わらび座ミュージカル「ジパング青春記」特設ページ
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2018年10月14日 07:05

シシリー島便り・日本人ガイド、神島えり奈氏の現地レポート~秋のシシリー

 10月に入り、ここシシリー島でも秋を感じられるようになってきた。日中は気温が22度くらいあり、外を歩いていると汗ばむほどで、半そででも過ごせるが、朝晩は気温16度前後と涼しい。市場では大きなカボチャが並び、路上では焼き栗が売られ始める。毎年この時期にはアーモンドの練粉を果物のかたちにした「マルトラーナ」というお菓子も出回る。

 パレルモでは11月2日に、先祖がこの世に戻って来るとされている。この日は先祖が1年間行いの良い子ども、勉強をがんばった子どもなどに、ご褒美としてプレゼントをもってくるとされている。逆に勉強をろくにしなかった子どもたちは、削り器で足を擦られてしまうとの言い伝えがある。子どもたちは怖がって夜寝る前に台所にある削り器を隠していたそうだ。昔は、この日にクリスマスより豪華なプレゼントをもらう子どもも多かったそうだ。ギネスブックに載るほど大きな砂糖でできたお菓子の人形も登場する。現代では、ハロウィーンと一緒に行われることもある。

 露店には、綿菓子やピーナッツ、焼き菓子などの甘い匂いが漂い、おもちゃも売られる。しかし、そんな伝統も少しずつ失われつつある。もちろん先祖の墓まいりもするので、花屋さんにとっては稼ぎ時だ。一般的に家族のお墓は数が決められており、いっぱいになると別の場所を購入しないといけない。高齢化の進むイタリアもだんだん、お墓のスペースが縮小してきている。一定期間(市によって異なるが一般的に20年から25年)が経つと、骨入れに移しかえられる。そんなしんみりとする季節、お世話になった人が亡くなった。

 今年4月、夫の叔父が突然、首の付け根の痛みを訴えて検査入院をしたところ末期癌であることがわかった。定年まで鉄道会社に勤め、すでに年金生活をしていた叔父は私が結婚し、親戚付き合いが始まってから常に面倒を見てくれた。手先が器用で、修理工さながらに、ほとんどのものをなおすことができた。家、洗濯機、貯水タンク、水道水の詰まり、下水パイプ修理、ドライヤーなど、何か問題があると、私の家から5分の場所に住む叔父がいつも駆け付けてくれた。  

 叔父は趣味も多く、家にいることが少なかった。数年前には、友人夫婦とキャンピングカーでスペイン、フランスなどを周っていた。家にいるとしたら、大好きなF1レースをテレビで見ているときぐらいだった。日本の古いサムライ映画や、戦争映画などが好きで、自宅にあるコレクションを見せてもらったこともある。また昔、無線機で日本人と交信した想い出も話してくれた。叔父は甘いお菓子が大好きだった。晩年は高血圧のため、医者から控えめにするように言われていたが、リコッタチーズのカッサータというシシリー人ですら「甘い」というお菓子が大好物だった。

 私が子どもを出産した際は子ども見たさに、しょっちゅう我が家にきてくれるのだが、家の仕事が気になる私はうろたえることも多かった。叔父には30代の息子と娘がいるが、2人とも子どもはいない。それもあったのか、生まれたばかりの我が子をまるで自分の孫のように可愛がってくれた。叔父はいつも娘たちに日本語を教える大切さについて話してくれたのも印象的だった。

 自分が癌であると知った際、なぜ自分はこのような運命なのか、と死を恐れる叔父の姿に、かける言葉がなかった。私は娘と一緒に折り紙を折って、病室にもって行った。個室だったが、看護士、親戚、友人などが出入りするので、誰かに折り紙を取られてしまわないか、とても心配していたそうだ。  

 折り紙は亡くなるまで病室の壁に飾ってあり、亡くなった後は、棺のなかへと仕舞われた。じっとしていることのできない性格だったので、病室のベッドで過ごした約半年間は、さぞ辛かったことだろう。

 私に親身にしてくれた叔父だが、自身の家族関係は少し複雑だった。自由気ままな生き方を好んだ叔父は、家族に対して、あまり関心を示さなかった。しかし、死を目前にし、そんな過去を反省し、家族に詫びたという。過ぎた時間を取り戻すことはできないが、亡くなる前に家族の絆が復活したのは何よりだった。

 痛みと悲しみで涙をこぼす毎日だったが、私が病室を訪れると無理をして、笑顔を見せてくれた。日本にいる私の両親のこともいつも気にしてくれていた。叔父の死を娘たちに告げた瞬間、具合が悪いことを知ってはいたが、亡くなるとはまったく考えていなかった娘たちは号泣し、下の娘に至っては2時間近く、目が腫れあがるほど泣いていた。娘たちは、それぞれ叔父へのお別れの手紙を書き、葬儀の際に読み上げ、人々の涙を誘っていた。

 秋の青空が広がる日、私は娘が葬儀で言ったように、「叔父が天国で安らかになれますように」とお祈りした。

<プロフィール>
神島 えりな(かみしま・えりな)

2000年上智大学外国語学部ポルトガル語学科を卒業後、東京の旅行会社に就職。約2年半勤めたのち同社を退職、単身イタリアへ。2003年7月、シシリー島パレルモの旅行会社に就職、現在に至る。

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