2024年05月02日( 木 )

西日本フィナンシャルホールディングス、久保田勇夫会長新春経済講演会(19)

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先進国のなかでも圧倒的な財政赤字

 そこで30年度予算でございますが、規模は97.8兆円と史上最高の規模です。これを賄う歳入のうち公債金、要するに借入金は34.5%を占め33.7兆円に上っています。経済は良い良いと言われている時でも赤字で34.5%のファイナンスを行う。そして国、地方を合わせて国の債務のGDP比は二百数十%と、先進国のなかでも圧倒的な高さであります。

 ただ、それでも大丈夫だという説もいくつかあります。1つは企業の借金と国の借金は異なると。これはある新聞の大きなコラムに出ていました。なぜかというと、政府は増税ができるが、企業の場合は増税ができないのだから借金は問題なのである。従って国の場合にはそれほど心配しなくて良いという理屈です。しかし、現実に増税ができているかどうか。できるかどうかが問題でして、ご承知の通り、消費税を2%上げることを2回も先送りしてまだ実現していないわけです。そういう現実を前にして、課税権限があるから国は大丈夫だという議論ができるのかどうか、疑問に思います。

 2つ目は、これはISバランス上の問題であるという論です。これはフィナンシャルタイムズの12月13日号に出ていたもので、翌日の日経新聞にその翻訳が出ていましたのでお読みになった方もおられると思います。マーティン・ウルフという人の論文でして、これはいわゆるISバランスに基づいた議論です。詳細は略しますが、ISバランス理論とは、財政の赤字を減らすためには経常収支の黒字をよほど増やすか、あるいは企業が資金をよほど使わないか何かしてISバランス(貯蓄と投資の差額)を変えなければいけないという議論です。これはただ事後的に均衡する経済の均衡状況を説明する式であり、原因、結果を説明する議論ではないのです。ISバランスというのは、これは昔、1990年の日米構造協議で米国が持ち出した議論と同じです。当時、米国は「日本は貿易黒字を減らすために日本の国内の消費を増やせ」と主張しました。経済政策を専門にする学者でこの論に賛同する人はほとんどいないと思います。ISバランス理論から政策の結論を導くのはおかしいと思います。

景気対策優先の政策に納得いく議論を

 3つ目に政府の「経済見通し」が言っているらしい財政赤字よりも景気対策が先だという議論ですが、これは価値判断の問題ですからそれはそれであってもいいのですが、もしそうであれば、なぜそうであるかという議論を積極的に展開し、国民を説得すべきだと思います。米国という国はなかなか厳しい国で、大統領でいろいろと苦労していますが、皆が財政なり経済なりは自分たちのものだという意識を持って、おかしいと思えばおかしいと、おかしくないと思えばおかしくないという議論を交わして
います。また、政府のほうもこれはこうだといえば、なぜそうかと国民にチャレンジしています。そういう意味で、ここにも書いておりますが、我が国にももう少しそういう見方があっても良いのではないかと思います。なぜこの私が経済見通しの話のレジュメに「衆知の活用」や

 「国民主権」だと書いているのだろうと思われるかもしれませんが、これはそういうことであります。基本的には、主権者である国民が納得したかどうかが民主主義の基本ではないかと思うのですが…。

 いずれにしても、この財政政策についての話は異様な財政赤字の現状、そしてそれを大丈夫とする諸説があるということ、消費税増税が先送りされているということ、来年の消費税引き上げの際に実施が予定されている軽減税率の導入が技術的に煩雑な要素を含んでいること、プライマリーバランス均衡の先延ばしといった問題があります。プライマリーバランスについては、先ほど少し述べた通り、もともとは2011年度に均衡化の予定だったのが、11年度から20年度、20年度から25年度、さらに25年度から27年度とどんどん先送りされているということです。

(つづく)

 
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