2024年04月20日( 土 )

「たまねぎ男」辞任の韓国 大統領のレームダック化は必至(前)

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 チョグク法相の突然の辞任は、韓国社会に衝撃を与えている。無理もない。「検察改革」を掲げていた人物が、あえなく敗退したからだ。なぜ、辞めたのか。理由は簡単だ。世論調査で文在寅大統領の支持率が過去最低を記録し、与野党の支持率が拮抗した。さらに法務部国政監査が国会で始まる。嘘をいえば、処罰される。記者懇談会や人事聴聞会で、チョグク氏は嘘を重ねてきたが、そういうわけにいかない。

「朴槿恵赦免」が切り札

 オウンゴールが相次ぐ文大統領の権威は失墜している。来年の総選挙まで後半年。文政権としては「朴槿恵赦免」を切り札に、野党攻勢を切り崩す作戦に出るだろう。野党は朴槿恵支持派と不支持派に分裂しており、総選挙での野党統一候補を阻止する戦術として、朴槿恵を赦免して街頭に放逐するのが有効だからだ。

 韓国には、嘘に騙される国民と、嘘を見破る国民がいる。チョグク氏は嘘がバレて、退陣に追い込まれた。次は大統領の嘘に気がつく国民がどれほど増えるのか。それが現在の大韓民国の問題である。

 嘘つきの二重人格は、「江南左翼」の特性だ。プチブルの巣窟であるソウル江南区の高級マンションに住みながら、社会主義者を自称する。辞任の弁も「私は焚き付け役に過ぎない」「1人の市民に立ち帰る」と美辞麗句に満ちていた。ヒロイックな自己陶酔に同調した有名作家がいる。コンジヨンさん。韓国フェミニズムの代表的な作家だ。「胸が張り裂ける」。こういう感性の作家を、日本でもある種の人々が持ち上げてきた。

 西江大学現代政治研究所と韓国リサーチらが実施した10月初めの世論調査で、文大統領の国政運営に対する支持率は、すでに32.4%しかなかった。1月の調査では支持率39.1%だった。興味深いのは、政権支持率が比較高く出るメディアリサーチの調査(11日発表)でも、42.5%と最低を記録したことだ。支持率が40%前後というのは、中間層が離脱したことを意味する。昨年、南北首脳会談を実現したころの文在寅バブルは完全に消え去った。

 10月3日に、ソウル光化門広場一帯で行われた保守派の「チョグク退陣」要求集会が分水嶺だった。主催者発表は300万人だが、実質的には50万規模だったと見られている。それは朴槿恵前政権を退陣に追い込んだ「ろうそく集会」以来の大集会だった。

 一方、文政権の支持派は、検察庁前で大衆集会を開いたが、20万人規模であり動員規模は反政権集会を下回った。「チョグク守護」というスローガンが、国民的共感帯を形成できなかったのである。だが、文大統領は「国民の期待は『検察改革』にある」として、チョグクを抱えたまま全面突破の構えを崩していなかった。それが数日後には、崩壊したのである。

(つづく)

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)

 1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は『日本統治下の朝鮮シネマ群像~戦争と近代の同時代史』(弦書房)。

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