2024年04月24日( 水 )

内部告発されたカルロス・ゴーンの時代錯誤

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 東京地検特捜部は11月19日、日産自動車、ルノー、三菱自動車の日仏自動車大手3社の会長を務めるカルロス・ゴーン容疑者(64歳)と同社代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者(62歳)が、役員報酬を実際の額より少なく有価証券報告書に記載していたとして、両者を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕した。

 逮捕のきっかけとなったのは、内部通報だとみられている。東京地検特捜部と日産関係者との間で、捜査に協力するかわりに刑事処分を軽くする司法取引(協議・合意制度)が交わされたことがわかっており、東京地検特捜部は、数カ月間内偵を進め、逮捕に踏み切った。
 司法取引制度は今年6月に始まり、適用は2例目になるとみられている。

 ゴーン氏の逮捕を受け、日産の西川広人社長は同日午後10時からの緊急会見で、22日に臨時の取締役会議を開催して、不正に深く関与したとされるゴーン氏とケリー氏を取締役から解任すると発表した。この2人が22日までに釈放されることはないという判断だと思われる。
 取締取役会議は過半数の出席で成立する。別表の通り、ゴーン氏とケリー氏の2人が欠席したままの取締役会議にはなるが、西川社長は会見で「法令違反による解任であり、決して『クーデター』ではない」と強調した。
 その発言の裏には、ゴーン氏がいない間に取締取役会議を開催すれば、ゴーン氏が目論む「仏・ルノーによる日産の買収」を阻止することができる千載一遇のチャンスだという考えがあったものと思われる。

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 経営トップの座を巡るドロドロ劇は地方の企業にも起こりうる。2004年5月21日、山口銀行の臨時決算取締役会議が開催され、12年間頭取の座に就いていた田中耕三氏が相談役になり、後任の頭取には田原鐡之助専務が就任した。しかし2004年5月、就任してわずか2年で田原氏は更迭されてしまう。役員会に田原頭取の罷免案が提出され、過半数の8名が賛成し、可決したのだ。新頭取に就任したのは、当時、最年少の取締役だった東京本部長の福田浩一氏だ。

 「就任早々、田中氏が頭取時代に膨らませた不良債権を一気に前倒し処理したことや、田中氏と親しい生命保険会社との癒着問題をただそうとしたことが、田原頭取更迭の引き金になったという。「守旧派」は、田中相談役の意向を受けて、相談役の「虎の尾を踏んだ」田原頭取を更迭すべく、主君のためにクーデターを起こした。
 役員会に出席した取締役15名のうち、議長は棄権したが、田中氏の子飼いの役員8名が罷免案に賛成。8対6の過半数で田原頭取の罷免が決まった。この頭取交替劇は日産のクーデターの逆バージョンともいえる。

 田中相談役(92歳)は実に15年間、相談役として毎日出勤してにらみを利かせていた。田中氏は昨年秋に「特別社友」となり銀行に出勤することはなくなったが、今も下関市内にある銀行の社宅に住み続けているという。
 山口銀行を舞台にした内部抗争の顛末については、同行をモデルにした拙著「実録 頭取交替」(講談社)をお読みいただければ幸いだ。

【(株)データ・マックス顧問 浜崎裕治】

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