なぜアメリカは戦争に惹きつけられるのか?(2)

(一社)アジア・インスティチュート
理事長 エマニュエル・パストリッチ

ニューディール後の繁栄と「消費資本主義」の成立

 30年代のニューディール改革による富の再分配で労働者の可処分所得が増加したことで、50年代以降は消費財を購入する余裕ができた労働者層に商品を販売し、企業が巨額の利益を上げることを可能にした。60年代以降、消費・成長・株式市場が経済の健全性を測る主要な指標となった。

 このシステムは、その後70年間、労働者から富裕層への富の集中を効果的に促進したが、結局のところ労働者はますます貧しくなり、富裕層は指数関数的に富を増やした。労働者、中産階級、さらには上流中産階級による消費でさえ、もはや企業の利益を生み出すには不十分である。人々はこれ以上支出できないからだ。銀行は債務を返済するための別の利益源を模索せざるを得なかった。

 銀行は市場を支えるため、政府に無から印刷した資金で株式を購入するよう要請した。しかし、それでも不十分だった。安定した消費を創出する必要があり、その最善策が軍事支出である。軍事支出は市場状況や景気の浮き沈みに左右されない安定した需要を生み出し、その資金は国民の税金、あるいは軍事支出を賄う赤字財政によるインフレを通じて調達される。

 軍事費の増加は政策選択であり、経済崩壊を回避する唯一の手段だ。中国・ロシア・イランからの脅威やテロリズムによって正当化されねばならない。銀行の要求に応える諜報機関は、軍事パレードへの資金供給を維持するため、これらの国々とトラブルを起こすべくあらゆる手段を講じ、自ら「テロリスト」に扮することさえ厭わない。

 オラクル、パランティア、Google、アマゾンといった企業は、軍事・諜報予算を吸い上げるダニのように肥え太るだけでなく、銀行と合併し、銀行を支えるITシステム支配力を利用して、ドルのデジタル化や仮想通貨導入を通じて貨幣システムそのものの支配権を掌握しようとしている。さらにメディア、ジャーナリズム、教育を掌握し、さらなる軍事支出を正当化する現実を創出している。

 これらのIT企業は巨額の融資を受け、自社株買いに充てることで数十億ドルを稼いだ。彼らがもつのは負債とデジタル形式の資金だけだ。戦争、戦争の脅威、戦争への備えこそが、彼らを存続させている。

 彼らの株主は、実際に世界大戦が起こるとは考えていない。緊張を高めれば、新たな「冷戦」で巨額の利益を得られると考えているのだ。しかし、はたして彼らの見方は正しいのだろうか?

金融支配がもたらす三権分立の機能不全

 アメリカが実際にどのように機能しているかを考えてみよう。

 公民の授業を思い出せば、アメリカ政府は三権分立の共和制として運営されている。行政、立法、司法の三権は互いに補完し合い、同時に相互に規制し均衡を保つ。この制度は権力が一箇所に集中しないことを保証している。

 このシステムが現在のように機能不全に陥ると、私たちは表層の下にある骨組みを直視せざるを得なくなる。理想像ではなく、政治が実際にどう機能しているかを考えざるを得ないのだ。そこで明らかになるのは、政府には3つの真の権力機関が存在するが、それらは憲法に規定されたものとは大きく異なるという事実である。

 真の三権とは、政治家、銀行家、軍人である。彼らは政府の背後に存在する究極の権力者であり、異なるレベルで活動し異なる強みをもつため、互いに均衡を保っている。

 政治家は、ビジネス、金融、政府内の利害団体間で一時的な同盟を形成し、政策決定のために交渉する能力をもつ。銀行家は資金を掌握し、金融操作によって経済全体や反対勢力の活動を停止させる力をもつ。将軍たちは、外部勢力(金銭すら含む)によって容易に断ち切れない指揮系統を保持し、第三者に依存せず直接武力を行使して目標を達成する能力をもつ。

 健全な社会では、政治家が頂点に立つ。彼らの主たる使命は、銀行家、実業家、将軍、あるいは一般大衆のその他の利害団体といったクライアントのニーズに応えることにある。政治家が銀行家と将軍双方の要求を効果的に満たし、彼らへの資金の流れを維持できる限り、システムは安定を保つ。

 しかし、富が過度に集中し、銀行家が全員を買収して経済を完全に掌握できるほどになれば、彼らは頂点に立つ。なぜなら銀行家は絶対的な権力を得るために、ごく少数の超富裕層に奉仕するだけでよいからだ。政治家は彼らの操り人形となり、将軍たちは銀行家から買収されて従順で肥え太る。この政治体制こそが、今日のアメリカで見られるものだ。

 しかし、銀行家による政治体制は、時が経つにつれ巨大な問題に直面する。あらゆる決定が金と短期利益に基づいて行われ、他者のために行動する者も、私利私欲を超えた理想に従う者もいなくなるため、あらゆるもの、あらゆるサービスが売買の対象となる。結果として政府の基盤、社会の基盤は崩れ去る。最終的に政府は無政府状態に陥るか、あるいは利益を生み出し、銀行家による国民への鉄拳支配を強いる手段として、戦争へと流れていく。

 その歴史的瞬間、将軍たちが頂点に立つのは、政府が機能不全に陥っても有効な指揮系統を維持できるからであり、政治家や銀行家の正当性が破壊された後、権威を持つ唯一の言語となる力と暴力の言語を彼らが話すからだ。

 銀行家たちが些細な過ちを犯し、愚かな戦争を始めるだけで、意思決定権は将軍たちの手に渡る。将軍たちは命令系統に従い自動的に戦争を推進する。この系統では、最終命令が下された以上、いかなる状況でも全員が遂行責任を負うのだ。

(つづく)


<PROFILE>
エマニュエル・パストリッチ

エマニュエル・パストリッチ博士1964年生まれ。アメリカ合衆国テネシー州ナッシュビル出身。イェール大学卒業、東京大学大学院修士課程修了(比較文学比較文化専攻)、ハーバード大学博士。イリノイ大学、ジョージワシントン大学、韓国・慶熙大学などで勤務。韓国で2007年にアジア・インスティチュートを創立(現・理事長)。20年の米大統領に無所属での立候補を宣言したほか、24年の選挙でも緑の党から立候補を試みた。23年に活動の拠点を東京に移し、アメリカ政治体制の変革や日米同盟の改革を訴えている。英語、日本語、韓国語、中国語での著書多数。近著に『沈没してゆくアメリカ号を彼岸から見て』(論創社)。

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