2024年03月19日( 火 )

コクヨはなぜ、ぺんてるの買収に失敗したのか~強者の「驕りのオウンゴール」で自滅(後)

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1通の密告書が熱戦に火をつけた

 コクヨの黒田英邦社長は11月15日、緊急記者会見を開き、ぺんてるの買収を決断するに至った経緯をマスコミに公表した。10月にぺんてる経営陣がほかの企業との提携を模索しているという情報が寄せられ「青天のへきれきで、にわかに信じがたかった」と黒田社長。

 真偽を確認したところ、ぺんてるは否定せず、逆に「コクヨ以外との提携を検討することも排除しない」といった趣旨の返事が届いた。ほかの企業に先を越されるよりはと、子会社化を決断したという。

 『週刊東洋経済』オンライン(19年11月20日付)が、「密告書」をスクープした。

 〈文書に記されてあるのは、コクヨの支配力を弱めるにはどうすればよいか、の策だ。「K社による子会社化を防ぐ」ためとして、プラス社が、コクヨの持分比率を上回る「40%」を保有する案が挙がっている。40%という数字は、コクヨが持つ約38%よりは多く、かつ、ぺんてるを子会社化する過半数には満たない、そのような数字だ〉

 〈文書には作成者のクレジットとして、ASPASIO(東京都中央区、田中康之社長)という名が記されている。ASPASIOはファイナンシャルアドバイザリー業務を主とする会社で、長年、ぺんてるの財務コンサルを担ってきた〉

『週刊東洋経済』オンライン(19年11月20日付)

 ぺんてるの上層部しか知りえない文書を、コクヨに送付していた。この文書は、ぺんてる上層部の何者かによる、内部告発書である。

ぺんてるはプラス派とコクヨ派に割れる

 コクヨが、株を買い増してぺんてるを子会社化する方針を発表すると、ぺんてるは即座に反対を表明。商品開発で6年以上、協業関係にあるプラスが友好的な第三者「ホワイトナイト(白馬の騎士)」としてぺんてるに出資すると表明すると、ぺんてるは賛同を取締役会で決めた。

 株主に対しては、両陣営からの訴えが飛び交った。ぺんてるは、プラス派とコクヨ派に割れた。

 「コクヨへの敵対的買収に応じることなく、ぺんてるの経営陣が最善と考えるJSCからの買い受けにご応募いただくよう、お願い申し上げる次第です」。

 11月20日以降、ぺんてる株主にこんな手紙が届き出した。差出人はぺんてる元社長・水谷壽夫氏。ぺんてるの最長老だ。ぺんてるの和田優社長も株主のもとを回り、「プラスの友好的買収に賛同するよう」働きかけた。

 コクヨ側につくOBもいる。ぺんてる元専務の池野昌一氏は11月24日、「安易に(ぺんてるの)現経営メンバーやプラスの誘いに乗らないように」と訴える手紙を配り始めた。プラスが株を取得すると、「経営は確実に迷走してしまう」と訴えた。

コクヨ御曹司の高飛車な態度に猛反発

 なぜ、ぺんてるの多くの株主が、買い取り価格が高いコクヨではなく、安いプラスに売ったのか。それには2つの出来事が作用したようだ。

 コクヨの黒田英邦社長は、日本経済新聞(11月26日付朝刊)のインタビューで、〈ぺんてる株を過半数取得できた場合、同社の経営陣を刷新する意向を示した。そのうえで、「執行役員や現場のリーダーには優秀な人材がたくさんおり、その中から抜てきしたい」と、新社長をぺんてる社内から選任する方針も明らかにした〉

 「ぺんてるの経営陣を刷新する」といった高圧的な発言がマイナスに働いたことは否めない。トップの首のスゲ替えは、過半数を握ってから、やればいいことだ。乗り込む前に、火に油を注ぐような発言は、百害あって一利なし。中立派の株主を敵に回す。ボンボン育ちの創業家の御曹司は、経営者として未熟であることを見せつけた。

 ぺんてる株を手に入れる経緯にしても、ぺんてるに連絡することなく、強引に進めた。「ぺんてるの経営陣はクビにする」と高飛車に出たから、「若造が何をほざく」と猛反発を招いた。

 さらに、ぺんてるを追われた前社長・堀江圭馬氏が、テレビ東京系『ワールドビジネスサテライト』(12月6日放送)に出演。「プラスはよくない」とコクヨにエールを送ったことも、OBたちの神経を逆なでした。堀江氏がコクヨと組んで、ぺんてるに復帰することを狙っているのではないかと疑われた。

 コクヨ側は「オウンゴール」で自滅した。これが、コクヨが買収に失敗した最大の要因だ。

 コクヨは101億円でぺんてる株を手に入れ、さらに46億円以上かけて追加取得した。しかし、過半にとどかず、経営権を握れない。減損処理に追い込まれるかもしれない。ぺんてる買収の失敗は高いものにつく。

(了)
【森村 和男】

(前)

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