2024年04月20日( 土 )

「みどり」を核にしたまちづくり うめきた2期・再開発(前)

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 西日本最大級のプロジェクトといわれる「うめきた」再開発。先行して2013年に開業した「グランフロント大阪」に続き、その2期目のプロジェクト関連工事が現在、急ピッチで進んでいる。西日本最大級たるゆえんは、約24haという規模の大きさに加え、「大阪最後の一等地」と評されるその立地によるところが大きい。うめきた2期再開発の目玉は、合計約8haに上る“みどり”を核にしたことだ。

 「インパクトを出したい」という橋下徹・元大阪市長と松井一郎・元大阪府知事の意向を受けて、国・大阪府市・民間事業者で構成される大阪駅周辺・中之島・御堂筋周辺地域都市再生緊急整備協議会において、うめきた2期区域まちづくりの方針が策定された結果だ。うめきた再開発によって、大阪駅周辺はどう生まれ変わるのか。

完成予想図「うめきたの森」(三菱地所JV提案資料より)
完成予想図「うめきたの森」(三菱地所JV提案資料より)

貨物ヤード跡地、24haで再開発

 「うめきた再開発は、大阪だけの再開発プロジェクトにとどまらない。国際競争力を強化する拠点を整備する国家的プロジェクトだ」――大阪市担当者はこう力を込める。

 JR大阪駅は、1874年に開業(大阪駅~神戸駅間)した、1日約90万人(周辺9駅を合わせると約250万人)が利用する西日本最大のターミナル駅だ。周辺には、阪急・阪神電鉄、大阪メトロなど9駅が集まる。大阪市北区の地名から一帯は「梅田」といわれ、現在開発が進められている大阪駅北地区は、梅田の北側に位置することから「うめきた(梅北)」と呼ばれる。うめきたの呼称は11年、公募により決定された。

 うめきた再開発の舞台となるJR大阪駅北のエリア(大阪市北区大深町)は、元々貨物ヤード(梅田北ヤード)で、そのほとんどを鉄道建設・運輸施設整備支援機構(当時は国鉄清算事業団)が所有していた。この貨物ヤードを他のエリアに移転することで、跡地を再開発しようという構想は、1980年半ば頃からあったが、バブル経済の崩壊や移転先との調整などにより、構想の具体化には時間を要した。この間、貨物ヤードに隣接する旧・JR西日本本社(元・大阪鉄道管理局庁舎)が取り壊され、その跡地には現在、ヨドバシカメラのマルチメディア梅田ビル(店舗面積3万m2)が立地するなど、周辺では先行的な開発が進んだ。

先行開発としてグランフロント大阪が開業

 うめきた2期までの流れを簡単に振り返っておこう。大阪市は2004年7月、跡地約24haの再開発方針に関する「大阪駅北区まちづくり基本計画」を策定。駅前広場や商業施設、オフィス、ナレッジキャピタルなどを立地させる案を打ち出した。貨物ヤード跡地東地区の先行開発区域(約7ha)やJR東海道線支線の地下化などを含め、現在のうめきた再開発につながる骨格部分が、この計画で定まった。同年12月、先行開発区域の都市計画決定がなされ、05年からUR都市機構による土地区画整理事業が始まる。

 鉄道・運輸機構とURは06年、先行開発区域(A・B・Cブロック)の開発事業者募集を開始。Bブロック(オフィス、商業、ナレッジキャピタル)はオリックス・リアルエステート(株)(現・オリックス不動産)を代表とするグループ。A・Cブロック(オフィス、商業、情報受発信、ホテル、分譲・賃貸住宅)は三菱地所を代表とするグループにそれぞれ決定した。

 2グループは09年、統一管理者として一体的なまちづくりを行うため、(株)ナレッジ・キャピタル・マネジメント(現・(株)KMO)を設立したほか、ナレッジキャピタルの運営などを行う(一社)ナレッジキャピタルも設立。そして13年4月、「グランフロント大阪(以下、GFO)」が開業を迎えた。

「みどり」で新たな都市景観と文化技術創出を狙う

 12年、大阪駅周辺地域が国の「特定都市再生緊急整備地域」に指定された。52ある「都市再生緊急整備地域」のなかで、国際競争力強化の上で重要な13の地域をとくにピックアップしたものだ。この指定により、容積率制限の緩和(例:800%→1,600%)などが可能になる。大阪市は同年、「大阪駅周辺・中之島・御堂筋周辺地域都市再生緊急整備協議会」を設立。協議会の下に大阪駅周辺地域部会を設けた。

 同部会は15年、「うめきた2期区域まちづくり方針」をまとめた。「まちづくりの目標」として打ち出したのが、「みどり」と「イノベーション」の融合拠点だ。ここでいう「みどり」とは、まち全体を包み込む比類なき魅力を備えた「みどり」を指し、単なる緑化とは次元が異なるものだ。「みどり」を活用することで、新たな都市景観を形成し、都市文化や技術産業の創出につなげるという意図が込められている。比類なき「みどり」は、「概ね8ha」という規模から見て取ることができる。配置も区域のど真ん中だ。「みどり」はうめきた2期の「シンボル」に位置づけられている。

 「みどり」をシンボルにした都市の再開発は前例がない。都会の緑といえば、国内には皇居や明治神宮などがあるが、都市化される以前から存在していた空間であり、商業施設やオフィスなどは後から立地したに過ぎない。

 うめきた2期の「みどり」には、橋下徹・大阪市長、松井一郎・大阪府知事(肩書はいずれも当時)らの意向が強く反映された。方針策定に際し、「西日本を代表する拠点にしたい」「普通のビルばかりでは面白くない」「インパクトのある再開発にするには、ドンとみどりを打ち出すべきだ」――と、「みどり」を強く主張した経緯がある。

 再開発対象エリアの3分の1を「みどり」にするという条件は、プロジェクトの採算性を考えると、当然不利に働く。単純に収益が見込めるテナントが減るからだ。事実、不動産関係者には「こんな立地の良い場所に公園とは、もったいない」という声もあった。だからこそ、あえて「みどり」を広く整備することで、ほかの都市にはないインパクトを打ち出せると考えたようだ。

 また、「大阪市には緑が少ない」ので、大胆に「みどり」に踏み切ったという指摘もある。たしかに大阪市は、市民1人当たりの公園面積が3.5m2(17年度末)で、全国の政令市ではワーストだ。ちなみに、全国ワーストは東京23区の3m2。ただ、緑の面積が少ないというよりは、狭いエリアに人口が集中しているため、相対的に数値が低くなっていると考えるほうが妥当だ。

 うめきた2期の土地区画整理事業(約19.3ha)を手がけるのは、先行開発区域と同じくURだ。都市公園事業(約4.4ha)、土地有効利用事業(民間事業者の募集)も所管する。うめきた再開発の中心的役割を担っているといっていい。1つの再開発プロジェクトで、URが土地区画整理事業も含めた複数の事業を担当するのはかなり珍しい。「個人の見解だが、うめきた再開発は、URにとって過去最大級のプロジェクトだと思う」(UR担当者)と話す。

うめきた完成予想模型
うめきた完成予想模型

(つづく)
【大石 恭正】

(後)

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