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2019年12月05日 09:30

一帯一路と米中貿易戦争(4)

名古屋市立大学22世紀研究所特任教授、大連外国語大学客員教授、国際アジア共同体学会学術顧問、日本ビジネスインテリジェンス協会会長、元東京経済大学経営学部大学院教授
中川 十郎 氏

II.米中貿易戦争

中川 十郎 氏
中川 十郎 氏

(1)米中では通商関係者がワシントン、北京で打開策を交渉中である。しかし、米中貿易戦争は米中の経済、貿易、先端技術、軍事覇権争いの様相を呈しつつあり、解決には、なお時間がかかると思われる。

 既存の覇権国に対し、新興国が台頭し、挑戦するようになると両者が戦争に至る可能性が高くなることを古代ギリシアの歴史家ツキジデスは、アテネの台頭と、それに対するスパルタの恐怖心を例に「ツキジデスの罠」論を展開している。

 1980年代のロシアの軍事力、日本の経済力の台頭に対して、覇権国家の米国は厳しい対応をとった。その結果、ロシアは1980年末に解体。日本は1985年のプラザ合意で米国に円の大幅な切り上げを強硬に要求され、これを受け入れた。以来、日本では30年以上にわたり、デフレが継続し、日本はG7中、GDP経済成長率は最低の1%内外と低迷。実質賃金もこの間、10%低下。購買力平価(PPP)でみると1人あたりGDPは今日、世界で26番目に低下。台湾よりも低位にある情けない状況にある。

 コロンビア大学のノーベル経済学賞受賞者で「ユーロの父」と呼ばれているロバートマンデル教授はこの時の日本の円切り上げに批判的であった。

 世界経済の推移を経済史的に考察すると、

※世界経済発展の軸がユーラシア大交易圏を形成した13世紀のモンゴル帝国から、ユーラシア交易圏を利用して広域の商業で活躍したイタリア商人へ移動。それが14世紀のルネッサンスに結実した。

※16世紀になると発展の軸がポルトガル・スペインに移り、両国が大航海時代に「海」の覇権を握り発展。

※17世紀にはオランダが造船技術と海運で世界経済を圧倒。

※19世紀に入ると英国が世界最大の植民地を擁する大帝国に発展。

※20世紀になると、第一次、第二次世界大戦で勝利した米国が世界経済の中心に躍進した。※注6


 (2)その米国も2008年のリーマン・ショックで経済が下降に転じ、世界経済発展の軸が

 再びアジア、ユーラシア大陸に回帰しつつある。

 それに従い、21世紀の世界経済発展の中心はASEAN(東南アジア諸国連合)諸国、中国、インド、さらにはインドネシアなどアジアに移りつつある。

(3)そのような中、中国が経済、先端技術、軍事面で躍進し、米国に肉薄しており、場合によっては2030年ごろに米国を凌駕するかもしれないことに米国は危機感を覚え、貿易不均衡の是正と、さらに中国の先端技術発展国家戦略「中国製造2025」を標的に貿易、経済戦争をしかけているのが現状だと思われる。

 まさしく「ツキジデスの罠」の経済現代版である。ピーターナヴァロ・トランプ大統領補佐官は著書※注7などで対中強硬論を唱えており、米中貿易戦争は米中覇権争いの様相を呈しつつあり、その解決は容易ではないと思われる。

 米中の関税合戦の結果、米中貿易戦争は世界経済、サプライチェーンへの悪影響が無視できない状態になりつつある。今日、世界130カ国以上の国々にとって、中国はいまや最大の貿易相手国になっており、とくにアジアの国々との経済の相互依存関係がインフラプロジェクト中心に深まっており、米中の貿易戦争の解決が強く望まれている。

(4)この構図はかつて日本が1980年代に米国との貿易不均衡で、日本車の輸出数量自主規制や米国への投資拡大。さらには1985年のプラザ合意で円の大幅切り上げを要求され、その要求を受け入れ、その結果、30年近くにわたり日本経済は低成長にあえぎGDP成長率はG7のなかでも最低で、年1%内外に低迷している事態である。

 当時、筆者は商社駐在員としてニューヨークに勤務中であったが、日米貿易不均衡に怒った米国の労働者が日本製トランジスターラジオや自動車をハンマーでたたき壊す様を目撃した。

 かつて、IBMの大型コンピューター技術関連で日本の三菱電機、日立製作所関係者がFBIのおとり捜査で逮捕され、莫大な損害賠償を米国に要求された。さらにハネウエル社の自動照準技術を盗んだとしてミノルタをはじめ日本の写真機メーカー15社に特許権侵害を提訴され、ミノルタだけでも損失は250億円に達した。※注8

 また、クリーブランドクリニックの日本人化学者2人をアルツハイマーの試料を盗んだとして逮捕。米国は1996年に施行された「経済スパイ防止法」を初めて適用した。

(5)今回はそのようなトランプ政権の不満が大幅な対米貿易黒字を出している中国に向かっているわけである。まさしく歴史は繰り返すだ。

 貿易は比較優位の原則で安い製品が輸出においても優位を占めることは自明である。それをとくに先端技術において中国のファーウェイやZTEが米国の技術を窃盗しているとしてファーウェイの製品の購入禁止を日本や豪州にも要求。さらにはファーウェイ副会長の逮捕をカナダに要請し、提訴しているのはいかがなものかと思われる。

 中国は当時の日本と異なり、米国の言いなりにはならないだろう。副島隆彦氏は

 近著『米中激突恐慌』で米中技術・貿易戦争は、中国が有利に進めていると分析している。

(6)1980年代に日米貿易摩擦が激しかった折、日本の東芝機械が工作機械をポーランド経由ソ連に輸出。その結果、ソ連は潜水艦のプロペラの消音に成功し、米国の国家安全保障に対し重大な損害を与えたとして、東芝製品の3年間の米国輸入禁止など東芝たたきが行われた。東芝は米国の新聞に謝罪広告を出すなどさんざんな目にあった。

 しかし、ソ連潜水艦のプロぺラの消音は東芝の工作機械の輸入前から、実現していたということが後で判明した。東芝はあらぬ濡れぎぬを着せられたのである。

 目下、米国は中国がスパイ行為で米国の技術を盗んでいるとクレームしている。

 しかし米国、英国、豪州、ニュージーランド、カナダのアングロサクソン諸国はスパイ衛星を使ったエシュロン盗聴システムで外国情報を盗聴しているのをどう説明するのか。

(7)我々は情報の収集と分析、活用にあたっては、その情報がどこから出ているのか。まず情報源をしっかり把握することが大切である。一方的な情報を収集するのでなく、情報を多面的に収集。その情報を冷静に分析し、正しい評価を行い、日頃のビジネス、生活に役立てることこそ肝要である。

(了)

※注7:『戦争の地政学 米中もし戦わば』ピーター・ナヴァロ 文春文庫 2019年
※注8:『知識情報戦略』石川 昭・中川十郎 編著、税務経理協会 2011年 pp51~54

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