2024年04月25日( 木 )

期待かかる福岡市のWF再整備とベールに包まれたロープウエー計画(1)

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2018年12月、福岡市のウォーターフロント地区(中央ふ頭・博多ふ頭、約65ha)再整備事業の概要が公表された。同事業は、概ね10年間の第1ステージという位置付けで、MICE施設、クルーズ施設、駐車場などを新たに整備する。WF地区ではここ数年、MICE・クルーズ需要が急増。国際会議開催や寄港を断るケースが発生し、関連施設の機能強化が課題になっていた。機能強化により、「アジアの海のゲートウェイ」としての地歩を固めたい狙いがある。整備費には400億円程度を見込んでいる。同事業の整備・運営は、民間事業者を公募。同事業に関連し、WF地区と博多駅と結ぶロープウエー整備も検討されている。WF地区再整備をめぐる動向を取材した。


天神、博多につぐ新たな都心拠点づくり

 福岡市は2016年3月、ウォーターフロント地区(以下、WF地区)の再整備の基本方針などを盛り込んだ構想「ウォーターフロント地区再整備構想」を策定。概ね20~30年後を視野に入れ、「福岡都心部の国際競争力の強化」「都市機能の供給力の向上」「賑わいと憩いの空間形成」を目的に掲げ、MICEやクルーズ機能などを強化することにより、天神、博多につぐ新たな「都心拠点としてのまちづくり」を打ち出している。

 再整備に際し、第1ステージ(概ね10年間で整備)、第2ステージ(概ね20年間で整備)を設定。MICEやクルーズターミナルが集積する博多ふ頭、中央ふ頭西エリアを第1ステージとした。中央ふ頭東エリアを対象とする第2ステージでは、中央ふ頭を新たに埋め立てる計画で、中央ふ頭東側に国際フェリーターミナルを新たに整備する方向性が示されている。

急速に拡大する中国クルーズ市場への対応

 国土交通省では現在、「日本再興戦略2016」に盛り込まれた「訪日クルーズ旅客を2020年に500万人」を目標に掲げ、外航クルーズ船の寄港促進に取り組んでいる。国際クルーズの拠点形成に際しては、民間企業などによる受入施設整備を促す制度などを創設し、官民連携による形成を進めている。目指すのは、クルーズ船寄港の「お断りゼロ」の実現だ。

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 同省港湾局によれば、ここ10年ほどの間に、アジアを含む世界のクルーズ人口が急速に増加している。15年の時点で、世界のクルーズ人口は2,320万人(05年は1,374万人)、アジア(主に中国)でも200万人(同76万人)を超えたとされている。中国政府の推計によれば、中国のクルーズ旅客数は20年までに450万人に達するとされている。日本の国策としてのクルーズ船受け入れは、拡大する中国クルーズ市場を取り込むためだといえる。

 国では17年から「官民連携による国際クルーズ拠点」形成を進めており、これまでに横浜港、清水港、佐世保港、八代港、本部港・平良港、鹿児島港を「国際旅客船拠点形成港湾」に選定。選定港では、クルーズ船受け入れに必要な岸壁整備などが実施されている。

 中国では、クルーズ市場の急拡大にともない、クルーズ船も大型化している。一口にクルーズ船といっても、旅客数が100人から5,000人のものまである。船主にとって、より大きな船を就航させることは、利益の拡大に直結する。寄港地にとっても、大きな船を受け入れるほうが、地元への経済効果はより高くなる。博多港を含め、九州などのクルーズ寄港地が大型クルーズ船の受け入れ態勢を進めているのは、このためだ。「日本、とくに九州のクルーズ船ビジネスは中国に依存している」(国土交通省九州地方整備局港湾空港部担当者)という。

 クルーズ旅行の旅客と聞けば、富裕層を想像しがちだが、中国クルーズの場合、必ずしもそうではない。中国では、経済の成長にともない、数百万人といわれる中間所得層が生まれており、旅客数のうえでは、クルーズ市場のメインを占めている。正規料金の場合、ラグジュアリークラスの料金は1泊5万円以上するが、カジュアルクラスであれば、1泊1万円程度で乗船できる。旅行代理店などが価格を競っているインターネット販売のチケットを利用すれば、さらに安い料金での乗船も可能。10~15万円出せば、上海から福岡まで3泊4日の家族旅行を楽しめるわけだ。中国の中間層にとって、クルーズ旅行は手の届く普通のレジャーになっている。

 船社各社は、チケット価格競争による「マーケットの軟化」を問題視している。新たな客層が増えるのは大歓迎だが、「安い旅」になるのは困るというわけだ。収益の減少はもちろん、クルーズ旅行のブランド価値の毀損にもつながるからだ。

 各社はチケットの販売価格の回復のため、船社が直接チケットを売る直販の拡大に乗り出し、販売チャネルをコントロールしようとしている。たとえば、ある船社では、現在23%の直販率を35%程度まで引き上げようとしている。船主にとって、過度な競争による「クルーズ市場の崩壊」が何よりの脅威のようだ。

(つづく)
【大石 恭正】

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