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2020年05月28日 16:04

「徒歩の調査」から見た福島第一原発事故 被曝地からの報告(後)

元福島市渡利住民 千葉 茂樹

福島市渡利は「放射線管理区域」以上の汚染、人間が住む土地ではない

 2011年5~6月、福島市渡利では、どこに行ってもメーターが大きく振れた。特にひどかったのは、渡利小学校近くの阿武隈川の堤防であった。土を測ると、針が1000~2000cpsを行ったり来たりした。平均は約1300cpsで、これをトロント大学方式で換算すると、593万Bq/m2になる。

 自宅の庭は、どこでも40cps(18万Bq/m2)以上、最大で100cps(46万Bq/m2)であった。当時の渡利は放射線管理区域の基準4万Bq/m2をはるかに超える値で、本来なら人間を緊急避難させなければならない数値であった。また、調査した福島県中通りでは、至る所で放射線管理区域に該当する数値を示した。なお、2020年、猪苗代で地表を測定しても、メーターはほとんど振れない。

 上記の換算値の信頼性を考える。例として2013年9月22日、飯舘村で測定した「黒い土」表面の値を挙げる。Rad Monitor GM1の実測値600cps、換算値274万Bq/m2(β線+γ線)。表⾯汚染密度の専用測定器SEA社製CoMo170の測定値227万Bq/m2(γ線)。ともに放射線源をセシウム137とした場合の換算値である。このように、β線+γ線とγ線の違いはあるが、ほぼ信頼できる換算値である。なお、CoMo170は、2013年6月28日に新品購入したものである。

原子力災害現地対策本部へのデータ提供

 事故直後、原子力災害現地対策本部(政府直属)が福島県庁内に設置された。後日わかったことであるが、当時は県内の汚染状況の具体的なデータが入手できず、対応に窮したとのことであった。

 2011年6月、原子力災害現地対策本部長より電話があり、調査データの提供を求められた。私の調査を人づてに知ったとのことである。データの提供はほぼ毎日で、8月の本部長の交代まで続いた。この間、私の調査データを基に県内各地で原発事故への対応が試みられた。

 7月25日、私は原子力災害現地対策本部に赴き、本部長に直接、以下のことを提案した。「第1案:渡利地区の全住民の即時避難。第2案:渡利地区全住民の7~10日程度の一時退避、その間の自衛隊大量投入による厳重な除染」。また、「私が本部に転勤し、本格的に調査してもよい」との意向を示した。しかし、どちらも回答保留のまま8月中旬、内閣改造人事で本部長交代となった。新本部長は、福島県庁に赴任せず永田町から指揮することになった。

高い放射線を出す「不気味な黒い土」

 2011年5月から調査を進めると、空間放射線量率(μSv/h)が高い場所の直下に、特徴的な「黒い土」があることに気が付いた。多くはアスファルトの地面の窪みにあった、色は黒く、表面にはお菓子の歌舞伎揚げやマカロンのような割れ目があった、試料採集時の感覚は「豆腐のおから」のようであった。この土に放射線測定器を当てると、メーターが大きく振れた。同様の「黒い土」は、県内の他地域にもあった。これらをまとめて記事にし、地学団体研究会(地質学の学会)の機関誌「そくほう」に投稿、2012年5月1日発行の同誌に掲載された。

 この記事が契機となって、名古屋大学名誉教授の諏訪兼位氏・鈴木和博氏と共同研究を開始した。この研究で「黒い土が高い放射線を出す原因は、黒い土に混じるスメクタイトという鉱物が放射性セシウムを選択的に取り込むため」とわかった。スメクタイトとは、園芸用に売られている土「バーミキュライト(ヒル石)」の仲間である。また、黒い土の放射能については、前述のように京都大学原子炉研究所の小出裕章氏に測定していただいた。

かわいそうな動物たち

 2012年4月30日、飯舘村の調査に出かけた。細道を車で走っていると、犬が駆け寄ってきた。住民は避難したが犬は置かれたままだったのだ。車を止めると、運転席の窓に犬が近づき、立ち上がって人恋しそうな仕草をした。私は、持っていた食料を与えてその場を去った。

除染は終わった、のか?

 2020年5月現在、福島県内の除染は、特に住宅地及びその周辺は終了している。現在は、森林の除染に移っている。私の調査では「公的な除染が終わった」地域でも、未だに放射性物質が残存することがわかった。また、この報告を書くに当たり、原発事故直後から2020年までの「実測データ」を見返した。今、落ち着いた状態で当時のデータを見ると、「驚愕する測定値や悲惨な写真」が記録されている。尋常ではない。このような原発事故は、もう二度と起こしてはならない。

 私の調査の論文や報告書は、京都大学吉田英生教授のHP(Watt & Edison)に掲載されている。繰り返すが、私が被曝しながら徒歩で調査した詳細なデータである。また、2019年の調査結果をまとめた論文は、現在、学会誌に2編投稿中である。執筆中の論文もある。論文出版後に順次掲載の予定であるので、時折チェックしていいただければ幸いである。

(了)


〈プロフィール〉
千葉 茂樹
1958年生まれ。岩手県一関市出身。元福島県高等学校教諭。専門は火山地質学。調査の中心は磐梯山。この他に、「富士山、可視北端の福島県からの姿」などの多数の論文がある。2011年3月11日の福島第一原発事故の際は、福島市渡利に居住していた。翌12日、会津の猪苗代にいったん避難して20日に渡利に戻る。異変を感じたことから、専門外の「放射性物質による汚染」の研究を始めた。その後、阿武隈山系の平田村に転勤となる。平田村は原発から約45kmと近いが、地形の影響で「汚染がドーナツ状に低い地域」のほぼ中心にある。著者の調査形態は、地質調査と同じ「徒歩」が基本。2019年3月で定年退職。

※詳細な調査データは「報告書・論文など」として、京都大学吉田英生教授のHP(Watt & Edison)http://wattandedison.com/Chiba2.htmlに掲載。磐梯山の論文も含む。

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