2024年04月26日( 金 )

中国人投資家のインバウンド戦略に期待 中華メディア、仲介会社など相次いで提携(前)

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(株) LIFULL
(株)ライフル ライフルホームズ事業本部 売買事業部
不動産投資ユニット長 岡崎 健治 氏

ライフルのライフルホームズ事業本部 売買事業部 不動産投資ユニット長の岡崎健治氏

 不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME'S(以下、ライフルホームズ)」などを運営する(株)LIFULL(以下、ライフル)は、中国人不動産投資家向けのサービスを本格的に推進する。4月19日・20日には深圳(シンセン)で富裕層向けのセミナーを行い、好評を博した。すでに、中国の大手メディア「人民日報海外版」の日本版「人民日報海外版日本月刊」を発行する日本新華僑通信社、中国最大級の不動産仲介会社「链家(Homelink)」、台湾有数の不動産仲介会社「台湾房屋」とそれぞれ業務提携し、中華圏の不動産インバウンド投資を促進する体制整備した。

 現在は、東京と大阪の物件を中心に紹介している。ライフルホームズのクライアントには中国人不動産投資家の需要を見込み、中国国籍の営業マンを雇用している動きもあるという。ジョーンズ ラング ラサールの資料では海外投資家による日本国内不動産へのインバウンド投資は増加、2017年は1兆580億円と対前年比で約2倍の伸びだ。今後の中国人不動産投資家のインバウンド戦略についてライフルのライフルホームズ事業本部 売買事業部 不動産投資ユニット長・岡崎健治氏に話を聞いた。

中国の大手メディア、日本新華僑通信社と提携

 ――今回、日本新華僑通信社との提携に至った狙いは何でしょうか。

 岡崎 ライフルホームズのクライアントは日本の不動産業者ですが、国内でパイを奪い合うだけでなく、海外に販路を拡大したいというニーズもあるため、これにお応えすることが狙いです。日本新華僑通信社は「日本新華僑報」を発刊し、「人民日報海外版」の日本版「人民日報海外版日本月刊」も併刊しており、中国国内でも信頼され、知名度の高いメディアであることが強みです。そこで、その知名度と人脈をフルに活用し、中国人不動産投資家を集客してもらうことを期待し、今後の日本不動産ビジネスの売買で両社の発展とシナジー効果が期待できると考え、業務提携に至りました。

 これまでも中国とは、最大級の不動産仲介会社・链家(Homelink)と提携しており、日本の不動産への投資を検討する中国人不動産投資家に対して、サイト上および対面の営業活動において、日本の物件を紹介しています。ほかにも、中国のポータルサイトとの提携も検討中で、実現するかはわかりませんが、各国の大手のメディア、不動産業者との提携との打ち合わせを適時行っています。少しずつアジアのチャンネルを増やしています。

 ――業務スキームとしては、どのようになりますか。

集客・運営スキーム
※クリックで拡大

 岡崎 ライフルと日本新華僑通信社と共催による不動産投資セミナーを開くことで、ライフルの不動産投資領域で取引のあるデベロッパーさま、不動産業者さまなどと、中国人不動産投資家が直接商談できる場を設けます。中国人不動産投資家が、日本国内の豊富な物件のなかから投資ができるようなスキームを描いています。ライフルには国際投資グループがあり、中国国籍の社員も在籍しており、彼らが翻訳・通訳、不動産投資コンサルも担当し、物件引き渡し後、日本の不動産を購入した中国人投資家のために、プロパティマネジメント(PM)を行います。所有は中国人不動産投資家ですが、管理は不動産オーナーに代わってライフルの専門スタッフが代行します。

 これまでにも中国人不動産投資家に限らず、香港や台湾、シンガポール、インドネシアの投資家の方をサポートしています。販売から管理までワンストップのサービスを展開できることが、このスキームの強みです。イベントを通じて、中国人不動産投資家とマッチングする機会が増え、安心して投資ができる環境が整えば、インバウンド投資の可能性はさらに広がります。

 今、中華系以外でも、インバウンド戦略は狙っていますが、かたちになっていないのが実情のため、インバウンド投資事業としては優先順位を考えながら進めています。

中国人不動産投資家の日本への関心は高い

 ――優先順位と言いますと、具体的には?

