2024年04月25日( 木 )

一帯一路と米中貿易戦争(3)

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名古屋市立大学22世紀研究所特任教授、大連外国語大学客員教授、国際アジア共同体学会学術顧問、日本ビジネスインテリジェンス協会会長、元東京経済大学経営学部大学院教授
中川 十郎 氏

中川 十郎 氏
中川 十郎 氏

(14)過去、英国、米国はシ-パワー国として19~20世紀にかけて世界に君臨してきた。

 しかし、21世紀は中国がランドパワー国としてユーラシアでの物流網構築、インフラ建設、さらに北極海シルクロ-ド、航空シルクロード、デジタルシルクロードなどを通じて急速に存在感を増しつつある。

(15)ここで最後に、「一帯一路」の源流ともいうべき中国の歴史上の動向について一瞥しておきたい。

 中国は歴史上、西域遊牧民とのせめぎ合いが行われてきた。2200年以上前の漢の時代に張騫は匈奴対策に西域に派遣された。7~8世紀の隋、唐は中国を南北に統一したばかりでなく、遊牧民族に由来する王朝であったがためにシルクロードを通じた東西アジアの交流に基づく文化を育み、それが飛鳥、奈良にもたらされ、古代日本文化の基盤構築に貢献した。正倉院はシルクロードの東の終点だった。その終点の日本から21世紀のシルクロード「一帯一路」の構築に努力すべき使命が日本にはあるのではないか。

 一方、1200年代のモンゴル帝国は、武力国家ではなく情報国家として、シルクロードを通じて活発な商業活動を行った。1400年代の明の永楽帝は鄭和に大艦隊を組織させ、その航跡は東南アジアからインド沿岸、ペルシア湾、紅海、さらに東アフリカにまでおよび、訪問国は30カ国以上を数えた。鄭和の艦隊は1隻6000~8000tもある巨艦で、大艦隊を60数隻で構成、乗組員は2万数千人にも上ったという。その主要目的は貿易の拡大、とくにイスラム商人との交易と関係拡大にあった。※注5

 中国が中心となり1996年以来注力しているSCO(上海協力機構)は過去のロシア、タジキスタン、キルギス、カザフスタン、ウスべキスタンの6カ国に加え、西アジアの有力国インド、パキスタンが加盟したことによってユーラシアの強力な地域経済協力機構に成長しつつある。一方、ロシアが中央アジアでカザフスタンなどと注力する「ユーラシア経済連合(EEU)」も近来、中央アジアにおける共同体として活動を強化している。さらにBRICSの活動も目覚ましく、11月のブラジリアでのBRICS首脳会議では、新興5カ国の結束の強化が話し合われた。すでに上海で活動を開始しているBRICS開発銀行はAIIBやシルクロード開発基金とともに「一帯一路」インフラ開発を中心に積極的にプロジェクト融資で活躍している。

 このような過去長年にわたる中国のユーラシア、アジア、アフリカなどにおける歴史と知験が「一帯一路」シルクロード構想の背景にあるので、「一帯一路」は米国、日本など一部の国の批判を超えて発展していくことは間違いないと思われる。

 日本としても「一帯一路」「AIIB」に積極的に参加し、日中相携えて「和を以て貴となす」の精神で世界の経済建設と平和構築に今こそ注力すべき時である。

 結論

 日本が2013年来、注力してきたASEAN10カ国に加え、豪州、NZ, 中国、韓国、インド、日本の16カ国によるRCEP(東アジア地域包括的経済連携)交渉は11月、日本が対中国牽制として頼りにしていた主力のインドが、関税交渉が折り合わず、脱退を通告。日本政府はあわてている。

 一方、米国と日本が注力中の「インド太平洋構想」もはかばかしい進展がない現状下、日本はそのなかに在って、中国と対抗するのではなく「一帯一路」と「インド太平洋構想」を融合し、アジア、ユーラシアを中心に世界の平和と経済発展に日中相協力して貢献する21世紀の経済、外交戦略を推進する方策を真剣に検討すべきである。

(つづく)

※注5:『海がつくった世界史』村山秀太郎 実業之日本社 2017年 pp136~138

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