2024年04月20日( 土 )

【検証】日本政府、経団連などが牽引するもSDGsはまだ道半ば

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日本のSDGsモデル構築目指す

 2015年9月に国連で採択された「SDGs」(持続可能な開発目標)とは、30年までをターゲットにした17の分野からなる開発目標(指針)だ。「誰1人取り残さない」をキャッチフレーズに、「持続可能で調整と包摂性のある社会の実現」を目指している。2000年から15年までをターゲットにした「MDGs」(ミレニアム開発目標、2000年採択)の後継目標であり、MDGsが主に途上国を対象にした目標だったのに対し、SDGsはすべての国を対象にしている。SDGsでは、各国政府に限らず、自治体や企業、一般市民など「すべてのステークホルダー」を参画主体とし、世界のあらゆる課題解決に貢献することを掲げている。

 日本政府は16年5月、総理を本部長とするSDGs推進本部を設置し、アクションプランの策定やジャパンSDGsアワードの創設のほか、SDGs未来都市(29都市)、自治体SGDsモデル事業(10都市)の選定などを実施。SDGsを「自治体の地方創生実現に資するもの」と位置付けている。日本政府は、日本のSDGsモデルを構築し、20年のG20サミット、東京オリンピック・パラリンピック、25年の大阪万博などで情報発信する考えで、アジアやアフリカなどへのビジネス展開も視野に入れている。

 自治体のSDGs推進、地方創生などに向け、18年8月に「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」が設立された。会長には、北九州市の北橋健治市長が就いている。このプラットフォームは、SDGs未来都市などに選ばれた自治体と企業、大学、NPOなどの民間団体が連携し、課題とその解決策などに関する情報交換や、ステークホルダー間の連携などを促進し、SDGs推進による地方創生につなげるのが目的。テーマごとに16の分科会が設置され、活動が行われている。都道府県や市町村、民間団体など645団体(19年3月末現在)が参加している。

IoTやAI、ロボットなどで新たな社会を

 日本の経済界もSDGsの推進に乗り出している。(一社)日本経済団体連合会は17年11月、「企業行動憲章」を改定。「イノベーションを通じて社会に有用で安全な商品・サービスを開発、提供し、持続可能な経済成長と社会的課題の解決を図る」を始めとする10の原則が盛り込まれた。この改定では、「Society 5.0」の実現を通じたSDGsの達成が柱になっている。

 「Society 5.0」とは、内閣府が示した、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合したシステムによって、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の新たな未来社会を指す言葉。「狩猟社会」(Society 1.0)、「農耕社会」(Society 2.0)、「工業社会」(Society 3.0)、「情報社会」(Society 4.0)に続く、人類史上5番目の新しい社会とされている。大企業を中心とする経団連は、IoTやAI、ロボットなどによるイノベーションによって、SDGsを推進することを明確に打ち出しており、SDGsに関する特設サイトも開設する入れ込みようだ。大手企業すべてが対応しているわけではないが、少なくとも、CSRの世界では「SDGsは共通言語」として定着している。

 経団連がSDGsを重視したのには、ESG投資の拡大が背景にある。ESG投資とは、SRI(社会的責任投資)として、企業の「環境」(Environment)、「社会」(Social)、「企業統治」(Governance)を考慮する投資。企業への投資の是非を判断する際、財務情報だけでなく、環境対策やダイバーシティ、取締役の構成などのCSR(企業の社会的責任)も投資基準になる。

 世界全体のESG投資の運用額は2,500兆円を超えていると言われ、日本でもGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資にシフトしている。企業がESG投資を受ける際、SDGs推進の有無は大きな意味をもってくる。GPIFでは「GPIFによるESG投資と、投資先企業のSDGsへの取り組みは、表裏の関係にあるといえる」としており、企業のSDGsへの対応が投資基準になっている。

対応遅れる中小企業SDGs偽装問題

 大企業ではSDGsへの理解、対応が進みつつあるが、中小企業を見ると、SDGsに対する認識、理解不足が際立つ。経済産業省関東経済産業局が18年10月、1都10県の中小企業(サービス業、製造業、建設業、小売業、卸売業など)を対象に実施したウェブアンケート調査によれば、「SDGsについてまったく知らない」と回答した企業が約84%に上る一方で、「SDGsについてすでに対応・アクションを行っている」企業は1.2%に止まった。回答のあった企業のうち、6割以上が従業員5人以下の零細企業という会社規模の偏りはあるが、100社中1社程度しかSDGsに対応していないのは、お寒い状況だ。

 SDGsへの対応は、それ自体は難しいものではないが、当然“何でもアリ”ではない。「SDGsウォッシュ」という言葉がある。企業などがSDGs推進のために既存の活動と目標との紐付けを行い、あたかもSDGsの達成に貢献しているかのように装っているが、実態として“内容がともなっていない”“大げさに表現している”ケースなどを指す。SDGsへの貢献は、義務ではなく、自発性に委ねられている。チェックする仕組みなどもないので、こういう本末転倒なことが起こり得る。ウォッシュ回避のガイドラインが策定されているが、根絶は難しい。

 「SDGsに対応する(取り組む)」とは「SDGsに貢献する」ことであり、「具体的な成果を出す」ことだ。国や企業などのステークホルダーにその意思と誠実さがない限り、壮大な「うわべだけのキレイごと」で終わってしまうだろう。    

【大石 恭正】

 

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