2024年04月19日( 金 )

2030年の世界 アルビン・トフラーの『未来の衝撃』から読み解く(6)

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激変期に試される先の先を読む目

 とくに政治の世界ではこのタイムラグの問題が大きい。欧米でも日本でも政治家はコンピューターでいう「バッチ・システム」という旧式の情報力に頼るという時代感覚で動いている。他方、政治に影響を与えようとしているロビー団体は1日24時間、1年365日リアルタイムでたゆまなく働きかけを行っている。つまり、「オンライン・システム」で働いているわけだ。その結果、実行に移された政策が現状にそぐわないという状況が起こってくる。こうした状況はアメリカだけではなく、日本でも世界でも見られる共通の現象である。

 個人でも組織でも先を読むだけでは足らず、「先の先を読む」必要が常にある。要は、情報といっても、未来に生きる情報と過去を確認する情報とを区別しなくてはならない。そんな時代の流れのなかで、情報の意味をチェックしなければ、21世紀の情報戦士にはなれないだろう。そのことを改めて再確認させてくれるのが『未来の衝撃』である。

 同書の冒頭、トフラー氏は日本の読者に宛てて、次のように語っていた。「日本経済は強力なジェット・エンジンに似ている。エンジンを酷使すると、飛行機の機体を危険な状態にさらしはじめる。振動はひどく破壊的な力となり、機体の接続部分を壊し、ばらばらにしかねない。社会秩序とは、その国の経済活動が行われている枠組、つまり飛行機の機体みたいなものである。もし社会的秩序がばらばらになってしまったならば、エンジンもまた破壊されてしまう」。

 2011年の「3・11」(東日本大震災)を受け、原子力の安全神話が崩壊したにもかかわらず、脱原発に踏み出せない日本のエネルギー政策。朝鮮半島の非核化が進んでいながら、アメリカ製のミサイル防衛システムを買い増す日本の防衛政策。2060年には人口が半減し、税収も大幅に落ち込む見通しが明らかになっていても、大盤振る舞いの予算編成に走る日本の国会。このままでは「未来から取り残される」という運命になりかねない。

 今こそ、我が国のみならず世界全体として「未来の衝撃」に直面しているとの危機感を共有し、新たな社会的価値観と秩序の創造に立ちあがる時であろう。未来学の真髄とは「目標とする未来を具体的に想像でき、そこから今何をなすべきかを決断すること」。そんな未来学的発想の指導者が求められている。アメリカとの同盟関係に固執するのか、中国が目指す新たな世界秩序に参入するのか。そんな他力本願の選択ではなく、両者の強みや弱みを把握したうえで、地球規模での資源と人材の開発戦略を独自に打ち出す必要がある。残された時間は少ない。

(了)

<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)

前参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。

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