2024年05月02日( 木 )

カルロス・ゴーン容疑者逮捕~東京地検特捜部が「国益」を守ってくれた、次はいかに?

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 東京地検特捜部によるカルロス・ゴーン容疑者の逮捕に至るまでの行動は実にあざやかだった。日産本社での捜査員たちの動きは機敏であり、みな「国益を守るぞ」という使命感に燃えた顔つきをしていた。
 そして何よりも「カルロス・ゴーン逮捕」に向けた捜査情報が外部にまったく漏れていなかったことが見事だった。今回の逮捕劇によって、世間が抱く東京地検特捜部に対する負のイメージを払しょくし、汚名返上を果たせるだろうか!!

カルロス・ゴーンの致命的な誤り

 ゴーン容疑者は2つの大きな誤りをしたことで逮捕された。その原因は自分の信条を曲げたことである。
 第一は「俺が20億円の役員報酬をもらって何が悪い!!」という強欲な本性を堂々とさらけ出さなかったことだ。ゴーン容疑者は自身の報酬を5年間で、およそ50億円過少に申告した有価証券報告書を提出して逮捕された。柄にもない姑息な画策をしたから逮捕されたのだろう。

 第二は保身のために自身の経営戦略をねじまげたことである。(1)「ルノー・日産・三菱」3社の連合体で、まずは自動車販売台数1,000万台超の規模を固め、自動車業界世界トップクラスの地位を確保した。
 さらに(2)「共通プラットフォームの使用や、共同仕入れによるコストダウン」、(3)「各メーカーの長所を生かしつつ、お互いに切磋琢磨することで、世界最先端の技術を得る」という壮大な戦略をもっていた。
 ゴーン容疑者の経営モットーは「連合体こそが最高の成果を出す」というものだった。ところがルノー最大の株主・フランス政府から「ニッサンを統合しろ」と囁かれた、正確にいうと命じられたようだ。
 結局は保身から己の『グループ連合体』持論を放棄した。歴史は語ってくれる。「己の信念を曲げれば地獄しか待っていない」と。これまで従順だった日産の経営陣たちと激突するのは必然だった。

「民族派」西川グループも綿密なシナリオをしあげる

 記者は40年間、日産の車しか購入していないほどの「日産ファン」である。それがフランスのルノーになれば購入する義理もなくなる。ファンは見捨てれば良いが、経営陣は黙って見過ごすわけにはいかない。「存亡の危機」だと身に染みてわかっている。ゴーン容疑者追放を画策したのは自然の成り行きだろう。
 「日産をフランスに売り渡してはいけない」という錦の御旗を掲げ、ゴーン容疑者追放のための英知を関係者からも募った。はじき出された結論は「刑事処罰を受けさせないと追放は不可能」というものだった。

 伝手をたどっていった結果、東京地検特捜部に辿りついた。すると眠りこけていたこの組織が起きあがった。「日本を代表する企業=日産をフランスに売り渡すのは国益を損なう」と発奮したのである。
 国益を損なうことに義憤を感じて捜査に注力した東京地検特捜部にエールを送る。背後に官邸の後押しがあったとしても、ゴーン容疑者逮捕は東京地検特捜部にとって久しぶりの快挙である。しかし、「本当にこの組織は日本の国益を守ってくれる組織なのか?」と考えると疑問が残る。

統合先がアメリカだったら? 

 今回、東京地検特捜部が「国益を守る」ために果敢に挑んだのはフランス企業だった。ただ、相手がアメリカ企業だったら、どういう事態になっていただろうか?たとえばGM(ゼネラル・モーターズ)のトップにゴーン容疑者がおり、GMが日産を統合するという蛮行に走った場合、はたして東京地検特捜部は同氏を同じ罪名で逮捕できるのだろうか?
 「不可能である」という判断を下すしかない。日本がアメリカとことを構える姿は想像できない。「忖度するだろう」という結論にしか達しないのだ。
 東京地検特捜部の真の名誉回復は、どの国を相手にしても「国益を守る」という義憤のもと、一貫した調査を貫いていくことしかないだろう。

【青木 義彦】

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