2024年05月15日( 水 )

研究が臨床力につながる~チャレンジ精神を忘れずに(前)

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九州大学病院 病院長/九州大学医学部主幹教授/病態修復内科(第一内科)
赤司 浩一 氏

 九州大学病院は病床数1,275床、1日当たりの外来患者数3,000人超、職員数3,300人超と国立大学病院のなかでも最大級の規模を誇っている。「がんゲノム医療」など、さまざまな世界最先端の医療を提供し続ける同院の赤司浩一病院長に話を聞いた。

大学病院の3つの柱「診療」「研究」「教育」

 大学病院は「診療」「研究」「教育」という役割を担っています。診療面においては、より高度で最先端な医療の提供が大学病院には求められます。

 一例を挙げますと、九州大学病院は2018年2月に厚生労働省から「がんゲノム医療中核拠点病院」に指定されました。がんゲノム医療とは、患者さんのがん組織から遺伝子情報を分析して、がん治療を行うもので、患者個人の体質や病状に合わせた治療が可能です。当院では昨年からがんゲノム外来で「がん遺伝子パネル検査」を実施しています。

 しかし、こうした最先端医療を提供するためには国立大学病院といえども診療行為のなかから、利益を確保する必要があります。国からの運営交付金の額も年々下がってきており、全国どこの大学病院も苦労していると思います。病院長という立場ですので当然、医療だけでなく経営面にも関わる必要があります。いかに効率よく患者さんに最先端かつ質の高い医療を提供できるかについて考える日々を送っています。

 研究面では、新しい薬剤の開発なども行っており、まだ日本で認可されていない薬剤の治験なども公的病院の重要な役割です。ある病気で、これまで何とか持ちこたえていた患者さんの容態が悪くなってしまった。しかし、新薬の治験に入って持ち直す。それを繰り返して繋いでいくこともよくあります。一昔前からは考えられないほど、薬で完治する疾患の範囲は広がっており、薬剤の開発はますます加速していくと思われます。

 また、治験を行うには製薬会社からの「信頼」も欠かせませんので、今後もより良い治験環境の構築をしていくつもりです。

 教育に関していうと当院は臨床研修基幹病院ですので、卒後2年間の初期研修期間に関して、当院と連携病院で協力して研修を行っています。市中の研修病院で研修することで多くの患者さんを診て、さまざまな疾患を経験することができます。専門医教育に関しても同様です。初期研修後に、連携病院での研修を含め専門医研修プログラムで3~5年の研修を行います。これらの教育プログラムを充実するために、各科の医師とともにさらなる改善に向けて常に努力しています。

「研究マインド」を持ち続けてほしい

 医師にはその生涯を通じて「研究マインド」を持ち続けてほしいと思っています。医師たちが「研究マインド」を持ち続けるためには大学病院のような、研究環境が整備されているところに一度は所属した経験をもつことが重要であると思います。

 私は若い医師たちに「チャレンジングであれ。新しいものを追いかけて、理論的に物事を考え、一度は研究をしなさい。それがより磨かれた臨床力につながる」と常に言っています。ただ、前述の研修プログラムに沿って専門医を取得するころには30代になってしまい、研究に打ち込める時間が少なくなっていることも事実です。

 また、その後に外国に留学できる年齢も上がってくることにより、留学時の経済的な問題、子どもの教育に関する問題、親の面倒を見る必要がでてくるなど等、人生につきものの、さまざまな制約が増えてきます。その意味において、昔に比べ研究や留学のハードルが高くなったといえるかもしれません。

 研究や留学をするためには、ある程度の規模を持つ医局に属することも選択肢の1つでしょう。大きな医局であれば、研究に集中的に時間を費やしたり、留学している間の人手不足を医局全体でカバーする余裕があるでしょう。また、よりレベルの高い研究に打ち込める環境に晒されることにより、刺激的な留学先を選ぶ機会にも恵まれると思います。

(つづく)

(後)

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