「外国人400万人時代」の入口で何が起きているか 需要急増、送出国シフト、公的介入の副作用
(弁)Global HR Strategy
代表社員 杉田昌平 氏

2026年、日本の在留外国人はついに400万人を突破する。毎年30万人超のペースで増加するのは、強い需要と豊富な人材供給がマーケットとしてかみ合っているためだ。ところが、そこへ政府が介入し制度厳格化を推し進めれば、違法な外国人労働者をいたずらに増やすことにもなりかねない。そして今後、日本の「移民政策」が俎上に上るとすれば、それはどこで焦点化されるのか。外国人労働者の受け入れ法務を専門とする杉田昌平弁護士に話を聞いた。
日本の需要の急増
外国人増加は加速
──2025年はこれまでになく外国人の「受け入れ」が政治的に焦点化された1年でした。
杉田昌平氏(以下、杉田) 25年を振り返ると外国人雇用分野における最大のテーマは、間違いなく「秩序ある共生」でした。これがテーマとして持ち上がった背景には大きく3つの流れがあります。
1つ目は、就労のために来日する外国人数の急増です。日本に在留する外国人総数は、コロナ禍以降、増加のペースを加速させています。24年末時点で376万8,977人となり過去最高を更新しましたが、25年6月末の時点ですでに395万6,619人となっており、わずか半年間で18万7,642人の増加を見ています。この勢いから考えると、25年末に400万人を超えることは確実です。増加の背景には、日本国内での人材採用が困難になっていること、そして外国人労働者の採用に慣れた企業が増えたことなど、日本側の需要(ディマンドサイド)が急速に拡大している状況があります。実際、コロナ禍前の1年間で在留外国人数が30万人増加した年はありませんでしたが、22年は31万人、23年は33万人、24年は35万人と増加のペースが加速しています。
2つ目は、送出国の構成のパラダイムシフトです。これまで約10年間(15年ごろから25年まで)は、ベトナムが日本への送出国として圧倒的なシェアを誇る「ベトナム一強」の時代でした。しかし、この構図に変化が見られています。製造業や食品製造分野ではまだベトナムが一番多いものの、建設分野ではインドネシアが計画認定件数で首位になりました。全体的な計画認定の構成比でも、ベトナムは約40%まで低下し、インドネシアは約26%まで上昇しています。これは、中国からベトナムへの変化が起きた約10年サイクルと同様の動きであり、今後10年程度は送り出しの中心がインドネシアになる可能性が高いと見ています。
送出国側は、全体として見れば19年から23年にかけて供給力が変わっておらず、堅調に送り出しを続けています。現在も年間370万〜500万人程度の労働供給能力があり、供給がボトルネックになることはありません。一方、先述の通り日本側の需要は増加を続けているため、供給先はベトナムから他国へと拡大を続けています。現在はベトナムを中心に採用を続けている企業も、今後はインドネシアやネパール、フィリピンなど、複数の国に分散して採用を検討することが不可欠となります。
外国人材雇用の「粘着性」
特定国への依存が足かせに
──企業側からは「ベトナム人材の質が落ちた」という声をよく聞きます。その理由として円安によって、日本が外国人労働者の獲得競争で負けているからだとの説明が良くなされます。
杉田 たしかに円安による影響という側面もあるでしょう。しかし、もう1つ、受け入れ側の企業に発生しがちな構造的な要因についても理解が必要です。企業が行う外国人労働者の受け入れにおいては、1つの国に固執する「粘着性」が発生しがちです。その理由は、第一に、社内の指導体制やコミュニケーションが、特定国の言語や教育水準を前提に構築されてしまいがちなためです。第二に、送出機関や現地エージェントとの関係構築には時間とコストがかかり、新たな国でルートを開拓する実務的負担が大きい点です。第三に、現地法人の設立や教育スキームへの投資など、すでに投下したコストへの心理的・経済的な固執が生じる。そして第四に、この傾向は企業体力と強く相関しており、余力の乏しい企業ほど1つのルートに依存せざるを得なくなる。結果として、受け入れ企業は「一度始めた国から、ずっと受け続ける」構造となり、特定の送出国への集中と固定化が進みます。
技能実習制度が本格拡大した10年代前半、日本企業が最初に大量導入した国がベトナムでした。外国人労働者の受け入れ態勢をまずベトナム人で構築した企業が多かった。ベトナム一国に対して日本全体から需要が集中し、しかも年々その需要は増加の一途をたどりました。その結果、日本側の需要に応えるためベトナム側は、これまで落としていた、あるいは送らなかった質の人材までも送らざるを得ない状況に陥り、これがしばしば「質の低下」として日本国内で語られる現象につながっている側面があります。
マーケットへの公的介入
制度の厳格化がもたらすリスク
杉田 そして「秩序ある共生」を大きなテーマにした背景としての3つ目の流れは、外国人労働者に対する強い需要と供給のサイクルに対して、政府が介入し始めたことです。
