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2019年09月09日 11:31

「平成の大失敗」の歴史潮流は少なくとも、あと数十年は続く!(1)

 5月1日の「令和」改元前後では、テレビ・新聞で「平成」の特集が組まれ、「平成」関連の書籍も出版された。その多くは甘ったるい「平成回顧」番組的なものだ。一方ネットには「平成」にまつわる多くの独善的な世界観が溢れた。今、それらと一線を画す一冊の本『平成時代』(岩波新書)が大きく注目されている。著者である吉見俊哉・東京大学大学院情報学環教授に聞いた。

 天皇という1人の人間の人生(「元号」)が「時代」という歴史的な単位を生むと考えるのは幻想である。天皇の在位とは関係なく、冷戦の終わりからグローバリゼーションへと向かって行く世界史的な激動の時代が「平成」であり、日本はこのグローバル化と情報化という2つの大きな波を乗り越えることができず、社会をアップデートさせることに大失敗をした。今の日本に必要なのは、現況に関する冷静かつ正しい認識と迅速な対処である。なぜならば「改元で歴史がご破算になることなどゆめゆめない」からである。

東京大学大学院情報学環教授 吉見 俊哉 氏

「平成ミュージアム」(博物館)を実現させたかった

 ――本書は「平成」関連の多くの書籍のなかでは、ある意味異色といえます。まず、本書をお書きになられた動機から教えていただけますか。

 吉見俊哉氏(以下、吉見) 一言でいえば、自らの歴史的失敗(「平成の大失敗」)を問い返す「平成ミュージアム」(博物館)を1冊の本のなかで実現させたかったのです。この本の章構成はとても単純で、第1章が平成の経済、第2章が平成の政治、第3章が平成の社会、第4章が平成の文化です。同時に、それらは「平成ミュージアム」(博物館)の1階、2階、3階、4階を意味しています。

 あとほど、それぞれの階の詳細を私がキュレーター(作品収集や展覧会企画という中枢的な仕事に従事する博物館学芸員)になってご案内申し上げますが、たとえば、1階ではバブル崩壊、金融崩壊、家電崩壊などの展示コーナー、2階ではリクルート事件、日本新党旋風、民主党政権などの展示コーナー、3階ではオウム真理教事件、アメリカの同時多発テロ(9.11)、格差社会や超少子高齢化などの展示コーナー、4階ではマスメディアの崩壊、アニメやネットカルチャー、Jポップや安室奈美恵、宇多田ヒカルなどの展示コーナーがあります。

修学旅行などを除くとミュージアムに行く機会が少ない

 ――なぜ、「平成ミュージアム」(博物館)をつくろうとお考えになったのですか。

 吉見 2つくらい理由があります。1つ目は、欧米先進国では学校の先生が頻繁に小・中学校などの生徒をミュージアムに引率し、そこで生徒たちは、キュレーターからさまざまな解説を聞いて学習しています。私はこのような校外学習の習慣は、とてもすばらしいと思うのです。

 しかし、いろいろな理由があると思いますが、残念ながら日本では、修学旅行などの非日常の旅を除くと、欧米のように日常的にミュージアムに生徒たちを引率するケースは極めて少ないのが実情です。そこで、せめて書籍を通してでもそれを実現したかったのです。ですから本当は、中学や高校の先生がこの新書を副読本として、単に読書感想文を書かせるのではなく、それぞれの教室のなかでポスター展示でもいいですから、そのクラスなりの「平成博物館」を建設する実験をしてみていただきたいと思うのです。

部分の最適化は必ずしも全体の最適化とは一致しません

 もう1つの理由は、私が国際会議で訪れたスウェーデンのストックホルムで、「ヴァーサ号博物館」というすばらしいミュージアムを見学したことによります。

 ヴァーサ号は1628年に処女航海に出て、ストックホルム港で転覆し沈没。その333年後、海底に沈んでいた、この強大な軍艦は引き上げられ、人々の前にその姿を現した。今日、ヴァーサ号は世界で最も美しく保存されている17世紀の船といわれる。ヴァーサ号は他に類をみないユニークな芸術の宝で、船体は98パーセント原型を留めたまま残され、何百もの彫刻が施されている。

(「ヴァーサ号博物館」公式ガイドから抜粋)

 17世紀初頭、グスタフ2世が統治していたスウェーデンはヨーロッパの大国でした。そのグスタフ2世が建造を命じたのが「ヴァーサ号」で高さ52m、長さ69m、重量1200t、10枚もの帆を掲げることができる3本のマストを備え、64もの大砲が装備されたヨーロッパ一の軍艦です。

 ところが、この巨艦は進水式で大歓声に送られ航海し始めて間もなく、風によって船が傾きはじめ、そのままもとに戻せず転覆しました。これは王国の未来を暗示するような事件でした。実際に1620年代にスウェーデン海軍はさまざまな不運で、4年で15隻もの軍艦を失い、破竹の勢いだったグスタフ2世も、ヴァーサ号沈没から4年後に戦死しています。

 これは国家的大失敗です。当然、船長、船員、機関士など関係者に対し査問委員会が開かれましたが、誰1人罰せられていません。ヴァーサ号の惨事は、一部に致命的なミスがあって生じたのではなく、そもそも計画が巨大すぎ、最初から間違っていたのです。つまり、巨大すぎる船に過大な重装備、高すぎるマスト、すべてが最大になることを望んだグスタフ2世の注文に無理があったのです。

 しかし、上がり調子の大国の国王の命令に誰も正面から異を唱えることなく、技術者は自らの知識を駆使し、与えられた職務の範囲内で王の意向に沿う仕事をしました。しかし、部分として正しいことをいくら積み重ねても、全体として正しいことにはならなかったわけです。

(つづく)
【金木 亮憲】

<プロフィール>
吉見俊哉(よしみ・しゅんや)

 1957年、東京都生まれ。東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授兼東京大学出版会 理事長。同大学副学長、大学総合研究センター長などを歴任。社会学、都市論、メディア論、文化研究を主な専門としつつ、日本におけるカルチュラル・スタディーズの発展で中心的な役割をはたす。2017年9月から2018年6月まで米国ハーバード大学客員教授。著書に『都市のドラマトゥルギー』、『博覧会の政治学』、『親米と反米』、『ポスト戦後社会』、『夢の原子力』、『「文系学部廃止」の衝撃』、『大予言「歴史の尺度」が示す未来』、『平成時代』など多数。

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