2024年04月28日( 日 )

参議院議員・経済評論家 藤巻健史氏ブログ~異次元緩和は財政危機を緩和するための「飛ばし」

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 NetIB-Newsでは、本日より参議院議員で経済評論家の藤巻健史氏のメルマガを掲載する。今回は、兄・幸夫氏と日本の財政・金融について。

(1)故幸夫が私に書いてくれたこと(藤巻兄弟の大人塾。より)-DNAと感性は

 藤巻兄弟って、本当に兄弟?そんな質問が時々、編集部(朝日新聞土曜版be)に寄せられるらしい。

 体格が違うからか? しかーし、フジマキも昔は細かったのである。伊勢丹に入社したころはベルトの端が、後ろに回っていたぐらいだ(ダサイ!)。細かったころの服は、みんな兄貴にあげてしまった。

 思えば兄貴は、昔から地味だった。大学時代の部屋には、本ぐらいしかなかった。色気は全くなし。よくハゲも作っていた。だから銀行に就職して、米国留学前に婚約者を急に連れて来た時はビックリした。今は亡き父も「アヤ子さん、なんで健史と?」と、不思議がってた。

 留学後、兄貴はロンドンに赴任。英国文化に触れて、少しはおしゃれになるかなと思ったが甘かった。相変わらず靴は磨かず、カバンはいつも紙袋(しかも粘着テープ貼りで有名!)だった。「そんなヒトとは。一緒に歩きたくなーい」と、思ったこともある。

 でもフジマキは、兄貴にファッションについて、アドバイスを続けた。なのに、一向に向上しないのはナゼか? 思うに、DNAと感性は関係ない。感性は自ら育てるもの。美しいものに興味が有るか、無いかの問題なのだろう。

 それにしても、兄貴のスタイルの一貫性はすごい。ヒトの目を全く気にしない生き方も、もしかしたら一つのファッションかもしれない。そう、自分の軸を崩さない生き方こそ、真のファッションなのだから。

(2)日本の財政や金融

 皆様ご存知かもしれませんが、私は、日本の財政にかなりの危機感を持っています。第1回目は「日本の財政や金融」について、現在の私の見方を書いてみたいと思います。

 日本の財政は世界最悪です。対GDP(国内総生産)比でみると日本は236%。財政危機がしばしば話題になるギリシャ、イタリアよりもはるかに悪いのです。

 対GDP比で比べるのは、「どのくらいの浸水量で船が沈むのか?」の答えと同じです。同じ浸水量でも「タンカーは大丈夫でも漁船は沈没」するのです。

 浸水量は借金総額、GDPは船のトン数です。税収はGDPとほぼ比例しますので「借金額と税収」の比と考えてもいいでしょう。

 格差論で有名なトム・ピケティはその書の中で「我々は日本の政府責務のGDP比や絶対額を毎日のように目にして驚いているのだが、これらは日本人にとって何の意味ももたないのか、それとも数字が発表されるたびに、みな大急ぎで目を逸らしてしまうのだろうか。」と言っています。

 なぜ日本人は鈍感なのか? ギリシャ、イタリア、フランスは通貨ユーロを使っています。ユーロは欧州中央銀行しか刷れず、イタリア、ギリシャ等の中央銀行は政府のお金が足りないからといってもユーロを刷ることができないのです。お金が足りなければIMFその他からお金を借りねばなりません。

 貸してくれなければ資金繰り倒産なのです。だから大騒ぎなのです。

 しかし日本は足りないお金を簡単にすることができます。実際に異次元緩和と称してお金を大量に刷っているのです(=正確には日銀当座預金を増やす)ですから毎年大赤字でもお金が足りなくなることはないのです、ただし、今のところは、という話です。

 「お金が足りなければ刷ればいい」で何ら問題がないのならば、政府は税金を国民から取る必要が無くなります。無税国家の成立です。常識的に言ってそんなことはあり得ないのはお分かりかと思います。

