2024年04月18日( 木 )

新型コロナ後の世界~「信頼の絆と弱者への労わりの心」を回復!(1)

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武蔵野大学客員教授・光輪寺住職 村石 恵照 氏

 今人類は、「パーフェクトストーム」(複数の厄災が同時に起こり、破滅的な事態に至ること)の洗礼を受けており、この地球は前代未聞の嵐に飲み込まれようとしている。「新型コロナ」後の世界の風景は、今生きている私たちの誰もが見たこともない、経験したこともない、考えたこともないものになる。そこでは、今までのように、現実の問題を唯々紡いでいくだけでは、一向に心の平穏は得られないし、未来も見えて来ない。

 村石恵照・武蔵野大学客員教授・東京仏教学院講師・光輪寺住職に話を聞いた。村石先生は20世紀文学の最高傑作『1984年』の著者ジョージ・オーウェルの研究者でもある。IMFは、新型コロナ後の世界について、2008年のリーマン・ショックを超え、1929年の世界大恐慌(オーウェルの生きた時代)に迫るとの予測を発表した。

新型コロナは現代が抱えている諸問題をあぶり出した感がある

 ――先生は今回の「新型コロナ」騒動をどのようにご覧になっていますか。

村石 恵照 氏

 村石恵照氏(以下、村石) 今回の「新型コロナウイルス」(以下、新型コロナ)は中国の武漢で発生しました。当初は「なぜ武漢で発生したのか」「自然的なものが変異したのか」「人工的につくられたものか」などさまざまな意見が新聞・雑誌を中心にマスメディアに現れました。そして、実体がわからずに右往左往しているうちに、いつの間にか世界的な大事件になってしまったというのが多くの方の正直な感想だと思います。私は専門が仏教ですので、感染症そのものや、国際政治・経済に精通しているわけではありません。そこで、仏教的、つまり縁起的見方や「一水四見(※1)」の立場で、自分のささやかな体験に照らしてお話させていただきます。

 先ず、認識しなければならないことは、新型コロナは現在も進行中で、これからも新しい事態がどんどん起きてくる可能性があるということです。しかし確実にいえることは、新型コロナは、感染症という医学領域にとどまることなく、国際政治・経済、さらには社会、文化にまで大きな影響を与える問題であるということです。武漢で発生したということで、一帯一路という世界的経済構想を進める中国にとって、従来の軍拡競争を超えたかたちで米中関係にも関わり、さらに欧州やアフリカにも関わってきます。言ってみれば、現代が抱えている諸問題をあぶり出した感があります。

「歴史は決して繰り返すことがない」というのが真相

 村石 これは一種の文明病です。感染者数200万人(6月13日現在)を超えていまなお増加中であるアメリカを筆頭に、英国、スペイン、イタリア、ドイツなど欧米先進国も上位に名を連ねています。しかし、歴史上最大の死者が出たといわれる黒死病(ペスト)(※2)が発生した時代(14世紀)や、世界中に拡散し、日本も影響を受けたスペインかぜ(1918−20)が流行した当時とは大きく違うのではないでしょうか。現代は科学も医学も発達して、防疫環境も衛生環境も格段に進歩し、整っています。さらに、インターネットによって、全世界の人々がこの状況を同時に体験しています。新型コロナは基本的には大騒ぎしてはいけないことです。慌てることなく、冷静に向き合って、粛々と、迅速に現実的な対処を行うことが必要です。

 また、今回の新型コロナを「人類と感染症、戦いと共存の歴史」になぞらえて、「歴史は繰り返す」という知識人の方がいます。しかし、私はこのことに対しては疑問をもって受け止めています。今日の私は昨日の私と違うように、「歴史は決して繰り返すことがない」というのが真相だからです。さらに申し上げれば、「歴史は繰り返す」と言っても、何の説明にもなっていませんし、何の解決にもならないということです。そのようなことを仏教用語では「戯論(けろん)」(無意味で無益な言論のこと)と言い、仏陀は「諸法実相」(※3)すなわち、今起きている実際、実体を総合的に見なさい、と教えています。

※1:一水四見
 仏教の認識論(唯識説)による縁起を説明する喩え。人間が水と見るものを、天人は瑠璃でできた美しい大地、地獄の住人は膿みで充満した河、魚は住処として見る。同一の客観的対象は、主観の認識能力・機能・立場などによって様々に認識されうること。しかもさまざまな観察者たちと彼らの共通とされる観察対象自体も、「即非の論理(鈴木大拙)」において、一切が相互に連動していて諸行無常の変化をしている。^

※2:黒死病(ペスト)
 1347年に、ネズミなどのげっ歯類に蔓延したペスト菌がノミを媒介にして、ヨーロッパに蔓延した。当時の欧州の人口の約3分の1に当たる7,500万人から1億人が死亡したとされる。^

※3:諸法実相
 この現実の世界の存在の真の姿、また、すべての存在に普遍的に存する、時間や空間を超越した絶対的真実の有り様。^

(つづく)

【金木 亮憲】


<プロフィール>
村石 恵照 (むらいし・えしょう)

武蔵野大学客員教授・東京仏教学院講師・光輪寺住職。外国政府機関勤務、出版社経営、英文毎日コラムニストなどを経て武蔵野大学政治経済学部教授(2012年3月まで)。日本ビジネスインテリジェンス協会(BIS)副会長。研究領域は仏教学・日本文化論・イギリス思想(ジョージ・オーウェル)など。
論文・著作として”A Study of Shinran's Major Work; the Kyo-gyo-shin-sho”『東洋学研究』第20号、『旅の会話集(15)ハンガリー・チェコ・ポーランド語/英語 (地球の歩き方)』、『仏陀のエネルギー・ヨーロッパに生きる親鸞の心』(翻訳)、『オーウェル―20世紀を超えて』(共著)、「いのちをめぐる仏教知のパラダイム試論」『仏教最前線の課題』、『Gentle Charm of Japan』など多数。

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