2024年04月24日( 水 )

在日朝鮮人「北送」から60年 「歴史の転換点」を曲がった文在寅の韓国(後)

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文明論的著作『反日種族主義』

 11月14日、元ソウル大学教授・李栄薫(イ・ヨンフン)らが執筆した『反日種族主義 日韓危機の根源』日本語版が刊行された。これは日韓100年の歴史の視野に立ち、韓国の現状を批判した「憂国の書」である。私はすでに韓国語版で読んだ。日本語版も再読した。日本の読者にはとりわけ、朱益鐘(ジュ・イクジョン)(ソウル大博士)「もともと請求するものなどなかった/請求権協定の真実」や李栄薫「種族主義の牙城、慰安婦」の両報告が役に立つだろう。

 この本の日本語版序文で、李栄薫が1959年12月14日に第1号船が新潟港から出港した在日朝鮮人帰還事業(北送事業)について言及した部分がある。同事業によって10万人近い在日朝鮮人や日本人配偶者が北朝鮮に向かった。「地上の天国」という朝鮮総連の宣伝に騙されたのである。

 「1950年代後半、日本政府が在日韓国人を北朝鮮に送還すると、李承晩(イ・スンマン)(大統領)の怒りは極に達しました」。李栄薫はこのように記述し、朝鮮戦争を通じて「北朝鮮の実態」を熟知した李承晩が、当時の日本の容共的な行動に怒り心頭に達した点に、改めて注意を喚起した。

 金日成軍が南侵した朝鮮戦争、帰国事業、日本人拉致、そして核開発。東北アジアの戦後を振り返ると、それは「北朝鮮による詐欺劇の連続」だったことに私たちは気づく。その詐欺劇に文在寅政権は再び、加担しているのである。

 「彼らはたとえ共産化しようとしてもかまわない、南北協定を通して統一国家を造らなければいけないと叫んでいます。自由が欠如した朝鮮王朝の歴史が、それによってもたらされた歴史の悲劇がわからずにいます」。

 李栄薫は『反日種族主義』エピローグで、このように韓国社会を批判した。同書は韓国で15万部以上が売れるという異例のベストセラーになった。朝鮮半島は地政学的な意味からも依然として、日本の現在の将来にとって重要な地域である。

 2020年は戦後2回目の東京五輪の年だが、それは21世紀の新しい潮流「インド太平洋時代」と中国が主導する「逆流」が激しく競い合う時代のメルクマールでもある。文在寅の韓国は、金正恩の北朝鮮と陰に陽に連携しながら、対日攻勢を強めるのは確実である。1964年の東京五輪では、北朝鮮選手団が来日し数々の政治的宣伝活動を行った。来年の東京五輪でも、スポーツの舞台を悪用した反日宣伝が行われるのは確実である。

 時代が激しく動くときには、長期的な視野に立ち、歴史の潮流を考察する必要がある。『反日種族主義』が示した文明論的な考察を参考に、新時代を生きる意味を考えたい。

<プロフィール>
下川 正晴(しもかわ・まさはる)

 1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短大教授(マスメディア、現代韓国論)を歴任。現在、著述業(コリア、台湾、近現代日本史、映画など)。最新作は『日本統治下の朝鮮シネマ群像~戦争と近代の同時代史』(弦書房)。

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