2024年05月12日( 日 )

傾斜のマンションで匿名文書が配布される!(3)

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構造スリットの未施工は六番館だけでなく全棟?

 ――仲盛さんは、以前、このマンションの構造スリットが未施工であると指摘されていました。構造スリットとは どういうものですか?

 仲盛 建物の壁には玄関や窓などの開口があります。開口ではない部分の壁が柱や梁に取り付いています。

 地震時に柱が大きな力が集中し破壊することがないように、柱と梁の間に隙間(構造スリット)を設けて縁を切ります。構造計算は構造スリットが施工されている前提で行われています。この重要な構造スリットが施工されていなければ、その建物は構造計算書や構造図(=建築確認の内容)と別物の建物だといえます。図面通りではない建物=販売価格の価値を有さない建物 なのです。

 ――なぜ、構造スリットが施工されていないという事例があるのでしょうか?

 仲盛 施工業者が、意図的かどうかは別として、施工の簡略化・コストダウンを図っているのです。タイルなどの仕上げの上からは 構造スリットの有無が見た目でわからなくなるので、手抜き工事をやりやすい箇所ではないでしょうか。

 ――構造スリットがある場合とない場合では、建築コストに差が出るのでしょうか?

 仲盛 構造スリットを設けていれば、柱に大きな力がかからないので、比較的小さなコンクリート寸法や配筋で済みます。しかし、構造スリットを設けていない場合には、必然的に柱に大きな力がかかるので、コンクリート寸法は大きくなり、配筋も相当多くなります。コンクリート強度を上げることが必要な場合もあります。また、構造スリットを設けるためには、型枠や鉄筋工事での手間が増えます。外壁のタイルの割付けにも影響があります。これらの材料や手間を考えれば、建築コストの差は非常に大きいといえます。

 ――すでに建設されたマンションに、あとから構造スリットを施工することは可能ですか?

 仲盛 あとから構造スリットを施工する作業は物理的には可能ですが、外装のタイルや内装のクロスやボードを剥がして復旧することは大変な作業です。すべての住戸の室内側での作業が発生するので、居室内に入って工事を行うことになり、工事期間中、住人は別の仮住まいに引っ越す必要があります。また、作業中は大きな騒音と振動が続きます。

 共用部分である構造躯体に手を加えるので、区分所有者の4分の3以上の同意が必要になります。騒音・振動、引越しなど面倒なことになるのに、4分の3以上の同意を得ることは 非常に困難なことだといえます。

 ――構造スリットの施工が困難であれば、是正はできないということですか?
 仲盛 既存の建物に構造スリットを後から施工することができない場合には、解体・建替えという選択肢になると思います。六番館の解体・建替えだけでも 引越しや仮住まいも含めて 数十億円かかると思われます。

 構造スリットが施工されていないのは六番館だけではありません。すべての棟に当てはまります。すべての棟を 解体し建て替えるとなると数百億円の規模になります。

 ――構造スリットの未施工について、区分所有者は、どのような行動をとれば良いのでしょうか?
 仲盛 「図面通りに構造スリットを施工せよ」と若築建設に要求し、相手がすぐに応じてくれ、区分所有者の4分の3以上の同意が得られれば是正工事に進むことができると思います。しかし、現実的には簡単にはできないと思われるので、「構造スリットが図面や構造計算書通りに施工されていないこと」 「ゼネコンであり販売者である若築建設が一連の施工瑕疵を認めていること」 「地震が起きても壊れないこと・違法ではないことを行政として証明できるか?」を行政である福岡市に相談をすべきです。行政側の答えは火を見るより明らかです。

若築建設がもっとも恐れることは何か?

 ――若築建設は構造スリットの施工や解体・建替えに応じるのでしょうか?

 仲盛 構造スリットの問題は 六番館以外のすべての棟にも共通することです。私が 構造スリットの問題を提起したことにより、若築建設がもっとも恐れていることは「全棟の是正」 「全棟の建替え」です。「六番館建替え」だけでも避けたいところなのに「全棟建替え」という事態になれば、会社存続の危機に追い込まれます。

 ――若築建設が六番館の施工不良に関して 謝罪の意向を示したということは、どう解釈すればよいのでしょうか?

 仲盛 若築建設は 販売業者であり施工業者でもあり JV内の配分比率も大きいので、若築建設が謝罪の意向を示したということは 若築建設が「全面的な建替え」という選択肢を避けたいからに他なりません。

 新聞には「若築建設が謝罪の意向を示した」と報道されていましたが、何を謝罪するのか具体的には示されていませんでした。仮に私が若築建設の立場であれば、杭長の調査を行った後の謝罪ですから、杭長が短かったということだけを謝罪します。

 六番館の杭長が短いことだけについて話し合いで解決したとしても、すべての棟の構造スリットの問題や耐震強度不足の問題が解決するはずはありません。つまり、今後、六番館以外の棟における施工ミスについても若築建設を追及できなくなるのです。

 すでに 六番館以外の棟も風評被害が出ているので、六番館だけの問題として終わらせることは 若築建設の思う壺であり、ここに若築建設の狙いがあると思います。

 今 重要なことは、六番館の問題だけで若築建設と妥協するのではなく、全棟の構造スリット未施工など問題について適正な建物に戻すよう、若築建設に要求することです。

(つづく)
【桑野 健介】

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