏といえば、2006年のノーベル平和賞受賞者。バングラディシュの農村で貧困層に無担保融資を続けてきたグラミン銀行の創設者で、現在も総裁を務めており、「貧困なき世界を目指す銀行家」と呼ばれることでも知られている。福岡市とも縁が深く、2001年には同市がアジア地域の優れた文化の振興と相互理解および平和に貢献することを目的に設けている福岡アジア文化賞大賞も受賞している。

 ユヌス・ソーシャルビジネスは「利益の最大化ではなく、社会問題の解決が目的」「財務的な持続性をもつ」「投資家は投資額を回収するが、それ以上の配当は受け取らない」「投資額以上の利益は、ソーシャルビジネスの普及に使う」「環境へ配慮する」「従業員は真っ当な労働条件で給料を得る」「楽しみながら取り組む」の7項目を大原則としている。

 昨年末、同社はこのユヌス氏の思想に共鳴し、ユヌス氏と協働することで意見が一致。さらに今年2月、「ユヌス・よしもとソーシャルアクション(株)(yySA)」を設立した。

 なぜ、吉本興業が参入したのか。新会社の代表取締役社長を務める小林ゆか氏は「吉本には約6,000人の芸人がいる。しかも、47都道府県に“住みます芸人”を展開しており、地域の課題がダイレクトに伝わっている。そのなかで、ユヌス氏が提唱するソーシャルビジネスを大衆化し、カルチャーにしたい」と、抱負を語った。

 新会社の大きな柱は「プロモーション」と「インキュベーション」。インキュベーションとは、設立して間がない新企業に国や地方自治体などが経営技術・金銭・人材などを提供し、育成するという意味だが、具体的には(1)コンサルティング、(2)ファンディング、(3)マッチングだという。問題をチョイスし、調査し、その問題解決策を打ち出す。その際、賛同企業と連携し、取り組みのなかで。そのPRやイベントに関わっていく。見えてくるのは、そうした流れだ。

 とはいえ、所属する芸人が皆、「ケチな会社」と揶揄する吉本興業。なぜ、“大して儲けが見込めない”ソーシャルビジネスに参入したのだろうか。あるテレビ関係者はこう語る。

 「吉本は2012年に設立100周年を迎えた際、次の100年を見据えて(1)アジア(海外)、(2)デジタル、(3)エリア・地域――を新たな3本柱として掲げました。この方針に沿い、47都道府県住みます芸人があり、アジア6カ国に16人の芸人が移住するアジア住みます芸人もいる。また、今年3月、eスポーツへの新規参入も発表しています。いずれも先行投資の感が否めませんが、将来を見据えてのことでしょう」

 東京では無名の芸人でも、移住した地域では人気者になるケースが数増えてきたと、吉本関係者は語る。となれば、少しでも回収方法を模索していくのは、当たり前のことだろう。現在はまだ利益が見込めないまでも、将来性は十分ある。しかも、ノーベル平和賞学者と連携していくのは、ある種の担保になると、前出のテレビ関係者は指摘する。

 ユヌス氏は会見で「いわゆるプロの知識ではなく、地域ごとの“地元の発想”が大切。また、芸人には人の心をつかむパワーがある。この新しい試みは、さまざまな手法はほかの国でもヒントになるだろう」と、期待を寄せた。吉本が手を伸ばしたウラ事情も気になるところだが、まずはマジメに事業の行く末を見守りたい。

左から、福島住みます芸人のぺんぎんナッツの2人、『ビリギャル』の著者の坪田信貴氏、ムハマド・ユヌス氏、ゆるキャラ「ユヌスくん」、小林ゆか氏、慶応大大学院メディアデザイン研究科教授の中村伊知哉氏、ゆりあんレトリィバァ

 

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