2024年04月26日( 金 )

西日本フィナンシャルホールディングス、久保田勇夫会長新春経済講演会(20)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

潜在成長率と潜在能力の違い

 さらに構造改革についてです。まず政府のいう新しい「三本の矢」ですが、これは経済的な意味での議論がされていないことが少し問題だろうと思います。たしかに、働き方改革その他は社会現象として大問題であることは間違いありません。他方、経済学的な意味でなぜ労働市場の改革が必要なのかというふうな議論が十分でないように思います。

 もう1つは、我が国経済における「構造改革」の重要性についてであります。このやはり構造改革の核は潜在成長率、つまりポテンシャルをどう引き上げるかであります。この点は少し皆さまも気を付けていただきたいのですが、経済学でいう潜在成長率とは潜在能力とは少し違います。なぜかと言いますと、たとえば、自分の能力以上によくやっているとか、潜在的な能力以上に速く走ったとか、そういうふうにして潜在的な能力を超えるという話の時には、一般的に良いものとされます。他方、経済学的に言いますと潜在成長力というのは、そのペースでその経済がずっと成長し続けることができる成長率のことなのです。

 翻って、今の日本の場合は、誰に聞いても潜在成長率は0.何%、つまり1%未満です。ところが、時によって経済成長率が1%を超えることがあります。潜在成長率を超えて経済成長していると、一瞬何か良さそうなのです。「いやあ、今の日本はすごいですな。潜在成長率を超えてやっています」と。潜在成長率を超えているということは、経済学的な意味でいえば、この成長率を長く続けることができない成長率という意味なのです。そういう意味で、少し私はそういう誤解があるように思っているのです。経済学的にいえば今の日本の成長率はおそらく現在の我が国の潜在成長率を超えています。超えているということは、今のままではこの成長率は下がるということになるのです。だから構造改革をして、今の潜在成長率を引き上げることが大事だと言っているのです。

 関連した話をしますと、今年の経済政策の見通しのところに今後「物価が上がるだろう」と書いています。なぜ物価が上がるのかというと、経済学的な意味合いでいうと、経済成長率が潜在的成長率よりも上回って上昇している、すなわちいわば無理が行っており、無理が行っているからその結果として物価が上がるだろうというわけです。ここのところは細かい話になりますし、やや趣味の領域ですから、必ずしも十分「そうだな」という話にならなくても結構でございますが、いずれにしてもそういうふうな誤解があるような気がいたします。

 レジュメに「誤解を生みやすい表現が多い」と書いております。そのことの1つは申し上げましたけれども、プライマリーバランスの「黒字化」という表現は、財政の黒字化と同じじゃないかというふうなことと、よく知らない人に誤解をさせる恐れがあるということです。あるいは、最近「戦後最長の経済回復だ」と言っていますが、それはたまたま景気変動が少なかったためにマイナスにならなかったという程度の話で、それほど経済が良くなったわけではないと思います。デフレ状況を脱しつつあることは事実ですが…。経済学的にいえば、マイナスになれば景気後退云々という話になりますが。いずれにしても新聞は見出しを付ける人が必ずしも経済学に詳しい方ではないからかもしれません。私は最近の状況を見まして、誤解を生みやすい表現が非常に多いので、われわれとしては「見出し」だけでその内容を判断しないように気を付けなければいけないと思います。

 レジュメに「日本の特異性が注目されるか?」「海外経済が左右」と書いておりますのは、まさに現在の日本の好調は海外経済に依存しているという意味です。通常の意味でいう海外経済にはリスクがあるというのではなくて、今の経済成長は海外に依存しているというふうに読むべきではなかろうかと思っています。

Ⅵ.2018年の九州経済

全国よりも目立つ公共投資の継続

 さて、最後に2018年の九州経済でございます。これはとくに付け加えるものはありません。というのは、九州経済調査協会で非常にしっかりした調査をされていますので、できるだけそこをお読みいただきたいと思います。その観点から言いますと、九州経済調査協会というのは、実はもともと満鉄調査部の系統を引いているのでございまして、ほかの地方の経済調査協会とは歴史が違うのです。そういうこともあり、その分析も伝統的に非常にレベルが高いものだと思っております。ぜひお読みいただきたいと思います。

 九州経済の今年の特徴を一応申し上げますと、基本的には全国と同様です。全体としては緩やかな拡大の継続、消費による下支え(ボーナスの増加)、設備投資の増加(省力化対応)、ここまでは日本の経済全体と同じですけれども、公共投資の継続(復興需要)が日本全体よりもかなり目立っているというのが特色だろうと思います。もちろん事例的には観光がどうだとか、あるいはアジアとの経済連携がどうだとか、いろいろとあると思います。

 かなり急ぎましたが、これで終了とさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。西日本シティ銀行とお付き合いいただくとこういった情報をまた提供してまいります。よろしくお願いいたします。

(了)

 
(19)

関連記事