2024年04月25日( 木 )

教育の本質は、認め、尊重し、『社会で役立つ』ように導くこと~立花高校校長×新開ゆうじ対談(2)

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音楽を通して

 ──齋藤校長が宮崎県の公立中学校の教諭時代に経験した“同調教育”に違和感をもち、一念発起され、この立花高等学校に転じられたのですね。

左から、齋藤眞人氏と新開ゆうじ氏

 齋藤 そうです。「1人の子を粗末にする時、教育はその光を失う」という当校創設者の安部清美先生の言葉が当校の礎になっています。それは、『パイルアップ』とする、積み上げていく教育指針です。すなわち子どもたちが自分のペースで出席、そして単位を積み上げていくのです。”できないことを嘆くより、できていることを認め合う”という当校の理念につながります。私は不登校の子どもたちを受け入れ、向き合い、そして社会の一員として巣立っていく教育を実践していた当校の理念に賛同・共鳴し、応募しました。そして縁あって、2004年に当校に着任したのです。

 新開 斎藤校長は公立中学校の教諭時代、音楽を通じて子どもたちと向き合ってきたなかで、気づけばその音楽で子どもたちを犠牲にしていたという矛盾と現状からの打破に挑んでこられたのですね。そういう意味では社会においても同じことがいえるのではないでしょうか?変化の激しい時代だからこそ、今まで以上に結果が求められ、そこには必ず矛盾が生じてきます。繁栄と衰退の色彩がより明確になる時代だからこそ、おもねってはいけないが、寄り添うことを政治は忘れてはいけないと思っています。斎藤校長は、教育の世界で感じられた矛盾と現状を打破するためにご自身を変えられ転身されたわけですね。大変なご決断だったと思います。

 齋藤 当時の中学校の教諭時代では、到底できなかった教育を実現できる─同調教育の真逆である、1人ひとりの子どもたちに寄り添い、認め、支える教育を実践する当校は、いわば教育のセーフティーネットです。不登校などの子どもたちの最後の砦でありたい。中学校教諭時代の経験から本当の教育とは何かを気づかされ、「この機会を逃したらもうだめだ」と、決意したのでした。まったく未知の世界でしたが、毎日が気づきの連続で、子どもたちとともに過ごす時間が楽しいですね。

 ──貴校の生徒さんは、とても明るく元気な表情をしています。改めて1人ひとりの子どもたちに寄り添う教育についてお聞かせください。

 齋藤 ありがとうございます。不登校と言っても、“行けない・行きたくない”のか、もっと突き詰めると学校そのものが嫌いなのか、不登校の原因は、それぞれ異なります。しかし、それらすべての原因は、そばにいる大人が、その子どもたちに寄り添えていないからです。学校に行けない子どもに対して大人は、「何しよっと!行かんね!」と無理やり行かせようとします。行かせようとするのでなく、子どもたちが“学校に行けない、辛い”という声を受け入れることです。「学校に行かないと、社会に出てから困るよ!」とある意味、子どもたちを脅しているのです。大人たちは子どもたちが明るく・健やかに成長し、社会に巣立っていくことを願っております。しかし、学校に無理やり行かせようとするなど子どもたちへのアプローチ方法が画一的であることが、子どもたちの成長を阻害しているのです。

 ──確かに1日も「学校に行きたくない」とする子どもたちは、皆無に近いのではないかと思います。誰もが、「行きたくない」という心境になるのではないでしょうか。

 齋藤 そうです。「学校に行きたくない」と感じていても、気力を振り絞って学校に行っているという子どもたちの頑張りを大人たちに気づいていただきたいのです。つまり、学校に行っているのが当たり前ではなく、行ったことを認めてあげることです。例を挙げますと、当校でも毎年体育祭を開催します。ほとんどの子どもたちは、「中学校時代に体育祭に出られなかった」と手を挙げます。そこで「今、君たちは体育祭に出ているよ」と認めてあげるのです。体育祭に出ることが当たり前でなく、“体育祭に出た”という頑張りを見ることです。これは、子どもたちを甘やかしているというのではなく、何でも当たり前ではなく、1人ひとりの頑張りを正しく見つめ、認めようというメッセージなのです。

(つづく)
【聞き手:弊社代表取締役 児玉直、文・構成:河原 清明】

<プロフィール>
齋藤 眞人(さいとう・まさと)

1967年宮崎県佐土原市生まれ。宮崎大学教育学部(現・教育文化学部)卒。宮崎県の公立中学校の音楽教員を経て、2004年(学)立花学園立花高等学校(福岡市東区)教頭として赴任。06年から校長、10年6月から理事長兼務。同校は、1人ひとりの人格を尊重した自立支援教育が特色である。その教育現場での活動を題材にした─「いいんだよ」は魔法の言葉─とする齋藤校長の講演会は、小中高PTA、地域自治会や各教育関係のみならず企業経営やマネジメントの立場からの依頼も多数寄せられ、全国各地で開催されている。福岡県私学協会副会長および福岡地区支部支部長。トロンボーン奏者でもある。

<プロフィール>
新開 ゆうじ(しんかい・ゆうじ)

1968年8月22日福岡市生まれ。92年3月国立音楽大学音楽学部声楽科卒。音楽教諭免許取得。家業である老舗珈琲専門店「シャポー」入社・勤務を経て、パティシエとして渡仏。97年帰国。2002年に福岡青年会議所に入会し、同所常任理事を歴任後08年理事長就任。10年衆議院議員(当時)古賀誠氏秘書を経て、12年12月16日第46回衆議院議員総選挙の自由民主党比例九州ブロックで初当選し、14年11月21日までつとめた。テノール声楽家としても舞台やライブにて活動。

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