2024年04月24日( 水 )

中国経済新聞に学ぶ~海南島自由貿易港(前)香港の地位を奪えるか

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 中国が各地の経済発展と自由貿易の推進のために設置している自由貿易区。最南端の海南省に設置された自由貿易港区について、近頃、習近平・国家主席が指示をだした。本稿では海南省の自由貿易港区の位置づけについて、次回は自由貿易港区の制度設計について紹介する。

 中国の海南島で自由貿易港が設立されて1年半が過ぎたが、いまだに明確な策が打ち出されていない。先ころ習近平主席が改めて「催促」したことが注目を集めている。新華社は6月1日、習主席がこの自由貿易港整備について、「制度を集めて一新すること」を強調し、整った事業から始めるように指示したと報道した。

 習主席は、国際的なレベルの貿易ルールと結びつけ、生産面で流れを自由かつ便利なものとし、質や規格の高い自由貿易港とするよう求めている。また、この事業は新時代における改革開放を進めるうえで大切なものだと強調した。

海南島は中国最南端のリゾート地

 中国政府も、海南島の自由貿易港整備に関する全体案をすでに打ち出している。このプロジェクトは国としての戦略であり、対外開放を一段と拡大する決意が現れている。海南島自由貿易港について、「習総書記が自ら計画し、自ら手配し、自ら推進する改革開放の重大な措置である」と明記されており、つまり中国のトップ自ら大いなる期待を寄せていることがうかがえる。

 全体案ではまた、自由貿易港を「新時代における対外開放をリードする鮮明な旗印で、重要な玄関口とする」と示されている。計画では、海南島を「改革開放を本格展開する試験エリア、国の収益体制の試験エリア、国際観光消費の中心で国の重要な戦略事業保障エリア」とし、「観光業、近代サービス業、「イテク産業」集結の場と見ている。

 こうした位置付けから、海南島は同じく自由貿易港である香港と競争関係になる。2025年までに全島をゼロ関税とし最大の免税港とする予定である。全体案によると、「島内で消費される海外の商品についてリストを作成し、免税購入を認める」、かつ「免税品の購入限度額を年間1人あたり10万元に拡大し、またその品目も増やす」とのことである。

 すなわち、2025年までに第1ステップの整備を完成させ、香港に匹敵するショッピングセンターとなる模様である。

 香港経済が国家安全法の導入で地盤沈下する恐れもあるなか、海南を香港に代わる「金融・貿易センター」に育てようとする思惑も指摘されている。香港は中国による国家安全法導入決定で「国際金融センター」の位置付けが揺らぐ恐れを指摘され、計画には「香港に対する圧力をつくりあげるものだ」(香港メディア)との懸念も付きまとう。

 だが、国家発展改革委員会の林念修(りん・ねんしゅう)副主任は8日の記者会見で、「海南自由貿易港と香港の位置づけは異なる。香港に衝撃を与えることはない」と懸念払拭を図った。

 香港に対する中国政府の不安感が高まりつつあるなか、海南島がその地位を奪い、香港が弱まることになるのだろうか。それは決して簡単なことではない。両者は金融サービスの面で以下のような開きがある。

 まず、資金の出入りについて香港のほうが自由である。全体案によると、海南島は国外との資金の流動が自由化されるのは2035年まで待たなければならない。現在は中国の外貨口座と自由貿易口座をベースとする資金流動の場であり、資金は香港ほど自由には流れない。その点香港は、ドルが流れ込んでも為替リスクは存在しない。

 中国は昨年1年間で外国から1,381億ドルの直接投資(FDI)を得ており、その70%にあたる963億ドルが香港経由であった。また2018年の中国からの対外投資額は1,430億ドルで、このうち香港経由が61%にあたる869億であった。香港は中国にとって大切な資金の窓口となっているのだ。

 次に、司法の面で香港のほうが勝っている。香港の法律は海外の投資家も慣れている英米系のものであるが、海南島は中国のものである。全体案では、「海南島は自由貿易港の法律をベースとし、地方の法規やビジネス上の紛争解決体制を重要な構成要素とする自由貿易港の法体系を整備する」と示されているが、香港の法律のほうが整っており、また司法も独立しているので外国企業も受け入れやすい。

 自由貿易港の目標は、モノや人、資金を自由に流通させることであるが、それを保障するのは司法である。香港の司法は整備され、これにともなう事業も発達しており、こうした優位性はすぐには変わらないだろう。

 そして、香港は税率が低く、税制もシンプルなので国際競争力がある。全体案によると、海南島も「関税撤廃、税率引き下げ、税制簡素化を段階的に実施する」としており、2025年までは企業所得税、個人所得税ともに税率15%、それ以降は個人所得税について3%、10%、15%といった累進課税を導入する。

 香港の投資関連データによると、各業界や専門業務もしくは商業で、香港で発生もしくは取得した利益に対する税率について、法人で200万香港ドルの場合は8.25%で、その後の評価税利益は16.5%となっている。また個人の所得に対する課税割合は2%から15%である。一方、海南島の税率は企業も個人もそれより高い。そして香港はグレーターベイエリア(広東省・マカオを含む大規模な開発計画)などという好機もあり、また中国と接しているおかけでサービス業、運輸業、金融や教育などもさらなる発展が望める。

 海南島の自由貿易港は、対象範囲が島全体であり、2025年までに貿易や投資を自由で便利なものとすることを主眼にした自由貿易港の制度体系を整え、2035年までに開放型経済を進める中国の新たな拠点となり、21世紀半ばには国際影響力を備えたハイレベルな自由貿易港になる、との目標を掲げている。

 そして海南島は、香港やシンガポールにプレッシャーを感じさせる存在になることも間違いないだろう。

(つづく)


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