2024年04月26日( 金 )

県美移転でアート拠点が集積 都心部のオアシス・大濠公園

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国内有数の美術館エリアへ

都心のオアシス「大濠公園」
都心のオアシス「大濠公園」

 福岡県は今年1月、老朽化の進行や狭隘化などの要因から建替えが検討されていた「福岡県立美術館」について、現在の須崎公園敷地内から移転し、新たに大濠公園内に建設することを決定した。新・福岡県立美術館は、公園南側に位置する福岡武道館および日本庭園の一部を再整備した場所に建設される。

 移転先となる大濠公園は、交通至便で人が集まりやすく、県を代表する風光明媚な都市公園として高い知名度を有している。また、県と市が共同で策定した「セントラルパーク構想」では、隣接する舞鶴公園と大濠公園とを歴史・芸術文化・観光の発信拠点として一体的に活用することで、公園そのものを広大なミュージアム空間に見立てようとしている。

 今回、大濠公園内南側に位置する福岡市美術館の至近地に県美術館が移転することで、国内有数の美術館エリアが誕生することになる。また、隣接する日本庭園は日本を代表する造園家・中根金作氏が手がけたもので、県美術館と庭園とを一体的に整備することで、日本庭園の良さをいかした魅力ある美術館にすることが可能だ。こうして県美術館の移転によって、国内外から多くの観光客が訪れる大濠公園の魅力がより一層高まるとともに、セントラルパークとしての機能と魅力が高まることが期待されている。なお、現在の福岡武道館の閉館時期やその移転先、さらに新・県美術館の開館時期については未定。

現在は須崎公園内にある「福岡県立美術館」
現在は須崎公園内にある「福岡県立美術館」

福岡を代表する都市公園

 福岡市の都心部にありながら約39.8haもの広大な敷地をもつ大濠公園は、敷地の半分以上を巨大な池が占める全国でも有数の水景公園であり、“都心部のオアシス”として市民を始め多くの人々に親しまれてきた。池の周囲には全長約2kmの周回園路が整備され、昼夜問わず多くの人がウォーキングやジョギング、サイクリングなどを楽しんでいる様子が見られる。

 元々は博多湾の入り江であったこの地を、1600年前後の慶長年間に黒田長政公が福岡城築城の際、外濠として利用したのが現在のかたちの始まり。その後、明治期の福岡城廃城にともなって埋め立ても検討されたが、1927年に開催された「東亜勧業博覧会」を機に公園造成工事が行われ、29年3月に「県営大濠公園」として開園を迎えた。終戦後の66年3月に開催された「福岡大博覧会」では、その会場としての利用のために公園東側の再整備を実施。

 また、72年頃から福岡市で美術館建設の意向が高まり、76年1月にはその建設地として大濠公園が選定され、79年11月に福岡市美術館が開館した。また、市美術館の至近地には、大濠公園の開園50周年記念事業として築庭された築山林泉廻遊式の日本庭園が84年に開園したほか、86年3月には園内の北西側に能楽堂が開業。こうして大濠公園は、単なる公園としてだけでなく、芸術・文化拠点としての性格も帯びていった。

 現在、園内には遊具などを備えた児童公園も2カ所整備されているほか、水辺には「スターバックスコーヒー 福岡大濠公園店」(10年4月オープン)や、4つの店舗からなる複合飲食施設「ボートハウス大濠パーク」(15年2月オープン)などもある。さらに、市美術館が16年9月から約2年半の休館および大規模改修を経て、19年3月にリニューアルオープン。大濠公園は、観光や娯楽、憩いの場として多くの人々に親しまれている。

19年3月にリニューアルオープンした「福岡市美術館」
19年3月にリニューアルオープンした「福岡市美術館」

刷新され続ける魅力

 その大濠公園と東側に隣接する舞鶴公園では現在、県と市が共同で「セントラルパーク構想」を打ち出しており、両公園を一体的に活用することで、県民・市民の憩いの場としての役割や、歴史や芸術文化、観光の発信拠点となるような公園づくりが進められようとしている。両公園と周辺エリアを含めた約80haを一体整備する巨大プロジェクトだ。

 ここで“福岡のセントラルパーク”が目指す姿として掲げられた基本理念は、「時をわたり、人をつなごう。~未来へつながる福岡のシンボルへ~」というもの。ウォーキングやジョギングなど、これまでと同じような日常的な利用に加え、イベントの開催地としての活用も視野に入れている。また、四季折々の植物・生き物の観察が楽しめる自然公園としての役割はもちろんのこと、市美術館と新・県美術館の2つの美術館の存在をいかし、アートめぐりの拠点としての存在感も高めていく予定だ。

 実施計画については、2032年までの「短期」と、その後の「短期以降」の2つのフェーズで、管理運営や再整備の事業が進められる計画。短期では、ソフト施策の充実とそれを支えるハード整備の推進による両公園の魅力の向上に加え、回遊性の強化に主眼が置かれている。短期終了後も、遺構の復元などを始めとした歴史の重層性の表現とさまざまな利活用を育む大規模な広場空間の創出を実現することで、両公園が“福岡の真のランドマーク”として愛され続ける公園となるための整備や、仕組みづくりなどを進めていく計画だ。

 こうして将来的には、舞鶴公園と合わせて福岡都心部の「セントラルパーク」として一体的な整備が進められる大濠公園だが、直近の動きでも魅力の刷新には余念がない。

 19年8月に県は、Park-PFIを活用した「大濠公園飲食店等整備事業」における店舗設置予定者として、クレアプラニング(株)を代表企業とする「大濠公園『つなぐ』プロジェクト」を選定した。同事業は、大濠公園の南側に位置する日本庭園を観光資源としていかすべく、隣接エリアに日本茶(八女茶)をテーマとした和風カフェや着物レンタル店などが入る施設(木造一部2階建)を整備するほか、公園利用者や店舗利用者を日本庭園へ誘引する園路の整備などを行うもの。20年7月の供用開始を予定しており、事業期間は39年8月末まで。すぐ隣には県美術館の移転も予定されており、市美術館も合わせて、公園南側エリアの魅力向上が期待される。

開園50周年を記念して築庭された「大濠公園日本庭園」
開園50周年を記念して築庭された「大濠公園日本庭園」

 大濠公園の周辺は、福岡市内でもとくに住環境としての人気が高いエリアだが、その要因として、都心部にありながら広大な自然・緑が将来的に担保されている同園の存在は非常に大きいだろう。住環境が良ければ周辺人口も増えていき、そして人が増えれば、自然と賑わいの創出にもつながっていく。単なる憩いの場としてだけでなく、観光や芸術・文化拠点としての役割も併せもち、さらには周辺の魅力・活力をも高めていく力を秘めた同園は、福岡都心部において、なくてはならない貴重な都市公園だといえよう。

【坂田 憲治】

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