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2019年07月02日 15:08

建設用の高力ボルトはどこへ消えた?(後)

各社の状況は

 高力ボルトの不足が顕在化する中、各社の状況はどうなっているのであろうか。供給側であるT社は、「もともと各メーカーの高力ボルト生産自体はすでにフル稼働に近い状態でしたし、その状況は今でも変わりません。高力ボルト不足に伴って新たな生産ラインの増設をしないのかという声もありますが、オリンピック後の都心再開発が一通り完了すればやがて需要は落ち着くでしょうから、そこまでは考えていません」と話す。市場の高まりが一過性のものであるという見解から、今のところ同社を含む各ボルトメーカーからは、新たな生産ラインの増設を検討しているという声は聞かれない。

 急場を乗り切るための方法として、福岡市内の建設会社R社は、「100億、200億の物件を手がける大手建設会社に協力してもらっています。大手企業は商社をもっているので、この方法だと比較的入手しやすいのではないかと思います」と話す。

 両社の間に長年の取引で得た実績と信頼関係があればこその調達方法ともいえるが、同様の方法で調達できる企業ははたしてどれくらいあるのか。鉄骨建設業協会からは、「必要量が少なければ企業間でシェアすることは可能かもしれないが、うちの協会員は大型工事が多いので、ボルトすべてをシェアによって賄うのは難しいのではないだろうか」という声も聞かれた。前述のS社のように、中小企業の多くが自前で調達することが難しく、単発の工事でボルトが必要だという場合はなおさら厳しいという声を聞くと、R社のような企業はごくわずかともいえよう。

国交省による見解~需給双方で適切な発注を

 国交省の担当者は、「首都圏におけるオリンピック需要、都心再開発や、首都圏以外の各地方都市部における再開発が旺盛であることを背景に、重複発注や水増し発注が行われ、ボルトメーカーの持つ生産量をオーバーしてしまったことが実態のようだ」とコメントしている。

 また、それ以外の要因として人手不足を要因に挙げ「型枠職人が減っていることから、建築構造がRC造からS造にシフトしたことや、溶接工に従事する人出が減ったことから、接合を溶接からボルトに変換したこと。これらが重なり、ボルトの需要が高まったのではないか」としている。

 一部で挙がっていた、自動車・機械業界が旺盛であり、資材がそちらに流れたことが不足の要因なのではないかという意見については、「鋼材関係はもともと自動車・機械業界に7~8割、残りが建設業界という割合で供給されており、今回のヒアリングでも以前と変わらぬ割合で供給されているという声が挙がったことから、要因としては考えにくい」とコメントした。

 今年3月に行われたアンケートでは、「取り置き量を増やしたり、発注量を増やしたりしているか」という問いに対し、「行っている」と答えた企業が15%、「行っていない」と答えた企業が85%という結果が出た。この結果について担当者は、「調査期間が3月だったことを踏まえると、それ以前には行っていた業者が実際には多かったのではないか」としている。

 一連の事態に対して国交省は5月17日、業界共通の発注様式を作成し、各建設団体を通じて業界全体に周知徹底を要請している。その理由として、
(1)昨年10月と今年3月に行った調査の結果、納期は依然として長期化しており、需給動向は依然としてひっ迫していること、
(2)業界内でこれまで行われていた発注形態が曖昧であることが判明。事態の正常化を図るためには、需給双方の発注様式を統一することが必要であると判断した、としている。

 (2)に関しては、これまでボルトの発注に関しては簡単なメモ書き程度で、実際に使う用なのか備蓄用なのかも分からない状況であったり、発注者がメーカーに対してFAXを送信したとしても、メーカー側がそれを受けたかどうかも分からないような状況が散見されたとのことだった。

事態の鎮静化を図るために

 事態の鎮静化を図るための方法として、海外製品を導入する、あるいは海外製品を取り扱う機会を増やすために、高力ボルトの基準を見直すことはできないのかと提案した。

 海外製品の導入に関しては、「すでに国内市場に入ってきているようだが、実際の建築現場で使用するためには、JIS規格もしくは国交大臣の認定を受けた製品しか使えないため、市場に流通している数はごくわずか」という声が聞かれた。

 今後も不足している状況が長期化するようであれば、海外製品の流通量を増やすといった選択肢が考えられよう。しかしそのためには、今の日本の品質基準をパスできるような高品質なものにしなければならないが、「国内の建設会社や設計事務所のなかには、海外製品を取り扱うことに対してのアレルギー反応みたいなものがある」という声もあり、市場への流通は限定的になるのではないかという見方もある。

 品質基準の見直しについては、「厳しすぎるともいわれる品質基準のおかげで、日本の建築物は耐震性や安全性に優れていると世界的にも評価されている。今回の事態は品質基準そのものが悪いわけではないので、一過性の事態に対してわざわざ見直す必要はない」という声が多数聞かれた。一方で、「JIS規格にせよ大臣認定品にせよ、検査機関として認められるためには国交省の認可が必要だが、その認可をする団体には国交省からきた人間がいる。彼らにも利権があるでしょうから、そう簡単に見直すという選択肢は出ないでしょう」と話す企業もいた。

 ある関係者は、「今回の事象を普段の生活に置き換えると、スーパーに行ったらいつも置いてあるはずの卵がないようなものだ」とたとえ、「卵はスーパーには置かれていないけど、実は誰かが買い占めて独り占めしている。それも相当な量を」と話した。関係者のたとえが正しいとすれば、高力ボルトは今、きっと誰かがどこかで大量に買い占めて保有しているのであろうか。そうこうしているうちに東京オリンピック需要、都心再開発や都市部の再開発需要などが収まれば、やがてモノ余りが生じ、今度は市場で大量にお目にかかる日が来るかもしれない。

(了)
【長谷川 大輔】

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