2024年04月25日( 木 )

上場めぐり揺れるテノHD、躍進する保育ビジネスの躓きとは?

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

(株)テノ.コーポレーション

 18日、東証マザーズへの上場承認が取り消された(株)テノ.ホールディングス(HD)。データ・マックスでは、今年8月に発刊した経営情報誌「I・B夏期特集号」で同グループの中核事業を担う(株)テノ.コーポレーションを中心とする企業研究記事を掲載した。以下、同記事を掲載する。時代のニーズを捉え、躍進を続けてきたテノHDの躓きとは――。

 関東・関西・九州で保育所「ほっぺるランド」を展開する(株)テノ.コーポレーション。長崎県出身の女性起業家・池内比呂子氏が1999年7月に創立し、現在ではグループ全体で約280カ所の保育施設を展開するほか、自治体の学童保育や研修事業を委託されるなど、社会的な存在感も強めている。高まる保育ニーズを追い風として受け止める同社の現在地を探った。

女性の強みを生かして元OL起業家が創業

 現在、グループ全体で約280カ所の保育施設を運営する(株)テノ.コーポレーション(以下、同社)は1999年7月に設立。2005年9月に現商号へ変更した。現商号の「テノ」には、“手のぬくもりまでも伝えたい”という思いが込められており、「子どもの立場」「預ける親の立場」「委託する会社の立場」に立って考え、子ども1人ひとりと向き合うとしている。

 同社の創業者で、現代表取締役・池内比呂子氏は長崎県出身。短大卒業後、10年間会社勤めをしたのち独立起業し、時代のニーズに合い、女性の強みが生かせてリスクが少ないと考えたことから育児支援と家庭総合支援事業のコンサルティングを始めた。

 10年から『公的保育事業』として、直営保育園「ほっぺるランド」の運営を開始。現在、「ほっぺるランド」は、全国50カ所(関東33、関西5、九州12)に開設され、認可保育所や小規模保育所として運営されている。また、同年4月、福岡県糟屋郡志免町に、九州初の(株)が経営する福岡県の認可保育園「あいあい保育園」を開園した。

 グループ会社で、16年2月に同社を分割するかたちで設立された(株)テノ.サポートは、病院や事業所から委託を受けて事業所内保育園を運営する『受託保育事業』を担当。このほか、ベビーシッターの派遣や、保育士養成講座など教育事業を行う「テノ.スクール」を運営する。テノ.サポートは、事業所内保育所では(学)や医療機関、各種企業から委託を受け、院内・事業所内保育の実績を重ねるほか、自治体と提携した学童保育なども手がけている。

 17年12月、持株会社(株)テノ.ホールディングスを設立し、グループ3社で企業グループを構成。3社の代表取締役は池内氏が兼ねている。グループ全体で運営する保育施設は約280カ所。09年8月に、東京本部(東京都港区)を開設しており、九州のみならず、全国的な事業展開を行っている(本稿では、テノ.コーポレーションを事業の主体として解析する)。

教育ビジネスで人材育成・確保

 保育士不足や共働き世帯の増加により、全国各地で深刻化する待機児童問題を背景に、同社は実績を重ね、業績を伸ばしてきた。直近では、「ほっぺるランド」を18年4月に都内北新宿と新島橋かちどき、同5月に上落合にそれぞれ開園した。事業拡大とともに増収が続いており、13年2月期の売上高約19億円から17年12月期は2倍以上となる売上高約40億円を計上した。

 「安心して子どもを預けることができ、子育てと仕事を両立できる社会をつくりたい」という池内社長は、社内の福利厚生を充実させており、産前・産後休暇や育児休業、出産から復帰した後の時短勤務などを完備。このことが保育士の確保と質の高いサービスへとつながっている。

 また、差別化という点で“教育”にも力を入れており、関連会社テノ.サポートが運営する「テノスクール」では、保育士やベビーシッターの養成講座、保育士の研修・教育、保育士・幼稚園・小学校のスタッフやベビーシッター、保護者などを対象とした小児応急救護法講座を行っている。保育士資格修得後の就職相談にも対応しており、教育事業の魅力化と同時に現場への人材供給を実現している。

 人材確保という役割を担う教育ビジネス事業を手がけていることが、同社の保育事業のスピード展開を支える強みになっていると推察できる。事業所開設に必要な資金面では、約3,950社に投資を行うベンチャーキャピタル(株)ジャフコ(本社:東京都港区、豊貴伸一代表)から投資支援を受けており、テンポよく進む業容の拡大を支えている。

高いニーズを背景に官民で実績を積む

 保育ニーズの高まりとともに、同社グループに寄せる期待は高まっている。事業所内保育では、第一交通産業(株)から運営を委託された保育施設が現在の5カ所から10カ所まで倍増する予定。18年内には大阪府で2カ所新設される。人手不足が続くタクシー運転手に、子育て期の女性採用を有利に進めていきたいという第一交通産業の思惑を強力にバックアップする。

 また、福岡市内の小学校で実施されている「放課後子ども教室推進事業」(通称:わいわい広場)の運営業務を委託されており、放課後の学校施設を遊び場として、子どもたちの心身の健全育成を図る事業に取り組んでいる。また、福岡県の糟屋郡、筑紫郡、宗像市で24カ所の学童保育所を運営するほか、18年8月下旬から、長崎県こども未来課が主催する「長崎県子育て支援員研修」を受託され、長崎県各地区で実施するなど、自治体との連携にも力を入れている。

 一見、順調に見える同社の事業展開だが、実は財務面(表参照)を切り取ってみると、不安要素が多い。16年12月期時点で、自己資本比率は5.3%と危険域。キャッシュに乏しく、流動比率47.3%と資金繰りにも不安を抱える。また、借入金月商比率8.4カ月分と負債が重く、その一方で、約6億円を長期貸付金として計上している。財務面の立て直しが急がれる内容だが、事業拡大に利益が追い付いていない現状からすると、その見通しは暗い。

 官民問わず、保育に関する幅広い分野で実績を積み重ねている同社グループ。事業展開が順調に進む一方で、ベンチャー企業らしい脆弱な財務基盤がネックとして残っていることがわかった。保育ニーズの強い今、事業拡大のチャンスが広がっているのは事実だが、その裏には、“高転び”のリスクが潜んでいる。

※クリックで拡大

【山下 康太】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:池内 比呂子
所在地:福岡市博多区上呉服町10-10
設 立:1999年7月
資本金:5,000万円
売上高:(17/12)約40億円
TEL:092-263-8040
URL:https://www.teno.co.jp

関連記事