2024年04月19日( 金 )

疫学研究、介入試験等で「食の予防効果」は証明されている 商品開発のポイントは「機能性+美味しさ」(前)

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早稲田大学
ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所 ヘルスフード科学部門  研究院 教授 矢澤  一良 氏

管理栄養士・栄養士らが集まり、健康・栄養食品等に関する情報発信やセミナー・イベントを行う「日本を健康にする!」研究会(会長:矢澤一良氏)は、今年5月に組織名を「(一社)ウエルネスフード推進協会」に変更し、同年5月7日に都内でお披露目会を兼ねたシンポジウムを開催する。これまでは健康産業(健康・栄養食品メーカーなど)と生活者の懸け橋となるプラットフォームの構築を目指してきたが、今後は衣・食・住・環境という、より幅広い視点から健康づくり、エイジングケアの情報を発信していく。矢澤会長が提唱する“食品による予防医学”の考え方を聞いた。


 ―矢澤先生は、講演会などで「食品による予防医学」の必要性を提唱されていますね。

矢澤  一良 氏

 矢澤 人間の身体は日々の食事によって形成されていますので、健康を維持し病気になりにくい身体をつくるには、どんな食品を摂れば良いのか、食生活が鍵となりますが、行政機関は食品で疾病を予防することはできないと言っています。

 これは“予防”という表現は医薬品にしか使えず、食品には表記できないという行政サイドの事情があると推測できます。しかし、これまでの疫学調査や介入試験などからは食生活によって疾病を予防できることがわかってきました。ただし、食事の摂り方は、個人差もさることながら年齢やライフスタイルによって変わってきます。

 たとえばスポーツにしても、卓球選手のパフォーマンスピークは10代、水泳選手はせいぜい20代前半、相撲は30歳過ぎたら“年寄”。ゴルフなら40歳過ぎても活躍できます。身体のなかの老化現象というのは使う部位や臓器によって違います。脳細胞だったら35歳がピークで、あとは減る一方だと言われています。ですから細胞、臓器によって天寿があるかもしれません。個人差によって足腰にくる人もいれば脳に来る人もいます。あるいは血管系や循環器系にくる人もいるでしょう。健康的な食事でこれらの老化を5年、10年遅らせることが重要なのです。

 認知症の発症を10年遅らせることができれば、医療費はかなり減らせることができるはずです。人間の身体は毎日食べたものでできるわけですから、何をどう食べるかの違いによって、病気を未然に防げる人と防げない人とに分かれると考えられます。私は昨年70歳になりましたが、同窓の仲間に会うと、元気な人もいれば、病気がちで家にこもりっきりの人もいます。この個人差は遺伝子だけではなく、日ごろの生活習慣が大きく関わってくるのです。生活習慣のなかでも、とくに影響するファクターが食事です。

 ―最近はブレインフードと呼ばれる機能性食品が開発され、販売されていますが、食品成分で認知機能は改善できるのでしょうか。
 矢澤 糖尿病、高脂血症などの生活習慣病(メタボ、ロコモ)の行き着く先は要介護であり認知症です。国が推進しているメタボ健診のデータを見ると、保健指導を受けた人は受けなかった人と比べて医療費が3割減ったことがわかります。これは行政にとっては非常に大きなことで、受診者全員が保健指導を受ければ、医療費はかなり抑制できることを表しています。保健指導のポイントは食事指導と運動指導ですから、食事の影響が大きいことを意味しています。

 確かに超高齢社会で問題になっている認知症も食事で改善できるかもしれません。脳細胞は35歳を超えると1日に10万個死滅すると言われますので、1年で3,650万個、10年では3億6,500万個にもなります。これによりARCD(加齢性認識能低下)が進み、やがて認知症につながっていくわけですが、脳内の神経回路をつくるシナプス伝達がしっかりできていれば、その進行を遅らせることができるのです。

 シナプス機能を発揮させる栄養成分の1つにドコサヘキサエン酸(DHA)があります。DHAがシナプスの細胞膜のリン脂質に入って細胞膜の流動性すなわちシナプスの柔軟性を高めることで、神経伝達物質のやりとりが活発になります。これがDHAのメカニズムです。脳には血液脳関門がありますが、同じオメガ3系のエイコサペンタエン酸(EPA)は脳内には入っていきません。脳機能を高めるためには、同じ魚油でもDHAが豊富な魚(カツオ、マグロなど)を食べることが必要なのです。ですから、認知症の発症時期を遅らせるためには、伝達機能を活性化させる機能性食品を摂ることも1つの選択肢になるでしょう。

(つづく)

<プロフィール>
矢澤  一良(やざわ・かずなが)
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 研究院教授。1972年、京都大学工学部工業化学科卒業。ヤクルト本社・中央研究所入社、微生物生体研究室勤務。 その後、(財)相模中央化学研究所に入所、東京大学より農学博士号を授与される。2000年、湘南予防医科学研究所設立。02年4月、東京水産大学大学院(現・東京海洋大学大学院)水産学研究科ヘルスフード科学(中島董一郎記念 キユーピー(株))寄附講座客員教授。その後、東京海洋大学「食の安全と機能(ヘルスフード科学)に関する研究」プロジェクト特任教授を経て、現在、ナノ・ライフ創新研究機構 規範科学総合研究所ヘルスフード科学部門 研究院教授。予防医学、ヘルスフード科学、脂質栄養学、海洋微生物学、食品薬理学を専門とする。

 

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