2024年04月19日( 金 )

どうする?どうなる?社会保障(3)

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社会保障の専門家に聞く

伊藤 周平 氏
鹿児島大学法文学部社会保障法専攻教授

安心して暮らせる社会をつくるには?

伊藤 周平 氏

 病気や高齢など誰にでも起こるリスクを支える社会保障制度は、本当に必要なところで機能していない現状がある。憲法25条に従えば、社会保障は最低限の生活を保障して健康で文化的な生活を営むための制度とされているが、生活保護を受けている世帯の50%以上が高齢者世帯で、今よりさらに年金給付を削減すると、生活保護が増える可能性がある。

 少子高齢化により、後期高齢者医療制度や国民年金、国民健康保険など、給付が多額になる制度で国民の負担が重く、財政が厳しい。後期高齢者医療制度は、病気になるリスクが最も高い年金生活者が加入者となっている。国民年金や国民健康保険は、以前は農林水産業をしている人が多かったが、今では年金生活者や非正規労働者が多くを占めており、財政基盤が弱い。

 社会保障は、リスク分散ができる仕組みだ。国の税金の使い道を見直して財源を充てて、年金ごと、医療保険ごとに制度を分けずに運用することで、維持が難しくなっている制度に給付費用が流れるようにするのも必要ではないだろうか。年金や医療保険が社会保障として機能できるようになれば、国民が安心して暮らせる社会につながる。

 今、日本人は貯蓄に走っているといわれているが、医療や介護が必要になる老後の生活が不安だから多くの人が貯めている。老後のことも安心して暮らせる社会をつくらなければ、消費も伸びないだろう。

すでに年金は高齢者の生活保障になっていない

 「老後に2,000万円が必要」問題では、年金給付が約20万円の夫婦世帯をモデルにしているが、実際には国民年金の月額約5万円で暮らしている高齢者は3分の1にのぼる。また、医療や介護が必要になった場合には、金融庁が出した夫婦世帯のモデルより、さらに多くの費用が必要になる。すでに、年金は高齢者の所得保障にはなっていないということだ。

 25年の最低加入期間で老後の最低限の生活を保障していた年金制度は、1985年改正で加入期間40年の満期で老後の基礎的な所得を保障するという位置づけに変わった。それでも、40年加入の人で月額6万5,000円の支給額だ。2017年から年金の最低加入期間が25年から10年に短縮されたが、国民年金10年加入のみでは月額1万6,000円の支給になる。

 給付を抑制するために導入されたマクロ経済スライドは、本来であれば保障すべき年金収入の低い世帯のほうが、実質的には給付が下がる影響が大きいため、格差の拡大につながっている。病気などで仕事ができない65歳以上の高齢世帯の生活を最低限保障できる年金を導入したら、高齢世帯の生活保護はかなり減るのではないか。

これからの年金制度はどうなるか

 2012年の「社会保障・税一体改革」で、消費税増税は社会保障を充実させるかのようにいわれていたが、消費税が8%に上がったときも、社会保障の充実に使われたのは増収分の1割で、所得税や法人税でも賄われてきた部分を消費税収に置き換える「社会保障の安定化」に、消費税の増収分のほとんどが使われてきた。今年10月の消費税10%増税も同じで、社会保障の充実にはほとんど回らず、医療・介護分野では、参議院選挙後には、むしろ削減が計画されている。

 今年予定されている年金制度の財政検証は、前回2014年の財政検証で厚生労働省が設定していた経済成長が今の日本経済にそぐわない高い値だったため、年金の将来予測を見直す必要がある。そうすると、現役世代の手取り収入額に対する年金額を表す所得代替率が50%を割るような厳しい数字が出て、たとえば年金の支給開始年齢を65歳から68歳に引き上げたり、給付を削減するマクロ経済スライドを物価が下がった時も発動させるなど給付抑制の方針が打ち出される可能性がある。「100年安心プラン」で年金の給付水準を確保するとしてきたため、財政検証の公表が厳しい状況にあるのではないだろうか。

 社会保険料を年金給付に充てる年金の「社会保険方式」は、国民年金で続けるのは限界がある。滞納率が高く、年金の未加入も多いからだ。税で最低保障をしなければ、国民年金は制度としては成り立たない。また企業が運用している厚生年金基金も、これからは制度そのものが少なくなるだろう。

 年金の受給年齢を引き上げることで国民が働く期間を伸ばし、保険料を払う人を増やすことも方法の1つだが、非正規雇用を増やしても年金財政の収入は大きくは増えない。将来も所得代替率50%を維持するためには国費を充てることが必要だ。年金財政が破綻することはないと考えているが、年金給付が削減されたり、負担が大きくなる可能性が高いため、老後の生活を年金で保障するのは難しくなる。

(つづく)

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