鹿児島大学名誉教授
ISF独立言論フォーラム編集長
木村朗
6月13日のイスラエルによるイラン攻撃と、それに対するイランの反撃から始まった戦争状態がトランプ大統領の仲介で極めて短期間で停戦合意に至った「12日間戦争」の背景と今後の展望を、アメリカ、ロシアなどの対応を含めて改めて検証する。
3.停戦合意後の課題と展望
今回のイスラエル・イラン間の停戦合意について、アメリカ内外からさまざまな評価があるようだ。
イスラエルとイランの停戦合意は25日、両国がそれぞれ「勝利」を主張するかたちで維持され、戦闘はひとまず終結した。しかし、イランは核開発を継続する構えを崩しておらず、紛争の火種は残っている。トランプ大統領の声明内容と異なりイランの核施設の被害が限定的だったとの見方を複数のメディアか伝えており、今後は停戦の履行と並んで、外交交渉により核開発に関する協議が進展するのかが焦点となる(実際の被害状況は、核汚染も含めて現時点では不明)。
イランの核開発をめぐっては、トランプ政権は4月以降、イランと断続的に交渉を続けていたが、イスラエルによる攻撃で中断している。米国のウィトコフ中東担当特使は24日、米FOXニュースの番組で、イランと「包括的な和平合意」を目指す方針を明らかにした。すでに関係国を通じた協議を始めているとし、「達成する自信がある」と述べた。トランプ大統領は大統領専用機内で24日、記者団に「イランは濃縮ウランも核兵器ももたない」と強調した。
しかし、核開発をめぐる米国とイランの協議は再開のめどが立っておらず、根本的な解決は見通せていない。イランの国会は25日、国際原子力機関(IAEA)への協力を停止する法案を可決した。イランは核開発を継続する姿勢で、核拡散防止条約(NPT)からの脱退を求める声もあがっている。もちろん聖職者らで構成する護憲評議会の承認が必要なのでこれが最終決定ではない。
問題は、イスラエルのネタニヤフ首相は、「グレーター・イスラエル構想(ナイル渓谷からユーフラテス川に跨るイスラエル帝国建設)」構想の実現やイランの体制転換まで視野に入れているだけでなく、国内での自らの汚職犯罪の追及の手を逃れるためにも戦争継続をひそかに画策している可能性がある。ネタニヤフ首相は、現在アメリカに亡命中のイラン王室関係者との接触が伝えられており、今後は最高指導者であるハメネイ師の暗殺も含むイランでの体制転換工作を強めていく動きがあるようだ。また、アメリカ国内で何らかのテロ活動(たとえば、トランプ暗殺や航空機の爆破など)を行ってイラン犯行説を広める偽旗作戦も考えられる。
一方、イラン側もハメネイ師の声明でも今回の停戦合意で核開発を断念することにはなっておらず、IAEAの査察拒否や最終的な脱退も考えられる。トランプ大統領はウラン濃縮作業の完全な中止を含む核開発の全面的放棄をイラン側が応じなければ再度のイラン攻撃もあり得ると強硬姿勢を示している。
1979年のイラン革命で国を追われたパーレビ国王の長男のレザ・パーレビ元皇太子がパリで記者会見を開き、アメリカで亡命生活を続ける最高指導者ハメネイ師をトップとする現在の体制を非難し、「政権交代が唯一の究極的な解決策だ」として、国民や国際社会に体制転換の必要性を訴えている(ANNニュース)。
このように現在のイランをめぐる状況はかなり流動的で混迷しており、いずれにしても最終的に戦争が終結し、中東情勢がさらに緊張緩和に向かい永続的な平和を実現する道はまだかなりの紆余曲折があることは間違いなく、今後も注視していく必要がある。
おわりに
イスラエル(ネタニヤフ首相)のイラン攻撃の目的は、(1)ガザ攻撃の延長でイランのハマス・ヒズボラなどへの支援を完全に断つこと、(2)イランの核開発の潜在的能力を完全に奪うためにアメリカの参戦を引き出すこと、(3)イスラエル国内で自分の汚職訴追を避けるための戦争継続・拡大、(4)アメリカ亡命中のパーレビ国王長男のレザ・パーレビ元皇太子やイラン国内の反体制勢力と連携してハメネイ師暗殺を含めて体制転覆を実現すること(「グレーター・イスラエル構想」の一環)、などであったと思われる。
一方、イラン攻撃に加わったアメリカ(トランプ大統領)の狙いは、(1)イラン政府の核開発施設を破壊することでその意思と能力を削ぐこと、(2)イスラエルのこれ以上の暴走を防いでイランとの停戦合意を引き出すこと、などであったと思われる。
こうしたイスラエル・アメリカ両国の思惑がどれほど実現したのかの正確な評価はもう少し時間をかけてみる必要がある。
ここで最後に確認しておきたいことは、イスラエルのイラン攻撃はもちろん国際法・国連憲章違反であり、それに続くアメリカのイラン攻撃は国際法・国連憲章違反であるだけでなくアメリカ憲法違反でもあるということである。
またNPT体制から外れて核兵器をもっているイスラエルが、NPT体制に入ってIAEAの査察を受けているイランの核開発疑惑を追及するというのは、プーチン大統領も指摘しているように明らかに二重基準(ダブルスタンダード)である。
日本を含む国際社会は、今回はもちろん、これ以上のイスラエル・アメリカ両国の暴挙を容認してはならない。
(了)
※関連動画
☆(学カフェ・上野康弘)2025年6月24日:緊迫する【イスラエルvsイラン】を木村朗教授が解説「時代の奔流を読む」
☆「これは今まで見たことのないものだ…|ジョン・ミアシャイマー教授がトランプとイスラエルの計画を暴露」(2025年6月26日)