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2020年02月18日 09:48

【働き方改革はブラック企業を漂白できるか】「何を言うか」より「何をしたか」で評価される企業へ(前)

ブラック企業アナリスト 新田 龍 氏

 経営者や上司が自らの立場を利用し、地位や人間関係で立場の弱い従業員や部下に対して精神的・身体的な苦痛を与えることが日常的に行われている会社―これらは俗に「ブラック企業」と呼ばれる。その一方で、あり得ない主張や批判を繰り返して職場に迷惑をかけ、業務のスムーズな進行を妨げる「ブラック社員(モンスター社員)」も問題視されるようになってきた。「ブラック企業アナリスト」として双方の事情に詳しい新田龍氏に、双方のブラックたる所以について聞いた。

【聞き手:長谷川 大輔】

 

ブラック企業アナリスト 新田 龍 氏
ブラック企業アナリスト 新田 龍 氏

ブラック企業=私利私欲にまみれた悪徳企業

 一般的なブラック企業の定義は、「長時間働かせる」「残業代を払わない」「すぐクビにする」など、従業員を都合よく使い潰す「労働搾取企業」であると認識されています。しかし私の考えるブラック企業の定義は、「法律違反の労働条件を違法であることをわかっていながら改善せず、アンフェアな競争で同業他社を出し抜き、私利私欲を求める悪徳企業」のことを指します。次項で外部から判別できるブラック企業の具体的な特徴【図Ⅰ】を挙げていきます。

※クリックで拡大

(1)従業員を長時間残業させる

 最もよく見られる行為です。労働基準法(以下、労基法)第32条には、「労働時間は1日8時間、週40時間を超えてはいけない」と定められています。労基法36条に規定されている「36協定」が締結されていればそのラインを超えて従業員を働かせることができますが、それでも「1カ月45時間」「年間360時間」を超えたら違法になってしまいます。しかし、ブラック企業はそんなことはまったく気にせず、過労死ラインといわれる「月80時間」や、労災認定基準ともなる「月100時間」を超えて残業させることがしばしば見受けられます。

(2)従業員を休日出勤させ、必要な措置を講じない

 労基法第35条には、「会社は従業員に対して週1日以上の休日を与えなければいけない」と定められており、仮に従業員を休日出勤させた場合、その分の割増賃金も支払う必要があります。しかし、悪質なブラック企業では、必要な休日を与えず、さらには休日出勤した際の割増賃金も支払っていないところが多いです。

(3)有給休暇が取れない

 有給休暇は、労基法第39条で定められた従業員の権利です。しかし、働く人の頭数を減らさないために、この権利を簡単に使わせないブラック企業が多く存在します。法律上、会社側は従業員から有給休暇の申請を受けた際、都合が悪ければ日程の変更を求めることはできます。しかし、従業員側に申請理由を提出させたり、申請を拒否したりすることはできません。にもかかわらず会社によっては、「事前に予告しなければ有休が取れない」「休む理由を書いて上司に提出しなければならない」「有給取得に際し、上司や会社の許可が必要」「正社員以外は有給休暇が取れない」「取得日数は成果に応じて会社が決める」等のルールを定められているところがあります。これらはすべて違法であり、このような有給休暇取得に厳しい制限を設けている会社はブラック企業であるといえます。

(4)従業員に給料や残業代を払わない

 ブラック企業は手っ取り早く会社の利益を増やすために、社員の給料を減らそうとすることがあります。よくある手口として見られるのは、「給料の全部、もしくは一部を払わない」「最低賃金以下の給料しか支払わない」「残業代をごまかす、あるいは払わない」「裁量労働制を不当に適用して残業代をごまかす」「みなし残業代を悪用して長時間残業させる」などのほか、(2)で挙げた「休日出勤した際の割増賃金を支払わない」もあります。これらはすべて違法であり、放置している企業は明らかにブラック企業といえます。

