2024年04月29日( 月 )

研究が臨床力につながる~チャレンジ精神を忘れずに(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

九州大学病院 病院長/九州大学医学部主幹教授/病態修復内科(第一内科)
赤司 浩一 氏

 九州大学病院は病床数1,275床、1日当たりの外来患者数3,000人超、職員数3,300人超と国立大学病院のなかでも最大級の規模を誇っている。「がんゲノム医療」など、さまざまな世界最先端の医療を提供し続ける同院の赤司浩一病院長に話を聞いた。

地域医療の”やりがい“

 ただ、全国的にみると「医局離れ」が叫ばれて久しく、「医局に縛られたくない」という人が増えています。医師を派遣する会社、いわゆる「民間医局」が増え、それを利用して市中の病院などに派遣されるケースも増えているようです。

 九州大学の卒業生のほとんどは医局に属していると思います。地域医療に関しては医局として「地域医療を守る」という使命から医師派遣を行っています。医師の地域偏在が問題となっていますが、大学の医局に力がなくなってきたことが要因として挙げられるでしょう。

 地域によって異なりますが、少なくとも九州大学の各医局は、専門医を育て、県外も含め広い地域に医師を派遣して地域医療を支えています。地域で多様な疾患を持つ患者さんの治療に従事することは、柔道でいうところの「乱取り」を行うようなイメージで、幅広い臨床能力が鍛えられます。医師としてある時期、地域医療に携わるのは、とても勉強になると思いますね。 

 一方で、現在、国と専門医機構において、専門医教育制度と地域医療のあり方とが渾然と議論されていることは残念です。専門医を目指している医師を専攻医と呼びますが、医師充足地域の専攻医数を制限して、強制的に医師不足地域の専攻医を増やすという「専門医のシーリング制度」は、実態を反映していない統計に基づいており大問題だと思います。

 さらに大きな問題は、専門医を育てるにはそれに相応しい場所、つまり医師数も施設も整った大都市で育てる必要があることが考慮されていない点です。とてもここで話し尽くせませんが、現場で起こるであろうさまざまな問題点を十分に勘案の上、地域医療政策を考え直すべきだと思います。私たちの立場から言いますと、国が真面目に考えているからこそ、その杜撰さを指摘しにくいことが問題です。

血液学と学会活動

 私は現在、九州大学病態修復内科(第一内科)の教授を務めています。私自身の専門は血液で、白血病や悪性リンパ腫などの造血器腫瘍性疾患や凝固線溶異常など、血液疾患にかかわるすべての診療を行っています。

 血液分野は分子標的薬の登場により、目に見えて治療成績が上がっており、今後はさらに新しい分子標的薬が出てきます。新しい治療薬、治療法が次々と開発され、これまでの治療アルゴリズムとはまったく違ったものをつくり上げることには大きなやり甲斐を感じます。

 2014年から日本血液学会理事長に就任し、薬の導入、専門医プログラムの作成、研究助成、学術集会などに関する運営に関わっています。学術集会には毎回約7,000人が参加しています。これらの学会活動により日本の血液専門医に関しては、最新の情報が常にアップデートされている状態であり、良くまとまっている学会であると自負しています。

 昨今の科学技術革新により、診断、治療技術は、血液学の世界だけでなくほかのさまざまな医療分野に大きな変革をもたらしています。

 次の学術集会「第82回日本血液学会学術集会」は10月9日~11日の3日間、国立京都国際会館で開催されます。2022年に福岡で開催される同学術集会では私が学会長を務める予定です。

 また2021年には「第118回日本内科学会総会」の会長を務めることになっています。学会は、新しい情報に触れ、それを身につける場であるとともに、自分の発想で新たに見出したことを世に公表する創造の場でもあります。医師個人の実力を維持しさらに高めるために学会は重要な組織です。

 さらにこのような学会活動を通じて、各分野の専門医が分野を超えて日本の医療制度のあり方や改善すべき所、そのための方策などについて協力して情報を発信する必要があります。そのようなまとまった動きができていないことが問題だと思います。

(了)

(前)

関連記事