最近の遺伝子研究からみえてきたこと~日本人のご先祖様について

縄文アイヌ研究会 主宰 澤田健一

遺伝子研究 イメージ    近年の遺伝子解析における技術革新には目を見張るものがあります。以前はミトコンドリアDNAを用いていましたが、これは母親の情報が娘を通して伝えられていくものです。これには男性の情報は一切含まれませんし、女性といっても父方の祖母の情報も皆無なのです。十代遡ると延べ1,024人のご先祖さまがいますが、そのうちのたった1人の女性の情報しか残らないのです。たった十代で全体の0.1%以下の情報になってしまうのです。

 対して近年の解析に用いられているのは核DNAといい、それは両親からの情報を受け取ることができます。十代前のご先祖さまの延べ1,024人すべての情報が伝わっているのです。これによって圧倒的に正確な人類の系統樹が描けるようになりました。

 しかも、遺伝子は4種類の塩基が連なって構成されますが、塩基数にも格段の違いがあります。ミトコンドリアのそれは約1万6,500個であるのに対して、核は約32億個もあります。核DNAはヒトの完全な設計図なのです。遺伝情報は量においても質においても核DNAのほうが断然優れているのです。

 近年の核DNAを用いた解析成果を、順を追ってご説明していきます。19(令和元)年5月に国立科学博物館、国立遺伝学研究所、東京大学など7研究機関の合同研究によって、「アイヌは縄文人の遺伝子を約7割も受け継いでいる」と発表されました。アイヌは縄文人の子孫ではない、との推論が否定されることになったのです。

 翌年の20(令和2)年8月には、東京大学、東京大学大学院、金沢大学の3研究機関による『縄文人ゲノム解析から見えてきた東ユーラシアの人類史』では、「アイヌは日本列島の最古の住人であり縄文人とアイヌは同じクラスター(枝)にいる」「現在東ユーラシアに住んでいるすべての人々は南ルートでやってきた」「縄文人は東ユーラシア人の根に位置しており東ユーラシア人の創始集団である」ことなどが発表された。

 アイヌが12、13世紀頃に北方からわたってきた異民族であるという主張は完全に成り立たなくなりました。12世紀の移民どころか日本列島の最古の住人なのです。また縄文人は東ユーラシア人の創始集団だという。これまで人は大陸から日本へ入ってきたと主張されてきましたが、人は、そして文化や技術も日本から大陸へと拡散していったのです。文化と技術に関しては別号で説明します。さらにはすべての東ユーラシア人は南方からやってきたのです。それまで学者たちが主張していたアイヌ北方起源説に反して、アイヌの技術や文化、道具や楽器などが南方と同じだと指摘しながらアイヌ南方起源説を唱えてきましたが、それが正しかったことも証明されました。

 さらに翌21(令和3)年9月には、金沢大学などが合同で発表した『パレオゲノミクスで解明された日本人の三重構造』では、弥生時代には大陸南方からの遺伝子流入はなく、北東アジアの遺伝子の混入があり、古墳時代になってから大陸南方からの遺伝子混入が始まったとされました。これも改めて別号で解説しますが、約1万年前の江南地方で水田稲作を始めたのは日本民族なのです。紀元前10世紀に水田稲作の技術を北部九州に持ち込んだのは異民族ではなく、日本民族自身なのです。だから弥生時代にはその方面からの異民族遺伝子が入ってこないのです。朝鮮半島経由の移民が始まったのは、日本書紀が記すように古墳時代になってから本格化するのです。学者が言っていた、稲作技術をもった異民族が渡来して弥生人になったというのは、もう成り立ちません。学者よりも日本書紀が正しいと遺伝子が証明する時代になったのです。

 そして昨年の24(令和6)年4月には理化学研究所などが、3,256人分の日本人の全ゲノム情報を分析しました。この豊富なデータ数に基づく解析によって、金沢大学などが発表していた「日本民族の三重構造」は正しいと証明されました。弥生時代には朝鮮民族や漢民族などの渡来はなかったのです。これから弥生時代の解説が変更されていくことになるでしょう。

 この論文では驚くべき事実が公表されました。私たち日本人にはネアンデルタール人やデニソワ人の遺伝子が混入しているというのです。それら旧人の遺伝子が現代日本人の疾病に影響をおよぼしていることまで分かってきました。本当に凄い時代になってきたのだと思います。それまで日本人の核DNAはほかのアジア人とは明らかに異なっていることは分かっていました。その理由を説明できていなかったのですが、それが旧人の遺伝子混入によるものだと判明したのです。

 これまで学者の多くは、日本には4万年以上前の中期旧石器時代は存在しないと主張してきました。すでに60カ所ほど中期旧石器時代の遺跡とされるものが発見されてはいたのですが、学者たちは認めていなかったのです。石同士がぶつかって偶然石器のように見えるだけだというのです。そういうデタラメな解説はもう成り立たなくなります。中期旧石器時代に日本列島にいたネアンデルタール人やデニソワ人と混血して日本民族の原型である『夷』の遺伝子が誕生したのです。

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