2024年03月29日( 金 )

従業員海中転落死の港湾土木工事業者、乗下船に揚錨機を使用

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▲乗下船に使用されていた揚錨機(矢印は編集部)

 一昨年11月に博多湾で発生した海難死亡事故について、裁判で、遺族から安全管理上の責任を問われている港湾土木工事業者・(株)博多港環境整備(福岡市博多区)。同社が、船の停泊で用いる揚錨機や着岸時の衝撃から船体を守る防舷材(タイヤ)を、本来の目的とは異なるかたちで乗下船時に使用していたことがわかった。

 事故は16年11月11日、船上作業を終えて東浜ふ頭に帰港した作業船から同社社員が海中に転落し、翌日になって水死体で発見されたというもの。付近の防犯カメラの映像から、社員は1人で係留作業などを行っていたことが判明したが、転落時の目撃者はいなかった。この作業船を所有する同社は、「船員労働安全衛生規則」(国交省)で定められている船外との通行に用いる舷梯や歩み板(幅40cm以上)を作業船に設置しておらず、また、社員に単独作業をさせていた。亡くなった社員の遺族は昨年9月、安全対策が不十分などとして同社に対して損害賠償を求めて福岡地裁に提訴した。

 裁判で同社(被告)は、岸壁と船舶の高低差などから舷梯または歩み板を設置して乗下船することは現実的に困難と主張。揚錨機にロープを括り付け、そのロープをもって船体に取り付けられたタイヤの上に乗って行き来する乗下船を「必要かつ十分な措置」とし、転落した社員について「自らの不注意によって転落」したなどと反論していた。

 海上保安庁によると、乗下船で使用する昇降設備には、国交省の「船舶設備規定」(第303~311条)で、材料、構造および性能について細かく規定されているという。規定外のものについては、管海官庁の審査・承認が必要であり、揚錨機と防舷材を同社独自の判断で乗下船に使用することはできない。なお、同社では、社員遺族との訴訟が行われている今年8月、事故発生時の経営責任者(代表取締役社長)が役員退職慰労金を受け取って退任している(関連リンク参照)。

【山下 康太】

▼関連リンク
・海難死亡事故の裁判中に経営トップ2人が円満退職?

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