この介入は、25年5月23日に報道発表された「不法滞在ゼロプラン」から本格的にスタートしました。その後、6月6日には自民党から「国民の安心と安全のための外国人政策 第一次提言」が出され、これが現政権の戦略の基本路線となっています。提言のポイントは多岐にわたり、「出入国在留管理の一層の適正化」(不法就労・偽装滞在の防止、難民認定申請の抑制、入管DXの推進等)、「外免切替手続・社会保障制度等の適正化」「国土の適切な利用および管理」「観光・短期滞在者への対応の強化」が掲げられました。これを受けて、7月15日には、これらの実行を行う組織として「外国人との秩序ある共生社会推進室」(秩序室)が発足しています。
さらに8月には法務大臣の論点整理が公表され、「経営・管理」「留学」「技術・人文知識・国際業務」といった在留資格の悪用防止や見直し、永住許可制度および帰化制度の適正化が具体的に検討対象となりました。「経営・管理」の資本要件(現行500万円以上)については、すでに見直しが実行されたところです。
しかし、先ほども申し上げたように、日本側の需要は増加の一途をたどっています。供給側の送り出しも豊富です。そのように強い需要と供給があるマーケットに行政が介入し制度を厳格化していこうとすると、使用者は外国人労働者の雇用をあきらめるのではなく、また、外国人労働者は日本に来ることをあきらめるのではなく、非正規のルートに「潜る(違法化する)」ことが多くなると考えられます。具体的には、本来の在留目的ではない資格を取得して、目的外の活動を行うというかたちで「非正規化」が進むことです。たとえば今の制度でいえば「留学」の在留資格で、実際には就労を目的として来日するなどということです。
受け入れる企業は、もしこれまでのルートが使えなくなるなどの状況が生じれば、適法な受け入れをいかに続けていくかという大きな課題に直面することになります。政府は労働力が適法なルートによって供給されるように制御に努める必要がありますが、過剰な規制は逆に違法な外国人流入を増大させてしまう可能性があることを踏まえて、バランスのとれた政策決定が求められます。
「移民」とは誰か 日本政府の定義
──移民問題ということがよく言われますが…。今、日本にやってきている外国人労働者は「移民」なのでしょうか。
杉田 移民問題を考えるにあたっては、日本政府が「移民」をどのようなものと定義しているか、そしてそもそも日本がこれまでどのような外国人受け入れの考え方をとってきたのかという、入管法の根幹を理解しなくてはなりません。
入管法自体は、ポツダム緊急勅令に基づき発せられた命令が法律として効力を有するものとされ、1951年に制定された枠組みをもっています。政策的な規定の核心は、「上陸拒否」(誰を受け入れないか)、「在留資格」(誰を受け入れるか)、「退去強制」(誰を追い返すか)の3点に集約されます。
日本の受け入れの基本的な考え方は、一貫して「専門性か非代替性のある人しか受け入れない」という原則に基づいています。これは88年の第6次雇用対策基本計画以来引き継がれている方針であり、同時に「最初から永住者での受け入れはしない」という方針も堅持しています。そして「移民」や「移民政策」ということについては、政府は国会で次のように答弁しています。
2018年、奥野総一郎・衆議院議員の質問に対する安倍内閣の答弁書
政府としては、たとえば、国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策については、専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れることとする現在の外国人の受入れの在り方とは相容れないため、これを採ることは考えていない。
つまり、政府の定義においては、現在積極的に受け入れを進めている技能実習生やその他の「高度な専門性や技術を持つ人」は「移民」ではないという認識です。
「必要性」の台頭とその後の在り方
──では今後、政府が定義する「移民」は、どのようなかたちにおいて論点になると思いますか。
杉田 日本の人口は05年ごろをピークに減少社会に突入しました。かつて人口が増加していた時代には「専門性・非代替性」の基準だけで事足りましたが、人口減少にともない、「必要性」という概念が台頭してきました。この「必要性」を満たすために、従来の高度人材のラインであった専門性のハードルを下げ、セミスキル(中間技能)を持つ労働者を受け入れるための特定技能制度が19年に導入されました。そして今後導入される育成就労制度も、特定技能へつながるルートとして位置づけられています。
重要なのは、この受け入れの仕組み(特定技能や育成就労)が、最終的に永住許可につながる道を開いている点です。これは、以前の厳格な管理体制に比べるとリベラルな設計であり、「頑張れば残れる」仕組みになっています。
