アビスパ福岡、劇的勝利で新時代の幕開け。大学生・前田快が導いた「塚原体制」初陣の歓喜

 アビスパ福岡は 8 日、福岡市のベスト電器スタジアムで行われた明治安田 J1 百年構想リーグ第 1 節でファジアーノ岡山と対戦し、1−1で突入した PK 戦を 6−5 で制した。後半途中出場の特別指定選手、前田快(神奈川大)が同点ゴールを決め、暫定指揮を執る塚原真也監督の初陣を白星で飾った。

 2026 年2月8日、福岡市・ベスト電器スタジアム。アビスパ福岡の新たな航海は、雪の舞う寒空の下、1 万人を超えるサポーターの熱気に背中を押され、劇的な一歩を踏み出した。明治安田 J1 百年構想リーグ第 1 節、ファジアーノ岡山戦。そこには、逆境を跳ね返し、未来への希望を抱かせる「新しいアビスパ」の姿があった。 

「百年構想リーグ」という特殊な戦場

 今シーズン、日本サッカー界はシーズン移行に向けた大きな端境期にある。その期間に開催されるのが「明治安田 J1 百年構想リーグ」だ。このリーグは東西 10 クラブずつに分かれた「地域リーグラウンド」で 18 試合を戦い、その後の「プレーオフラウンド」で最終順位を決定する。 

 最大の特徴は、優勝クラブに 2026-27 シーズンの ACL エリート出場権が与えられる一方で、今大会による降格がないことだ。そして、何よりも観客を熱狂させるのが、「90 分で決着がつかない場合は即 PK 戦」という完全決着方式である。PK 戦で勝利すれば勝ち点 2、敗れても勝ち点 1 が付与されるこのルールが、開幕戦からドラマを演出することとなった。 

 激震の船出、塚原監督へ託されたバトン――アビスパ福岡は、この開幕を異例の状況で迎えていた。チーム始動当日、前監督との契約を電撃解消するという激震に見舞われたのだ。そんな混乱のなか、暫定的に指揮を執ることになったのが、昨季までヘッドコーチを務めていた塚原真也監督である。 

 塚原監督は、急な就任にもかかわらず「アビスパがやってきたことをしっかり出すだけ」と、長年築き上げた堅守の伝統を継承。高い位置でのボール奪取(ハント)や攻撃への切り替えの強度を高める指導を、短期間でチームに浸透させた。監督自身にとって J リーグ初采配となったこの日、朝起きたときも「自分でもびっくりするぐらい、変な緊張はなかった」と語り、淡々と、しかし揺るぎない決意を胸にスタジアム入りした。

苦境の前半と、スタジアムを包む熱気

 試合前のスタジアムには雪が舞い、気温も湿度も低く冷え込んだ。しかし、詰めかけた 1 万 849 人のサポーターは、新体制の門出を熱い声援で後押しした。突然の新体制発足という不安よりも、「まずはこの一歩を見届けよう」という前向きな空気が広がっていた。 

 試合は、互いに守備の意識が高い「ミラーゲーム」の様相を呈した。前半、福岡は岡山のプレッシングに苦しみ、思うように前進できない耐える時間が続く。前半 44 分には、コーナーキックから岡山の松本昌也にダイビングヘッドを叩き込まれ、0-1 とリードを許して折り返した。 

救世主・前田快の衝撃的なデビュー弾

 後半、塚原監督は勝負に出る。後半 24 分、特別指定選手である神奈川大学 3 年の前田快(こころ)をピッチに送り出した。指揮官が「得点に絡んでほしい」と期待を込めて送り出した 21 歳が、停滞していた空気を切り裂く。 

 後半 33 分、福岡はペナルティーエリア付近でフリーキックを獲得。橋本悠のキックは一度壁に阻まれたが、そのこぼれ球にいち早く反応したのが前田だった。「気持ちよく足を振り抜いて、枠に入れよう」。そうして放った強烈な右足ボレーは、ポストを叩いてネットを揺らす。デビュー戦での初ゴールという衝撃的な一打に、スタジアムは一瞬の静寂のあと、大きな歓喜の渦に包まれた。 

PK 戦、掴み取った勝ち点 2

 90 分を終えて 1-1。大会ルールに従い、決着は PK 戦へと委ねられた。 J リーグのリーグ戦で PK 戦が行われるのは、1998 年以来 28 年ぶりのことだ。 

 緊迫した空気のなか、福岡は 1 人目のキッカーが止められる波乱の展開となるが、岡山のキッカーも失敗し、勝負はサドンデスへともつれ込む。この極限の状況でも、前田快は 4 人目として登場し、落ち着いてネットを揺らした。最後は 7 人目の前嶋洋太が決めたのに対し、岡山の選手が外し、長い 90 分の先に待っていた劇的な勝利を、PK 決着 6-5 で掴み取った。 

「塚原さんを漢(おとこ)に」若き才能の誓い

 試合後、塚原監督は「勝ち点 2 を積み重ねられたのは非常に大きい」と安堵の表情を見せた。自らの初勝利については「淡々と臨めた」と語る一方、交代策が的中した前田については「彼らしく思い切りフィニッシュしてくれた。素晴らしかった」と手放しで称賛した。 

 一方、ヒーローとなった前田快は、初々しい素顔も見せた。試合前夜は緊張していなかったものの、いざスタジアムに入ると「サインボールを書く手が震えた」という。それでも、その心根は熱い。「塚原さんを漢にすることが目標だった」。そう語り、自らのゴールで監督の初陣を飾った喜びを、全身で表現した。 

次節・セレッソ大阪戦への希望

 劇的な勝利で幕を開けた塚原体制。もちろん、前半の課題や攻撃の精度など、修正すべき点は少なくない。しかし、逆境にあっても折れない「アビスパスタイル」の継承と、前田快のような新しい才能の台頭は、これ以上ない希望の光だ。 

 次節も再びホーム、ベスト電器スタジアムでセレッソ大阪を迎え撃つ。この「勝ち点 2」を自信に変え、さらに進化した姿を見せてくれるはずだ。若き才能と経験豊富なベテランが融合し始めたアビスパ福岡。26 年シーズン、彼らが描く「百年構想」の航海は、まだ始まったばかりであり、どこへ向かうかは、これから描かれていく。 

【森田みき】

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