2024年03月19日( 火 )

貴乃花親方辞職事件の真実(5)

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青沼隆郎の法律講座 第16回

言葉による真実の隠蔽

 大新聞の毎日新聞は貴乃花親方の辞職が確定した段階で解説記事をインターネットで発表した。そこに踊っていた言葉は「相互不信」という言葉だった。極めて悪質な日本語の誤用であり、明かに協会が貴乃花親方を騙し討ちにした事実の隠蔽である。
 本来、立場に上下関係がある人間間には「相互不信」は存在しない。対等に主張しあえる関係で、かつ、情報の公開などについても対等な力関係にある場合に「相互不信」は成り立つ。貴乃花親方が協会との交渉に代理人弁護士を介し、書面で対応したのは、貴乃花親方が圧倒的な情報弱者であり、協会が不都合な真実を悉く隠蔽否定したことによる。弁護士を介し、書面によらなければ、証拠の保全が不可能だからであり、重要な真実が平気で無視隠蔽されるからである。従って、貴乃花親方側には協会に対する不信があることは、その原因があるから当然である。では、協会側に貴乃花親方に対して不信感をもつ原因事実はあったか。

 毎日新聞は少なくとも協会が貴乃花親方に対して不信感をもつだけの具体的原因事実をつかんでいたのだろうか。不信は相互にはない。常に騙し討ちにあってきて、情報文盲の状態にされてきた貴乃花親方側にのみ不信感はある。この客観的事実を、まさに「相互不信」の用語は隠蔽してしまった。あたかも喧嘩両成敗の如き「中立公正の報道」を装って。
 念の為、今回の協会の騙し討ちを説明する。協会は理事会で、全親方の一門所属義務規則を制定したとされる。もちろん、本来は最初に公表されるべき重要な規則であるが、現在までその詳細と制定理由の正式な発表はない。私見ではあるが、最後まで正式な発表はしないと思われる。それは当該規定が、貴乃花親方ら無所属の少数親方を狙い撃ちにした規則で、規則そのものに合理的理由がなく(※1)、かつ、無所属親方は弟子育成委託契約を解除されるとする内容に至ってはさらに合理性がない(※2)からである。

 通常、親方の利害にかかわる規則の制定の場合には事前に親方全員の意向や意見の聴取が大前提である。このような規則制定の適正な手続がなく、一方的に貴乃花親方だけに不利益となる規則制定が貴乃花親方の知らない間に公益財団法人たる協会で制定されていたのだから、これを騙し討ちと言わずして、何と言おう。毎日新聞はこの極めて不条理な内容の規則とその不適切な制定過程をまったく問題にすることなく、発生した貴乃花親方の辞職という事実だけについて、相互不信の結果といわんばかりの解説をした。相互不信などそもそも存在してはいない。

※1 制定理由は一門への助成金と無所属親方双方への助成金では、管理において無所属親方への助成金の管理が困難であるため、統一する必要がある、とのことであるが、まったく論理性の欠けた制定理由である。誰もこの理由を理解することはできない。明らかな虚偽理由である。毎日新聞の記者はこの理由の正当性合理性を理解できたというのだろうか。

※2 助成金の管理のための規則に従わない無所属の親方のペナルティであれば、助成金の交付を停止すれば必要十分である。弟子育成委託契約まで解除する合理性はまったくない。

 そもそも、一門への助成金の交付自体が法令定款違反である。

論理真逆の偽命題(論理的に虚偽の文章)

 31年相撲報道に関わってきたという横野レイコレポーター。彼女の一連の協会寄りのコメントがネット上でも批判されているにも関わらず、どういうわけかテレビでの露出は多い。これも平然と偽命題や勝手な推論をテレビで行うため、恰好の世論誘導のため、重宝されていると思わざるを得ない。テレビ局も「公平公正な報道」のため、とくに、スポンサー側の立場の協会の見解を聞く必要があるから、おそらく出演やコメントの打診をしているのだろう。そんなとき、協会は、横野レイコ氏の代打出演コメントを勧めているものと想像される。それがテレビの露出が多い理由と理解している。
 今回の貴乃花親方の辞職事件についても、体験した真実か、勝手な推測や希望かまったく不明の協会寄りのコメントを乱発した。以下そのなかの1つについて明らかな悪意ある偽命題を紹介する。

 貴乃花親方の辞職は「弟子とファンを置き去りにしたもので、悔しい」というものだ。

 貴乃花親方が、弟子とファンを置き去りにする目的で辞職した場合にはこの命題は真となるが、辞職はやむにやまれぬ事情により苦渋の決断で選択した、と本人が記者会見で明らかにしており、それが虚偽理由で、本当は、弟子とファンを置き去りにする目的での辞職であることを横野レイコ氏が立証しない限り、前記の命題は偽となる。
 辞職によって当然発生した貴乃花親方にとって無念な事実を、まるで、それを意図しての辞職かのごとき論難には、嫌悪感を禁じ得ない。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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