2024年04月19日( 金 )

【日馬富士裁判】貴ノ岩訴訟取り下げの不条理

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取り下げでは火に油を注ぐ

 貴ノ岩が日馬富士への訴訟を取り下げたニュースが日本中を駆け巡った。被害者の貴ノ岩がモンゴルに住む親族へのバッシングを理由に訴訟を取り下げるなど、法治国家・日本では考えられないことだからである。筆者が想起したのは、加計学園問題における突然の不条理、すなわち加計学園の事務長が、独断でつくり話を愛媛県の担当者に語ったという事例だ。

 貴乃花親方に仕掛けられた罠が、告発状を事実無根とする自白の強要であったが、貴ノ岩にもモンゴルメディアを通じた世論の誘導で罠が仕掛けられていたのではないか。貴乃花親方への伝言者は阿武松親方であったが、貴ノ岩への働きかけをした人物は誰であろうか。

 貴ノ岩は日本の冤罪事件でよく見られた利益誘導にまんまと嵌められてしまったのではないか。仮に、モンゴル世論による貴ノ岩親族へのバッシングが真実であれば、訴訟の取り下げで、かえって貴ノ岩および、その親族の不名誉が確定してしまう。バッシングは収まるどころか一層強まることが予想される。バッシングの根本の理由が「日馬富士の暴行は、貴ノ岩の無礼な振る舞いにある」とするプロパガンダが基本にあるからだ。

 その結果、郷土の英雄を引退に追い込んだだけでなく、モンゴルの貨幣価値からみて超高額な損害賠償請求まで起こしたことについて「人間的に許せない」と親族にまでバッシングがおよんだのであろう。このような事情にあれば、貴ノ岩の訴訟取り下げはバッシングの正当性を追認したようなものであり、貴ノ岩が期待しているような親族へのバッシングが収束することはない。

 筆者は、貴ノ岩の訴訟取り下げの理由自体が真実ではないと見ている。貴ノ岩が泣く泣く訴訟を取り下げた理由の1つとして考えられるのは、日本相撲協会(以下、協会)が、貴ノ岩の提訴を理由としてモンゴル出身の新弟子の入門を今後制限するといった第三者に影響がおよぶ内容を通告したことだ。

 貴ノ岩も自分の訴訟のせいで将来のモンゴルの若者の希望や未来を閉ざすことを潔しとしなかったのだろう。また、協会が、力士が元力士を訴えるということ自体が、相撲の興行に悪影響を与えるとして取り下げるよう圧力をかけたことは十分予想される。

 いずれにせよ、被害者として正当な権利行使を急に変更したからには、よほどの理由があったはずであり、モンゴルに住む親族へのバッシングなどが理由になることがおかしい。バッシング自体が理不尽であるから、それに屈することは誰の目にも不条理に映る。日本のマスコミには、事実関係の背後に隠された“真実”を見る目とそれに屈しないジャーナリズムが試されている。

 事態は、協会の思惑通りに進展している。今回も誰が貴ノ岩を説得したのかという謎を残したまま、貴ノ岩は利益誘導の被害者となる道を進んでいる。日馬富士事件の真相は一層深い闇のなかに沈んでいく。

【青沼 隆郎】

▼関連リンク
・日馬富士裁判で学ぶ日本の法律(1)

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