私は、短期的、とくに高齢化率の上昇のペースが速い40年ごろまでは外国人労働者の受入れは必要不可欠だと考えています。しかし、40年を過ぎた後も、ワーカー層を含む外国人労働者に対して永住を認める制度を維持するかどうかは、国のかたちに関わる問題として再検討が必要です。私は、現在の日本の社会の反応を見ていると、永住者としての定住ではなく、一定期間滞在した後に母国に帰る「ローテーション型」の受け入れのほうが、社会的な合意を得やすいのではないかと感じています。従って、40年ごろに迎える「需要のピーク」とその結果としての「外国人人口の大規模化」に対し、日本社会がその後どのような長期的な在留・永住のルールを設定するのかという議論こそが、「移民」に関わる国の在り方として、今後数年間で最も深く検討されるべき課題だと思っています。
育成就労制度の施行と
人数枠設定の行方
──具体的な制度変更として、27年4月には技能実習から育成就労への切り替えが行われます。
杉田 育成就労制度の施行に先立って26年にも必要な手続きがあります。まず監理団体が「監理支援機関」として許可を取り直す手続きです。これは26年の上半期、おそらく5月ごろから行われると予想されます。受け入れ企業側も、26年の半ばごろから育成就労制度で採用していく対象をどこに設定するかを検討し始める必要があります。
そして、育成就労の実施に先立って最もセンシティブな論点は、特定技能と育成就労の人数枠(受入れ上限数)の設定です。現在、特定技能の枠は82万人、技能実習生が約40万人いるため、単純に合算するだけでも130万人を超える規模になります。外国人労働者についてとても敏感になっている世論の状況下では、現状として単純に合算しただけの「ブルーカラー労働者130万人受け入れ」という数字であっても、政府は打ち出し方について慎重にならざるを得ないと考えています。
実態経済では人手不足が叫ばれ、外国人の採用は確実に必要とされていますが、一方で、安易な外国人採用が本来行うべき設備投資を遅らせている可能性も指摘されています。今後は、設備投資を適切に行ったうえでもなお不足する部分についてのみ、外国人を受け入れていくという精査が必要になるでしょう。
留学生人材の受け入れと
高度人材が働く場所
──外国人の受け入れの入り口として、技能実習や育成就労といった「労働者」としてのルートと、日本語学校や大学経由の「留学生」としてまず来日し、その後就労するルートがあります。
杉田 ますます需要が高まる外国人労働者ですが、日本社会にとっての安全性という観点からは、留学生として来日し、大卒者として就労する人々を受け入れる方が安全性が高いと考えています。これは、大学を卒業できる層は、一般的に社会資本に恵まれており、生活環境が安定していることから、トラブルや犯罪傾向に至る可能性が低いという傾向があるためです。もちろん、大卒だから犯罪をしないわけではありませんが、重要なのは、受入国である日本に社会統合しやすい人に日本を選んでもらうことであり、また、日本の側も社会統合しやすい人を選んでいくことが重要であるという点です。そのような点から考えて、日本語学校から大学へ進学することを前提とした留学生の受け入れは、社会資本の観点からも望ましいといえます。
また、送出国の所得が上がっていくことを考慮すると、より質の高い人材を留学生として迎え入れるという戦略は、日本にとって有効な選択肢となり得ます。たとえば、中国ではGDPが1.2万ドルを超えたあたりから、技能実習で来日する人が減り、留学が増加しました。これは、留学を入り口として技術・人文知識・国際業務などのホワイトカラーとして来日する人が増えたことを意味します。
ただし、注意が必要なのは、それぞれの地域で高度人材を求めている仕事(需要)がどれだけあるかという点です。大学を卒業した高度人材が地域社会で活躍できる場がなければ、受け入れたとしても定着は難しいでしょう。地方自治体が、人口減少を補うために外国人労働者を受け入れる際も、単に数を追うだけでなく、どのような人材が、どのような仕事に就けるのかを現実的に検討する必要があります。
【寺村朋輝】
<PROFILE>
杉田昌平(すぎた・しょうへい)
弁護士(東京弁護士会)、入管届出済弁護士、社会保険労務士、行政書士。慶應義塾大学大学院法務研究科特任講師、名古屋大学大学院法学研究科日本法研究教育センター(ベトナム)特任講師、ハノイ法科大学客員研究員、アンダーソン・毛利・友常法律事務所勤務などを経て、現在、(弁)Global HR Strategy 代表社員弁護士、社会保険労務士法人外国人雇用総合研究所 代表社員、(独)国際協力機構国際協力専門員(外国人雇用/労働関係法令および出入国管理関係法令)、慶應義塾大学大学院法務研究科・グローバル法研究所研究員。
<COMPANY INFORMATION>
(弁)Global HR Strategy
“Beyond Borders with Compliance 国境を越えるというすべての挑戦を、法が支える世界を目指して”をMISSIONに活動するBusiness Immigration Law Firm。東南アジア・南アジアを中心とした諸外国と日本との間の人の国際移動を円滑に行うための一切の手続を行う。在外経験のある専門家が集まり、企業活動に関わる入管業務や外国人雇用に関する法務・労務を従来の企業法務のレベルで提供することを目的に2020年12月設立。