 日銀が国債を買い取り、紙幣を刷り続けた(=正確には日銀当座預金残高を増やした)結果、日銀のバランスシートは巨大になりました。

 1989年と比べて増えたのは資産サイドで保有国債、負債サイドでは日銀当座預金です。

 現在、日銀のGDP比は102%、米国の中央銀行は20%ですからいかに日銀がメタボかわかります。

 日銀の負債はほとんどが発行銀行券と日銀当座預金ですから、日銀は経済規模に対して尋常ないほどにお金をばらまいてしまっているのです。

 このままいけばインフレ進行です。私が金融マンだった頃、日銀が行っていた「伝統的金融政策」(=景気が良い時は政策金利を上げる。悪い時は下げる)時代ならば日銀は「政策金利をゲル」というインフレ抑制策を持っていました。だからインフレになっても心配する必要はなかったのです。

 しかし、日銀は「異次元緩和」という非伝統的金融政策を開始してしまったためにインフレ抑制の手法を失ってしまいました。私が国会で何度、質問しても満足な回答をしてくれません。方法がないのですから回答しようがないのです。

 財政危機を回避するために「異次元緩和」という「飛ばし」を行いました。

 日本得意の危機先送りです。異次元緩和とは私が金融マンの時には行っていなかった日銀の長期国債の爆買いです。

 そのせいで長期金利は急落しました。日銀が国債市場でモンスターになり腕力で長期金利を強引に押さえつけるなどは計画経済そのものです。

 ちなみに株式市場でも来年末には日銀が日本最大の株主になる勢いです。

 計画経済は、しばらくはうまくいっても、膿が大きくなり、いずれ破裂します。

 地銀の経営危機、年金の危機、口座の改革の遅れ(ゾンビ企業が低金利で生き延びる)など計画経済のツケが明らかになり始めています。

 このままいけば、ハイパーインフレとなり、その鎮静策として日銀倒産の可能性も捨てきれません(もちろん中央銀行は社会の必須インフラですから新しい中央銀行は作られます)。

 ドイツも終戦直後、元の中央銀行ドイツ帝国銀行をつぶし新しい中央銀行(ブンデスバンク)を創設しました。

 なおドイツは戦争で供給施設が破壊されたわけでもないのにハイパーインフレが起きています。

 この事態を軽視してはいけません。「年金2,000万円問題」と同様、政府・日銀は事実を隠しています。国民が不安になろうとも、事実は事実として開示し、国としてどういう風に危機に対処するかを、国民が英知を出しあい検討すべき時期にきていると思います。

 その結果、政府が頼りにならないと思えば、自助努力で自分を守る必要が出てくるかもしれません。その第1歩は真実を知ることです。大本営発表を最後まで信じた挙句、再起不能の事態に突然陥るのは避けるべきです。

 市場原理は偉大です。円安によって日本は必ずや再生します。しかし数年間は苦しいでしょう。当面は防衛策を考えることが重要だと思います。

 火災の発生が高いと思ったら、火災保険をかけるのと同じように、万が一の時のために保険をかけておくべきです。これだけ財政が悪く、日銀がメタボなら備えすぎということはないと思います。火災保険をかけて火事が起こらなければ「わ~、よかった」と思うのがふつうです。「火災保険料、損した」と思う人はいないはずです。

<プロフィール>
藤巻 健史(ふじまき・たけし)

 参議院議員。日本維新の会政調会長代行。元モルガン銀行(現JPモルガン・チェース)日本代表・東京支店長。元ジョージソロス氏アドバイザー。1974年に一橋大学卒業後、三井信託銀行に入社。ケロッグ経営大学院を修了し、MBA取得。モルガン銀行東京支店長、ジョージソロス氏アドバイザー、一橋大学や早稲田大学の講師、金融庁審議会専門委員などを経て、2013年7月参議院議員に。

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