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2019年10月22日 07:00

「たまねぎ男」辞任の韓国 大統領のレームダック化は必至(後)

「チョグク事態」を紐解く

 チョグクとは何者か。なぜ、「チョグク守護」だったのか。

 西岡力氏の報告(月刊『Hanada』11月号)が参考になる。チョグク氏はソウル大生時代に「南韓社会主義労働者同盟」(社労盟)の幹部だった人物である。国家保安法違反で逮捕されたが、執行猶予の判決を受けて、大学に復学した。米国留学などを経てソウル大教授になり、文在寅政権の発足とともに大統領民情首席補佐官になった。司法機関を担当する責任者である。国会聴聞会では過去の経歴を問われて、「自由主義者であり社会主義者だ」と答え、注目された。

 文在寅政権は「積弊清算」を掲げる政権だ。「韓国社会を支配してきた主流勢力を交代させる」ことを目的とした政権である。政権の思い通りにならない検察を屈服させるのが、その「検察改革」の本意である。その司令塔としてチョグク氏を法務長官に任命したのだ。しかし、誤算があった。検察総長に任命していたユンソンヨル氏が、チョグク周辺に色濃い疑惑の捜査に着手したのだ。チョグク一家の不正入学や奨学金不正受給、個人ファンドによる錬金術などの疑惑が次々に明らかになったのは、周知の通りだ。

 捜査はチョグク氏の親族に迫ってきた。検察は彼の実弟に対する拘束令状を請求したが、裁判所によって棄却された。この実弟は拘束令状の可否を審査する裁判所の呼び出しを、病気を理由に欠席した。それにもかかわらず、拘束状棄却という「特別待遇」を得た。韓国でも異例中の異例である。これは裁判所の政治的中立性を疑わせる事態に発展した。

 文政権の支持率が30%台に下落したのは、このような検察、司法を取り巻く政治状況の変化と関連がある。日本のテレビや雑誌では、このような「チョグク事態」をかなり詳細に扱っている。一部には「韓流ドラマじゃないのだから」と冷笑する向きもあるが、そうではない。韓国に対して今ほど日本人の関心が向いている時期はかつてなかった。隣国の実情を知るには、絶好の機会なのだ。しかし、注意すべき点が少なからずあるのも事実だ。

 その最大のポイントが、韓国報道の「玉石」を見極める鑑識眼を養うことだ。悪質な報道は排斥し、良質な報道から学ぶべきなのだ。とりあえず私が推奨するのは、月刊誌「文藝春秋」10月号に掲載された道上尚史(前釜山総領事)「韓国を覆う危険な『楽観論』の正体」である。外務省きっての韓国通が読み解く「日韓すれ違い」の本質は、長年の韓国観察に基づくものであり、傾聴に値する。

 同誌11月号では、11月に日本語版が出版される反日批判本『反日種族主義』の主著者・李栄薫氏(元ソウル大学教授、経済史)とのインタビュー記事が注目に値する。李氏は実証主義に基づいた「歴史認識」を披瀝している。私はすでに韓国語版を完読した。慰安婦、徴用工問題など日韓間で論争になってきた諸点に、明瞭な史的分析が見られる。

 私は今年5月『日本統治下の朝鮮シネマ群像』(弦書房)を刊行した。最近、その韓国語版も出版された。日本と朝鮮の近現代は、想像以上に密接に結びついており、日本人と朝鮮人の共同作業があった。しかし、その真相は今もって描かれていなかった。

 戦後日本が堅持してきた国際主義か、文在寅政権の独尊的な民族主義か。日韓対立は今、先鋭な「理念闘争」が背景に進んでいる。ここは目を凝らして隣国を研究し、真相を把握する時期を迎えていると強調しておきたい。

(了)

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)

 1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は『日本統治下の朝鮮シネマ群像~戦争と近代の同時代史』(弦書房)。

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