2024年04月25日( 木 )

福岡県では初 高尾川の地下河川築造工事に迫る

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 福岡県は、筑紫野市内などを流れる高尾川の浸水対策として、地下河川築造工事を進めている。同工事は、高尾川の川幅に沿って地下約9m、内径5mの地下河川を築造するもの。同様の工事は全国でも例が少なく、福岡県では初となる。施工場所は、西鉄天神大牟田線の二日市駅から紫駅沿いの約1kmの区間。今年9月、地下河川のシールド工事がスタートした。施工は安藤ハザマ・大豊・環境施設JVが担当。総事業費は約78億円。2020年梅雨前の事業効果発現を目指している。なぜ地下河川築造なのか。市街地でのシールド工事には、どのような配慮、工夫がなされているのか。現場をレポートする。

時間とコストを考慮し、地下河川築造工事を選定

 高尾川は、福岡県が管理する二級河川御笠川の支川で、長さ1.5kmほどの小さな川だ。2014年8月22日、高尾川周辺で最大時間雨量98mmを超える豪雨を観測し、西鉄天神大牟田線の二日市駅から紫駅沿いの二日市市街地を中心に高尾川が氾濫。川沿いの住宅など46戸が床上浸水したほか、46戸が床下浸水する被害が出た。高尾川では、過去にも大雨のたびに浸水被害が発生。そのため福岡県や筑紫野市は、緊急的な河川改修を国に要望した。その活動が実り、15年度に「高尾川床上浸水対策特別緊急事業」として採択された経緯がある。

 浸水被害が発生した二日市市街地周辺は、もともと地形的に雨水が集まりやすい地域。県では、浸水以前より高尾川が合流する鷺田川から上流に向かって河川改修を進めていたが、「高尾川は、そもそも狭いところでは川幅が約7mしかなく、大雨になると河川の(水を流す)能力が足りなくなる」(田浦康司・福岡県那珂県土整備事務所災害事業室技術主査)という課題があった。

 河川の氾濫を防ぐ手法としては、河川の掘削、築堤、河川の拡幅などが一般的だ。たとえば、高尾川の事業と同じ枠組みの事業には、宮城県の「吉田川床上浸水対策緊急事業」があるが、河道掘削や築堤などの手法を採用している。福岡県でも、過去に「那珂川床上浸水対策特別緊急事業」として、河道掘削や橋の架替えなどを実施している。

 福岡県ではもともと、河川の拡幅などの手法により、高尾川の河川改修を行う計画だった。高尾川下流の河川改修では、河川拡幅などの工事を実際に行っている。ただ、今回の区間では、地下河川築造を選択した。

 河川拡幅を行ううえで、ネックとなったのが用地取得。河川を拡幅するためには、川沿いの住民に立ち退いてもらう必要がある。合意形成や補償などに時間とコストがかかる。今回採択を受けた国の事業スキームは、事業期間が「概ね5年間」。用地取得をともなうと間に合わないという事情もあり、総合的に判断を下した。

水理模型でスムーズな流水システムを検証

 今回の地下河川築造工事では、高尾川の上流部、市道紫橋の手前に流入施設を設置する。越流した河川水を地下河川に流入させる施設だ。川に沿って、地下河川を約1kmにわたって築造。橋口橋下流に地下河川の水を河川に排出する流出施設を設置する。このほか、特殊堤(2カ所/約120m、約90m)や水道橋の架替えを行う。

 県では、工事に際し、水理模型による実験を実施。設計上の理論値だけでなく、スムーズに水が流れる流入、流出施設の形状を検討したほか、27カ所におよぶ地下河川の湾曲部を詳細に検証したうえで、事業化を進めた。「地下河川内の水の流れはかなり複雑。机上の計算だけでは、設計の精度に課題が残る」(同)と説明する。湾曲部には、水の流れを損なわない最適な角度、材質などが選ばれた。

3Dデータ上でシールドマシンを細かく制御

 地下河川築造には、シールド工法を採用。前面にカッターをつけたシールドマシンで掘削する工法だ。掘削した後、地下河川の擁壁となるセグメントを設置していく。高尾川の川幅に沿って、流入施設設置箇所から流出施設に向けて、地下約9m付近を掘り進めていく。シールド工事を行うための立坑構築には、ニューマチックケーソン工法を採用。圧縮空気によって坑内の水や泥を排除しながら、掘削を行う工法だ。

 今回のシールド工事では、27カ所ある湾曲部分を正確にトレースして掘削することが1つのポイントになる。シールドマシン制御には、(株)安藤・間が開発した統合型掘進管理システム「HI-SDACS(スダックス)」を活用。設計図面などを3Dデータ化し、シールドマシンの制御などをパソコン上で一元管理することで、精度の高いシールド掘削技術を確保している。

(株)安藤・間が開発した統合型掘進管理システム
「HI-SDACS(スダックス)」
掘削中のシールドマシン後方のユニット。
周りにセグメントが見える

防音ハウスなどを設置し、周辺への騒音、振動に配慮

 立坑のある現場は市街地。周辺には住宅が密集しているほか、工事車両などの出入りできる道は、1.5車線ほどの細い道しかない。そこで騒音・振動対策のため、高さ約17mの「防音ハウス」を設置。ハウス上部には、シールドマシン制御などを行うオペレーション室を始め、セグメントなどの仮置場、クレーンなどが収められている。騒音対策にはとくに配慮しており、通常の倍の高さ6mの防音壁なども設置されている。大型車両の出入りには、通行止めが必要になる場合もある。「とにかく周辺住民に迷惑をかけないよう配慮しながら、工事を進めている。工事だよりを配布するなど、事前の情報提供にも抜かりはない」(佐藤明彦・安藤ハザマJV所長)と話している。

約17mの高さの防音ハウス
防音ハウスに設置された高さ6mの防音壁。

【大石 恭正】

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