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2018年12月05日 09:17

検察の冒険「日産ゴーン事件」(6)

青沼隆郎の法律講座 第20回

刑事訴訟法第350条の2 日本型司法取引規定の概要

 日本型司法取引は「捜査協力型」と美しく表現されているが、その重要な本質は「仲間裏切り型」である。日本人の美学とは正反対の取引合意がもたらす協力者へのバッシングは恐らく終生続くもので、むしろ他人を踏み台にして己の罪を逃れるのではなく、潔く刑に服し、心機一転しての人生を送る「更生」のほうがはるかに利巧である。

 国民一般が法に疎い状態であることは客観的事実なので、そもそも自分が被疑者であるかを含め、弁護士などに相談した結果の取引合意であるべきである。その意味で刑訴法第350条の2の規定は一方的な捜査便宜主義であるため、その運用について国民はしっかり目を光らせなければならない。本件でも報道された協力者2名は明らかに本件有価証券報告書虚偽記載罪の被疑者たりえないのであるから、誰がこの2名の協力者に対して、被疑者の身分で司法取引を勧めたかを含め、真相が明らかにされなければならない。

 以下は条文の内容の要約である。合意の一方当事者は当然、検察官である。

取引(条文では合意)相手 特定事件の被疑者または被告人

合意内容の1 特定事件にかかる他人の刑事事件に関する真実の供述証拠の提出など必要な協力

合意内容の2 公訴の不提起。公訴の取消。特定訴因への変更など。減刑処分の請求など

注:特定事件 すべての刑事事件ではなく、特定の刑事事件のみに適用がある。

役員報酬に関する有価証券報告書虚偽記載罪の成否についての論理的分析

 そもそも、有価証券報告書虚偽記載罪について、それが取締役のただ一名についてのみ成立するとの前提には大いに疑問がある。すでに、犯罪構成要件である「重要な事項」という要件について、30億円の上限枠を超えない範囲で、取締役間での振り分け以上の意味をもたない本件有価証券報告書の記載について、そもそも犯罪要件該当性はないことを指摘したが、念の為、再度、虚偽表示の類型的考察により、検察主張の非論理性、背理性を示す。

(1)既受領の金銭(およびそれと同一視できる財産。以下同じ。)の合計と有価証券報告書の記載金額が同一の場合。(本件はこれに該当する。)
 虚偽表示は存在しない。ただし、検察の主張は、ゴーンにはこれ以外に確定した役員報酬があり、それを退任後に受領する会社との合意が存在するから、この分が確定した報酬として開示義務に反する虚偽表示であると主張する。この類型については2名の協力者の関与形態を含めて再論する。

(2)既受領の金銭の総額より記載金額が少額の場合
 この齟齬が協力者の作為によって作出した場合が虚偽表示となるが、この程度の単純な計数の齟齬が専門家の監査・審査で発見されないことはなく、現実にはあり得ない。そもそもゴーンにそれを命じるメリットはまったくない。

(3)既受領の金額の総額より記載金額が多額の場合
 意図的に協力者によって作出された場合が虚偽表示となるが、容易に発覚する虚偽表示で、しかもゴーンがそれを命じるメリットはまったくない。

(1)類型についての再論
 検察が主張する未受領の確定した役員報酬が存在するとの主張について、とくに、「確定」の意義と「役員報酬」と法性決定する論理的根拠について。

 確定した役員報酬は確定した債務であるから、発生時から債務として計上されなければ将来の決済はできない。従って、2名の協力者は当該金額の債務を未払い役員報酬として会計処理すべきこととなるが、それは必然的に役員報酬額の増加を結果し、類型(3)の記載形態となる。従って(1)類型で、未払い役員報酬という会計処理はできず結局、確定した未払い役員報酬なるものは会計処理上、(3)類型となり(1)類型では存在しえない。これは検察の主張そのものが会計処理上、存在しえないことを意味する。

 未払い確定役員報酬が適正に会計処理されるためには(3)類型でしかあり得ないから、(1)類型における未払い金員は「役員報酬」でなく、確定することもない。実態は金銭の交付予約契約で、それはコンサル契約や競業避止契約や退職慰労金の形態での将来支出のたんなる予約である。内心の動機が金銭獲得であっても、それに見合う契約の締結があれば、動機の不正を理由に当該契約が無効となることはない。契約で約定した債務の不履行があれば債務不履行となるだけである。履行があれば当然、約定金員が支払われる。
 検察は、単なる将来の金銭支払いの法的根拠となるコンサル契約や、競業避止契約や退職慰労金支給契約などの契約の予約行為を、都合よく「確定役員報酬」と認定し、その認定を前提に開示義務を主張し、虚偽表示を主張するものである。事実認定の誤りもひどく、かつ論理の飛躍も甚だしい。

 開示義務違反が直ちに虚偽表示の故意とはならない。開示義務を認識し(つまり確定役員報酬と認識し)、かつ、意図的に開示せず、結果、実体と異なる役員報酬額を有価証券報告書に記載した場合に虚偽表示罪が成立する。

 ゴーンらが将来の金銭取得の原因となるコンサル契約などの予約をすることをもって「確定した役員報酬」と認識した事実は存在しない。本来なら当期に役員報酬として受領しても不当でないとは考えていたが、同額を将来、コンサル契約や競業避止契約や退職慰労金契約のかたちで取得しても当然と考えたにすぎない。その思考や行動が強欲かどうかはまったく犯罪の成否とは無関係である。

(つづく)

<プロフィール>
青沼 隆郎(あおぬま・たかお)

福岡県大牟田市出身。東京大学法学士。長年、医療機関で法務責任者を務め、数多くの医療訴訟を経験。医療関連の法務業務を受託する小六研究所の代表を務める。

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