2024年04月20日( 土 )

コロナで変わる世界、今後の鉄道の在り方は~JR九州初代社長・石井幸孝氏に聞く(後)

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 現在、世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルス。何よりの脅威はその感染力の高さで、感染拡大防止には人と人との接触を遮断せざるを得ず、外出自粛や店舗の休業要請などで多方面に影響をおよぼしている。そのなかで、人の往来が減ったことで減便対応を余儀なくされるなど、本来のポテンシャルを発揮できない状態に陥っているのが、鉄道を始めとした公共交通機関だ。今回のコロナを契機に、鉄道の在り方はどうなっていくのか――。九州旅客鉄道(株)(JR九州)の初代社長を務めた石井幸孝氏に聞いた。

“移動”を1つのサービスとして

 ――今回の件で、今後の鉄道業界自体の再編の可能性などはいかがでしょうか。

 石井 ご存じのように、現在のJR各社は、もともとは国鉄として1つだったものが、地域ごとに6分割になっているわけです。在来線での通勤・通学などの近距離輸送に関しては、各社それぞれが責任をもってやらなければなりませんが、逆にいうと長距離移動――つまり新幹線のようなものは各社の境界を越えるようなものですから、分割にはもともと馴染まないものなのです。
 また、鉄道貨物輸送も長距離になればなるほど鉄道の優位性が出てきますから、新幹線や貨物輸送というのは、本来はJRの分割会社のテリトリーを越えるような性質のものです。そのため、再編というよりも、長距離輸送のところはお互いに一体的になってビジネスを行っていくような、そうした方向性にしていかなければなりません。

 ――現状の6分割のJR各社については、地域ごとの担当はそのままに、長距離の部分については一体化して運営していくほうが、効率的で望ましい、と。

 石井 その通りです。加えて今は、「MaaS(マース)」という考え方もあります。これは、主に旅客輸送でいわれているものですが、たとえばJRで行って、私鉄に乗り換え、さらにタクシーで目的地まで行くといったように、移動というものを1つのサービスとして考えていくものです。
 今はこのMaaSの動きが盛んになってきていて、各交通事業者がMaaSへの取り組みを進めようとしていますが、私はこれから物流にこそ、MaaSが必要だと思っています。

 これからは、違う組織の人が協力し合っていく時代です。物流に関係する事業者というのはたくさんありますが、お互いに協力し合って、AというところからBというところまで物を送る場合の、1つのサービスとしての移動をより良いものにしていく。こうしたMaaSの考え方が、物流においてもより大事になってくるように思います。

 ――統合とか再編ではなく、違う組織として協力し合って、全体としてサービスを提供していく、と。

 石井 旅客輸送でも貨物輸送でもいえることですが、AからBまで移動する際に、いろいろな交通機関が関わってきます。自宅から会社まで通勤するのにも、いろいろな交通機関を乗り継いでいくじゃないですか。物流も一緒なんですね。ですから、組織という枠を越えて、1つのサービスとして移動というものを考えていく。これからはそういう時代になっていきますし、その前提でビジネスを組み立てていく必要が出てくると思います。

 現在のコロナの問題は、一刻も早く解決・収束に向かってほしいですが、長引いてしまうことも考えられます。また、仮に少し収まってきたとしても、人や企業の習慣というものは変わっていきますから、以前のようには新幹線に乗らなくなっていく可能性もあるでしょう。ですから、物流新幹線というものは、もっと真剣に検討されるべきではないでしょうか。そちらのほうが、JRの経営的にもプラスになりますし、国民経済的にも、国家的にも、今あるモノを活かすほうが効率的です。
 今ある資産を最大限活用していくために、どのような手を打っていくか――。これからは、そういった考え方が大事なのではないでしょうか。

(了)

【坂田 憲治】


<プロフィール>
石井 幸孝(いしい・よしたか)
1932年10月、広島県呉市生まれ。55年3月に東京大学工学部機械工学科を卒業後、同年4月に国鉄に入社。蒸気機関車の補修などを担当し、59年からはディーゼル車両担当技師を務めた。85年、常務理事・首都圏本部長に就任し、国鉄分割・民営化に携わる。86年、九州総局長を経て、翌87年に発足した九州旅客鉄道(株)(JR九州)の初代代表取締役社長に就任。多角経営に取り組み、民間企業となったJR九州を軌道に乗せた。2002年に同社会長を退任。近著に「人口減少と鉄道」(18年3月発刊/朝日新書)。

(中)

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