2024年04月25日( 木 )

【統合医療の現状と課題】「病院完結型」医療から「地域完結型」医療へ CAMは予防医療の分野でも重要な役割を担う(中)

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がん拠点病院での免疫療法、厚労省が実態調査

 ただ、免疫療法と称されるもののなかには、有効性(治療効果)が科学的に証明されていない治療法がいまだに多く存在する。効果が明らかになっていない治療法は、当然保険診療として認められず、治療費は患者が全額支払う自由診療として行われている。これらのなかには商業主義で、高額な治療費を請求するケースもある。ネット上で広告されるがん専門クリニックなどでは、温熱療法やリンパ球療法のように効果が確認されていない療法があり、主にクリニックなどで自由診療として施行されている。

 その一方で、厚労省が注視しているのが、高度ながん治療を行う医療機関として国が指定する、がん診療拠点病院や地域がん診療病院で、科学的根拠が明確になっていない免疫療法が行われていた問題だ。報道によれば、一部のがん拠点病院では、「5回実施で157万円と公表している病院もある」(読売新聞)ことから、がん細胞の増殖を抑える免疫細胞を培養して体内に戻す活性化自己リンパ球療法が施行されていたと考えられるが、実態は定かではない。

 拠点病院などは2006年に成立した、がん対策基本法に基づき策定された「がん対策推進基本計画」の1つとして創設されたもの。18年4月1日現在の地域がん診療連携拠点病院は348施設。都道府県がん診療連携拠点病院は50施設。これに、がん診療連携拠点病院などを加えると現在434病院が指定されている。厚労省が事態を重く見たのは別の理由もある。拠点病院の指定を受けていた群馬大学病院で、10年から14年の間に、腹腔鏡による肝臓切除手術を受けた患者8人が相次いで死亡した事故を受けて、厚労省が、がん拠点病院の指定要件の見直しを進めているからだ。

 厚労省検討会の議論では、医療安全管理責任者の配置や、専従の医師・薬剤師らを医療安全管理部門へ配置させることを新要件に盛り込む方針が示されている。安全性が確認されていない治療法は、排除される方向にあり、要件見直しを進めるなかで、保険外診療の実態を探る狙いもある。

 厚労省が17年10月に実施した「保険適用外の免疫療法に関する実態調査」(対象:拠点病院など434施設)では、保険外の免疫療法を行っていたのは84施設で、うち79施設は保険診療を目指す臨床研究として行われていた。残り5施設は、個別の症例の適応などを考慮して医師の判断で行っていたが、このうち1施設は院内の倫理委員会の審査を行っていなかったという。

統合医療的治療の免疫学的評価を

 免疫療法は、がん治療の有望な手段と見られているが、がん治療にともなう副作用・合併症・後遺症による症状を軽減させる「支持療法」としても期待されている。

 18年3月9日に閣議決定された「第3期がん対策推進基本計画」では、免疫療法の科学的根拠の形成に努めることや、免疫療法に関する適切な情報を患者や国民に届けるための情報提供のあり方を検討することが明記されるなど、免疫療法の確立と普及が推進計画の柱に据えられている。このため、一般のクリニックやがん拠点病院の違いに関わらず、治療手段に用いる際のルールや支持療法としての枠組みづくりを早急に整備する必要があるだろう。その前提には、科学的な評価法の確立が必須であることはいうまでもない。

 とくに、統合医療のなかで免疫療法を施行するケースでは、免疫学的エビデンスのしっかりした統合医療的治療法を選別して、これを既存のがん治療に組み合わせることが重要となる。統合医療という新たな集学的治療によって、がん治療の効果を高めていくためにも、がん患者の免疫学的モニタリングが不可欠となる。

 この点について、(一社)日本統合医療学会で免疫部会長を務める赤木純児医師(熊本県・玉名地域保健医療センター院長)は、「当学会は、統合医療的治療法を免疫学的に評価し、いかにすれば免疫力をさらに増強することができるかに最も熱心でなければならない立場にあるが、現状では統合医療的治療が実際に免疫を改善するというエビデンスを出していく体制が整っているとは言い難かった。統合医療の発展ばかりではなく、がん治療の成績向上のためにも、日本統合医療学会内に免疫部会を立ち上げて、統合医療的治療の免疫学的評価を行い、それに基づいてエビデンスのある統合医療的治療を既存のがん治療と組み合わせていくことは大変有意義なことだと考えている」と話す。

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(つづく)
【取材・文・構成:吉村 敏】

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