2024年04月20日( 土 )

小都市なりといえどもやるべきことはやる “チーム多久市”でタックル&トライ(前)

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多久市長 横尾 俊彦 氏

 四方を山に囲まれ、佐賀県の内陸部に位置する多久市。江戸期から昭和の時代にかけて文教と炭鉱によって栄えた同市は今、地方の小さな自治体でありながらも、キラリと光る数々の先進的な施策を打ち出し、新たな進化を遂げつつある。現在6期目の横尾俊彦市長に聞いた。

 

多久市長 横尾 俊彦 氏
多久市長 横尾 俊彦 氏

古典から先端技術まで、子どもたちの未来のために

 ――多久市では、さまざまな先進的な取り組みをされているとお聞きしました。

 横尾市長 本市は人口2万人弱の地方自治体です。しかし、“小なりといえどもやるべきことをやる”という発想の下、さまざまな課題に果敢にチャレンジしていくことが大事だと考えています。ちょうど今年は日本でラグビー・ワールドカップがありました。ボールはどう転ぶか予測は難しいけれど、技を鍛えつつ、果敢に“タックル”していきたいと思っています。

 たとえば教育面では、未来を志向した教育としてICT教育に取り組んでいます。本市では2009年度に市内の小中学校への電子黒板・校務用パソコン整備とICT支援員配置を行うなど、全国的にも早い段階からICT教育を積極的に推進してきました。

 16年には、未来の子どもたちのために、行政と教育委員会が連携してICT教育などの教育水準の向上と魅力あるまちづくりを目的に、志を同じくする全国の7自治体の首長と私が発起人となって「全国ICT教育首長協議会」を立ち上げました。同協議会には現在、137の自治体が加盟しており、私が初代会長を務めさせていただいています。18年度には、最新技術であるパブリッククラウドを活用して、「子どもたちの学力向上」と「教職員の働き方改革」の推進に取り組み、「2019 日本ICT教育アワード」で総務大臣賞を受賞しました。

 これからの未来を生きる子どもたちには、最先端の技術に触れて学ぶことで、それぞれの個性を伸ばし、生きがいをもってどんな世界ででも活躍できる人物になってほしいとの願いから、ICT教育に力を入れています。

多久聖廟
多久聖廟

 未来志向型教育の一方で、本市には創建311年の孔子廟で国の重要文化財「多久聖廟」がありますので、「論語」を取り入れた教育も行っています。テレビ番組「ナニコレ珍百景」でも“論語を放送するまち”として取り上げられましたが、町内放送の夕方のアナウンスで論語が流れるほか、独自の「論語カルタ」も用いることで、子どもたちも論語に慣れ親しんでいます。論語を知り、日常的に触れることで、将来何か困難に直面したときには個々人が好きな論語の言葉が支えになるはずです。そうした“心の栄養”ともなることを期待しています。

 「温故知新」という言葉がありますが、本市ではさらに進めて「温故創新」、つまり新しきを創るまで高めたいのです。“温故((故(ふる)きを温(たず)ねて))”の部分が論語教育で、“創新(新しきを創る)”の部分がICT教育などですね。

数々の先進的な施策に果敢に挑戦

 ――医療・健康の面でも、先進的な取り組みをされているそうですね。

 横尾市長 トライアル中です。「健康はすべての基本」ですから、市民の皆さまの元気で健やかな暮らしのために、健康寿命の延伸に向けた取り組みを地道に進めています。

 たとえば17年4月から、スマートフォンのアプリを利用したPHR(個人の健康記録)管理モデル事業に取り組みました。これは、市民の特定健康診査結果や検査結果などの情報を電子的に蓄積し、自身による確認やかかりつけ医などが参照することにより、各医療従事者が連携して市民の健康管理を行えるようにするもので、最先端の試行です。そのほかにも、健康診断や保健指導の充実で健康増進啓発や生活習慣病予防に市を挙げて努めており、市民1人ひとりが健康づくり・健康維持を自発的に行える意識づくりに努めています。おかげさまで、生活習慣病予防に欠かせない「特定健診」「特定保健指導」の実施率で全国4位と7位となり、厚生労働大臣表彰をいただくなど、成果が表れています。

 ――健康といえば、隣の小城市との間で、公立病院の統合を計画されています。

 横尾市長 多久市立病院と小城市民病院との統合計画については両市で協議を重ね、新たな公立病院を本市の東多久町に建設する予定で合意に至っています。今後は外観やイメージ、理念、具体的な病床数、診療科目、機器など、「どんな病院にするか」という総合的な基本構想を練ったうえで、その具体化のための基本計画を策定し、そして実際の建設工事などを進めていかねばなりません。新病院は2025年4月の開院を目指しますが、できれば今後1年強で基本構想・計画を固めることできればと思っています。

 ――ほかにも先進的な取り組みをいろいろとされています。

 横尾市長 最近、物・サービス・場所などを、多くの人と共有・交換して利用する「シェアリングエコノミー」が広がってきています。本市では2016年に総務省の地方創生加速化交付金事業で「ローカルシェアリング事業」に取り組んだことを契機に、16年11月には本市と千葉市、静岡県浜松市、長崎県島原市、秋田県湯沢市の5市が全国で初めて共同で、地域の課題解決にシェアリングエコノミーを導入する「シェアリングシティ宣言」を行いました。

 その後、シェアリングシティを進める拠点として「多久市ローカルシェアリングセンター」を開設し、ネットを使った在宅ワークができる「クラウドワークス」や、体験型観光を提供するサイト「TABICA(タビカ)」との連携を行うなど、取り組みを進めています。

 ほかにも、IoT推進に意欲的な地方自治体や、IoTビジネスの地域展開に熱心な民間企業、総務省などが連携し、地域におけるIoT実装を強力に推進するための「地域IoT官民ネット」という団体を立ち上げ、私も共同代表を務めさせていただいています。

 ――なぜ、先進的な取り組みを次々と行っているのですか。

 横尾市長 先ほどもお話ししましたが、小なりといえども、やれることにはいろいろと可能性がありますし、果敢に向かっていくことが大事だと思っています。もちろん、他の自治体などの動きを様子見したうえで、後から取り組んでいくようなやり方もありますが、様子見して勉強するよりは、むしろまずやってみることが大事と思います。試行錯誤しながらも実践により、リアルな経験・ノウハウが蓄積されていきますし、それを発信することもできます。

 動いていればいろいろな広がりが出ますし、新たなネットワークもできます。動けば動いただけ、さまざまなメリットがあると思います。時代のニーズやトレンドをしっかりとつかんで、傍観ではなく関わること。そして関わりながら、自分たちに活かせるものは積極的に使っていく――。大事なのは“タックル&トライ”で、これからも多様な取り組みを進めていきます。

(つづく)
【坂田 憲治】

(後)

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