2024年03月29日( 金 )

在日朝鮮人「北送」から60年 「歴史の転換点」を曲がった文在寅の韓国(前)

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 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権がGSOMIA(日韓軍事情報包括保護協定)を失効させ、「日米の紐帯」から離脱するのが確実になった。今年は3・1独立運動から100年、在日朝鮮人の帰国事業(北送)開始から60年の節目である。東アジアの半島国家として難しい舵取りを迫られる韓国は、日米連携の「海洋国家」同盟から離脱する見通しだ。文在寅政権の「亡国への道」は夜郎自大の自己過信に彩られ、過去の「朝鮮史の失敗」を再現するかのようである。

朝鮮半島から始まった過去の世界事変

 地球上で「世界史的な転換」が起きる時、それは特定の場所での「事変」となって表出する。第二次大戦後、朝鮮半島がその「事変」発生の現場になったことがある。いうまでもない。1950年6月25日、金日成(キム・イルソン)軍がスターリン、毛沢東の支持を得て、南侵を開始した朝鮮戦争である。韓国ではこれを「6・25(ユギオ)」と呼ぶ。この戦争によって世界的な米ソ冷戦構造が確定し、それはソ連崩壊(1991)まで続いた。しかし、東アジアでは中国の軍事拡張、北朝鮮の核武装、韓国の変質によって、自由世界の勝利は完成していない。

 「9」の年には、世界規模の事件が起きる。東アジアでは1919年の中国5・4運動と朝鮮の3・1独立運動が、100年前のメルクマール(指標)だ。今年は中国・天安門事件(1989)から、ちょうど30年目であった。

「香港事変」の世界史的な意味

 その年に何が起きたのか。

 「香港事変」である。香港での反中国デモである。英国の旧植民地として「自由」の味を知る香港は、共産主義中国を侵食し始めた。「香港の自由」は圧殺できない。この世界史的な意義について気づいている人はまだ少ないが、その意味は次第に認識され始めている。来年の台湾総統選挙は、香港情勢の影響を受けて、反中国の民進党候補・蔡英文総統の再選が有力になってきた。

 「身内」だった人間ほど、元「家族」の変化に気づきやすい。たとえば、日本共産党である。戦前期には国際共産主義運動(コミンテルン)一家としてソ連、中国と連携していた政党である。朝鮮戦争の際は、在日本朝鮮人総連合会(以下、朝鮮総連)とともに北朝鮮支援の暴力路線を邁進した。

 その共産党に今年、変化が現れた。

 産経新聞によれば、共産党は11月4日の第8回日本共産党中央委員会総会で示した綱領改定案で、覇権主義を強める中国を「世界の平和と進歩への逆流となっている」と批判した。従来の綱領にあった「社会主義を目指す新しい探求が開始され、人口が13億を超える大きな地域での発展として、21世紀の世界史の重要な流れの1つとなろうとしている」との記述を削除したのである。

 この「共産党の変身」は、東アジアのトレンド変化として見逃すべきではない。16年ぶりの共産党綱領改定は、自由世界が「世界の平和と進歩への逆流」に真剣に対処すべき時期が到来したことを示すものである。

 この潮流(トレンド)変化に気づかず、16年前の「中国繁栄」の幻影に囚われている人々がいる。韓国の文在寅政権だ。日清両国が朝鮮半島で激しく覇権を争っていた19世紀末、李氏朝鮮は新興勢力の日本を忌避し、国運の選択を誤った。中国の現状はすでに「新しい探求」ではなく「進歩への逆流」に堕落したというのに、文在寅政権は「金正恩(キム・ジョンウン)の北朝鮮」と「習近平の中国」を選択しているのである。

(つづく)

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)

 1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は『日本統治下の朝鮮シネマ群像~戦争と近代の同時代史』(弦書房)。

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