(5)勤務時間にカウントされない時間がある

 ブラック企業の場合、法定上1日の労働時間は8時間と決まっていても、その前後や休憩中などに何かと理由をつけて社員を働かせようとするのが特徴です。さらには、社員を働かせるだけでなく、「会社の指示ではなく、社員が自主的に行った作業だ」という主張する会社もあります。

 【図Ⅱ】のような時間は本来であれば労働時間とすべき性質のものですが、労働時間にカウントされないことが多いです。また、30分未満の時間は切り捨てる、ある時間に一度タイムカードを切るなど、勤務時間についての独自のルールが設けられた会社もあります。ブラック企業はこうした建前を使い、賃金を支払わなくて済むようにしています。

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(6)給料の減額がある

 社員の給料は入社時に会社側との労働契約書や就業規則で定められており、これは社員と会社の約束事なので、会社が一方的に給料を下げることはできません。しかしブラック企業では、社員に責任のない一方的な理由をつけて給料を減額することがあります。たとえば、「燃料費の高騰」「経営悪化」「営業成績不振」といった理由で、社員の同意を得ず、変更の告知もせず、勝手に給料を減額する会社はブラック企業です。

(7)不明瞭な名目で給与天引がある

 税金(所得税、住民税)や社会保険料、雇用保険料といった法律で定められている費用は、従業員が了解しなくても給料から天引できます。しかし、たとえば従業員の不注意で商品を壊したり、ミスによって発生した損失は、勝手に給与から天引することはできません。

(8)パワハラが横行している

 昨今社会的にも大きく取り上げられていますので詳しく説明する必要はないかもしれませんが、ブラック企業内では、売上アップのためや、社員を洗脳したり退職に追い込んだりするために、パワハラが常態化することが多いです。

(9)「名ばかり管理職」にされる

 ブラック企業は、本来管理職ではない社員を管理職として扱い、負う必要のない責任を押し付けたり、残業代を支払わなかったりすることがあります。法律上の管理職である「管理監督者」として認められるには、会社の経営陣と一体的に行動していることなどといった厳しいルールが設けられており、役職が付いているだけでは管理監督者として認められるわけではありません。しかし、社内での肩書と、法律上の管理職である管理監督者の実態が乖離していることが多いです。

(10)従業員を辞めさせない

 本来、従業員はいつ会社を辞めるのかを決めるのは自由であり、民法上では2週間前に退職意思を伝えれば自動的に契約は終了するものとされています(民法第627条)。しかし、ブラック企業の場合は、「従業員を限界まで働かせるため」従業員が退職を希望しても辞めさせない、というのも特徴です。

(11)精神論、根性論が多い

 従業員をギリギリまで使い潰すために、精神論や根性論を語ることが多いのもブラック企業の特徴です。これは、到底こなすことのできない仕事量を、気合いとやる気の精神論・根性論で納得させたり、大きなビジョンと結びつけることで仕事の意義を感じさせたりするための手口です。そうした会社では、無理な働かせ方や過大なノルマが常態化しているとともに、(1)「やる気」「情熱」といった言葉で社員を盛り上げようとする、(2)「世界」「平和」など壮大なビジョンを語りたがる、(3)「夢」「自己実現」など、仕事を自分の頑張りに結びつけようとする、(4)朝礼で社訓を大声で読ませる、(5)体力的に辛いだけの訓練があるなどの特徴が見られます。

(つづく)

<プロフィール>
新田 龍(にった・りょう)

 1976年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、複数の上場企業において事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年「働き方改革総合研究所(株)」設立。働き方改革推進による労働環境とレピュテーション改善、およびブラック企業やブラック社員など、悪意ある取引先や従業員に起因するトラブル解決を手がける。また、厚生労働省プロジェクト推進委員として政策提言を行うとともに、各種メディアで労働問題、ブラック企業問題に関するコメンテーターとしても活動。「ワタミの失敗」(KADOKAWA)ほか著書多数。

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