2024年04月24日( 水 )

貧乏脱しても財布のヒモは緩まず~財務データから見たカープの経営哲学(前)

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 長い暗黒時代を乗り越え、プロ野球界屈指の人気チームに変貌した広島東洋カープ。その財務状況を調べたところ、「貧乏球団」と言われた時代が嘘のように劇的に好転していた。同じように地域重視の球団経営をしている「球界の新盟主」福岡ソフトバンクホークスと比較検証したところ、カープという球団がそもそも何を目指しているのかもみえてきた。

資産状況は球界の上位に

 戦後間もない被爆地・広島に、親会社をもたない市民球団として創設されて以来、カープはずっと「貧乏球団」と言われてきた。実際、2000年代の初めごろまではプロ野球12球団で唯一、主催試合の入場者数が100万人に満たない年もあるなど、経営はずっと低迷していた。初めてセ・リーグで優勝した1975年以来、何十年も黒字決算を続けてきたが、それも球団存続のため、経費を切り詰めているからこそだと思われていた。

 だが近年、球団を取り巻く状況は一変した。2009年、老朽化していた広島市民球場からマツダスタジアムに本拠地が変わって以降、「カープ女子」という言葉に象徴されるブームが勃発。現在は全国どこの球場もスタンドがファンで真っ赤に染まるほどの人気ぶりで、主催試合の入場者数は今年、5年連続で200万人を突破した。

 では、この人気ぶりは球団の業績にどれほど反映されているのか。

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 まず、【表Ⅰ】を見ていただきたい。2000年から2007年まで入場者数は100万人前後、売上高は60億円前後で推移していたが、広島市民球場のラストイヤーとなった2008年から入場者数、売上高ともに大きく増え始めていることがわかる。そして2015年に入場者数が初めて200万人を超えて以降は、売上高も約148億円(2015年)、約182億円(2016年)、約188億円(2017年)、約189億円(2018年)と毎年、低迷期の3倍程度を計上するまでになっている。

 売上高が増えた要因は、入場料収入のみならず、球場での飲食販売、関連グッズの売上、広告収入、スポンサー収入などが全般的に増加したからだとみられるが、いずれにしてもすごい躍進ぶりである。純利益も近年は約14億円(2016年)、約12億円(2017年)、約9億円(2018年)と、1億円に満たなかった低迷期の10倍前後を叩き出している。

 では、この業績向上により、カープの資産状況はどうなっているのか。

 現在、プロ野球12球団のうち、巨人、中日以外の10球団は官報で決算公告を行っている。それを基にまとめたのが、【表Ⅱ】である。

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 見ておわかりのように、現在のカープは総資産、純資産(総資産から総負債を引いたもの)、利益剰余金(利益のうち、社内に積み立てたお金)ともに上位につけている。純資産と利益剰余金は4位という微妙な位置ではあるが、金額的には5位以下の球団を大きく引き離しており、逆に2位、3位の球団とはほとんど差がない。先述したように2019年も入場者数は200万人を突破するなど業績好調は続いているので、純資産、利益剰余金ともに今後、さらに順位を上げる可能性もありそうだ。

 いずれにしても、カープはもはや「貧乏球団」ではないのはたしかだ。

(つづく)
【片岡 健】

(中)

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