 岡崎 各都市のマンション/高級住宅の価格水準比較では、2017年時点の東京を100とすると、タイのバンコクは24.2で、マレーシアのクアラルンプールも同じくらいです。タイやマレーシアの不動産投資家からすれば、東京に投資するよりも、自国の方がインカムもキャピタルを狙いやすい状況です。ですから自国の不動産が東京よりも高い都市の不動産投資家をターゲットにしたほうが、話は進みやすいのです。

 そこで、価格水準の高い順から都市を言いますと、香港187.1、上海132.6、台北122.3、シンガポール110.2、北京105.8です。いずれも調査出典は日本不動産研究所です。このうち香港に関しては、ライフル単体でもセミナーを開催し、サービスも独自にできる環境が整っていますが、他都市については提携パートナーと協力体制を取ることで、よりインバウンドサービスをクライアントさまに提供できると考えています。ただ、香港についてもよりサービスなどを深化させるため、パートナー会社との検討を進めている最中です。

 ――中国を始めとする中華圏の、不動産インバウンド投資の現状はどのようなものでしょうか。

 岡崎 マンション/高級住宅の価格水準比較で14年時点での東京を100とすると、台北160.7、シンガポールが149.6でしたが、17年と比較すると台北、シンガポールとも下落しています。どこの国もそうですが、自国の不動産価格が下落すると、海外不動産への投資マインドが冷え込む傾向にあります。それに比べて上海と北京は上昇傾向が続いていますので、中国本土の投資マインドは強いと見ています。

 中国のFang Holdings Limited社が公表した「2016年中国人海外不動産購入推移レポート」によると、16年では中国海外商業、住宅不動産投資額が約3兆6,900万円を超え、前年より53%増加し、最高記録を達成しています。住宅以外にもリゾートホテルやオフィスビルの購入も増え、土地の購入も15年より44%増加しました。中国商務部の発表では、今後10年間の中国海外不動産投資額は、約111兆6,100億円を超える見込みです。

 ライフルの海外セミナーの開催場所は、台湾や香港の回数が多く、北京の回数は少ないですが、その反面、引き合い回数は多くいただいています。さらに、中国人がフォーカスしている都市は、これまで圧倒的に東京が多かったのですが、直近でいうと大阪にもニーズがあることがわかりました。そこで、物件説明などのコンシェルジュサービスを大阪でも展開しています。実は、ライフルホームズでは、物件を問い合わせされた方を送客するというビジネスモデルですが、相手が中国人であれば、大阪の地元不動産の方は言語の問題で困ることもあり、そこで我々が翻訳・通訳のサポートをしています。

 最近の注目点では、ライフルホームズとタイアップしている不動産会社のなかには、中国国籍の営業マンを雇用されているところも増えています。

 ――実際、中国人不動産投資家の日本不動産の購入意欲は、どのようなものでしょうか。

 岡崎 前出の同レポートでは、投資したい国割合を見ると、アメリカ27.7%、豪州19.37%、カナダ13.89%、そして日本が第4位で13.16%です。前は、豪州とカナダで不動産投資をすると永住権を付与していましたが、現在、厳しくなっています。また、最近の米中対立により、上位3国地域の投資熱が下がり、日本不動産に目が向いています。

 ――中国人不動産投資家が購入する価格帯は、どのあたりなのでしょうか。

 岡崎 以前は4,000万円以下の割合が多かったのですが、最近は1億円以上の物件も動いています。当初は、セカンドハウスとしての住宅用マンションが多かったのですが、普通の低層の億ションやビル1棟を購入されるケースも増えてきており、幅が広がりつつあります。東京、大阪以外のエリアでもサービスを提供していきたいと考えていますが、我々のマンパワーが追い付いていないのが実情です。

 ――中国人がほしい日本の物件は、リゾート、ゴルフ、東京・大阪以外の大都市など、さまざまあります。提携先を増やして、中国人不動産投資家とのビジネスを拡大する考えはいかがですか。

 岡崎 その考えはあります。ライフルホームズは文字通り、住宅部門に注力しており、オフィスビル、リゾート、ホテル、ゴルフとのクライアントとのお付き合いがあまりありません。クライアントさまのお付き合いの幅を広げていきたいです。

(つづく)
【長井 雄一朗】

(後)

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