2024年12月10日( 火 )

【株主総会血風録1】大戸屋ホールディングス~買収を仕掛けたコロワイドが戦わずして“戦線放棄”の奇々怪々(2)

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 定食チェーン「大戸屋ごはん処」を運営する(株)大戸屋ホールディングス(以下・大戸屋)が6月25日に都内で開いた定時株主総会で、筆頭株主の外食大手(株)コロワイドが提案していた取締役候補の議案が否決された。総会にはコロワイドは出席せず、株主提案の説明もなし。買収を仕掛けたコロワイドは”戦線放棄”したのだ。奇々怪々というほかはない。

三枝子未亡人と息子の智仁氏が相続した大戸屋株をコロワイドに売却

 そもそもの発端は、2015年7月大戸屋を実質的に創業した三森久実会長(当時)が57歳で死去したことだ。経営権をめぐり、久実氏の従兄弟にあたる窪田社長ら経営陣と、久実氏の妻の三枝子氏と息子で常務だった智仁氏が対立した。

 同年9月、三枝子氏らが社長室を訪れ、机に遺骨や遺影を置き、窪田氏に「社長として不適格なので、智仁にやらせる」と迫った。世にいう「お骨事件」である。

 16年2月に智仁氏は大戸屋を去り、17年に大戸屋が久実氏の功労金として創業家に2億円を支払い、お家騒動は落着したかに見えた。

 ところが、昨年10月1日、三森三枝子・智仁の両氏は久実氏から相続した大戸屋株式18.67%をコロワイドに30億円で譲渡した。コロワイドの野尻公平社長は11月15日の決算説明会で「M&Aも検討している」と説明した。

セントラルキッチンか店内調理かで激突

 コロワイドは、居酒屋「甘太郎」や「土間土間」、焼き肉の「牛角」、回転すしの「かっぱ寿司」、ステーキの「ステーキ宮」、ハンバーガーの「フレッシュネスバーガー」など多種多様な業態を展開する。セントラルキッチンをもち、多くの業態で共通の食材を使用することによる、効率的な運営に特徴がある。野尻社長は決算説明会の場で、大戸屋についても、セントラルキッチンを活用したコスト削減の可能性に言及した。

 さらに、買収に踏み込んだのは新型コロナの拡大による緊急事態宣言で客足が途絶え、外食産業が壊滅的な打撃を受けたことによる。

 20年4月、コロワイドは大戸屋に取締役刷新の株主提案をした。
 「このままでは大戸屋のフランチャイズ(FC)オーナーが離脱しかねない。早く決着をつけなければならない」。野尻社長はメディアに登場し、株主提案をした理由をこう語った。
 野尻氏は、大戸屋を子会社化すれば、「22年3月期には黒字化できる」と主張。その根拠として、全国10カ所で稼働しているコロワイドのセントラルキッチンの活用などで、約6億9,000万円のコスト削減が可能との試算を示した。

 大戸屋の窪田社長は、セントラルキッチン化に猛反発した。大戸屋の魅力はセントラルキッチンではなく店内で調理するところにある。各店舗で野菜や肉などをカットしており、焼き魚の定食などは前日にタレに浸して仕込んでおく。店内調理だと、必然的に店舗運営の人手が多くなる。開店前から仕込み作業を行うため労働時間も長くなる。店内調理を売り物としてきたが、これがコスト増となり赤字に直結した。

 コロワイドと大戸屋の意見の対立の争点は、セントラルキッチンか店内調理ということだった。大戸屋にとって店内調理は一丁目一番地であり、常連のファンが多いのは店内調理を行っていることにある。最大の魅力である店内調理を、コスト削減を理由として中止しますとはいえない。

創業者の実兄が「遺伝子は現経営陣が継いだ」と表明

 コロワイドの株主刷新の取締役候補に、創業者の息子・三森智仁氏も入った。大戸屋の創業精神を引き継ぐ者として、智仁氏を担いだ。
 智仁氏はメディアの取材に、「野尻社長から『大戸屋を日本一の定食屋にしたい』と言われて涙が出た。創業者の理念を一番近くで見てきた自分が力添えしたい」と語った。

 久実氏がこだわったのは店内調理だった。セントラルキッチンを導入すれば、味が下がり、お客の信頼を失うと考えていた。
 ところが、智仁氏が「創業者の理念」の継承者として、生命線である店内調理ではなく、セントラルキッチン導入のコロワイドの取締役に名を連ねたのだ。

 これには周囲も呆気にとられた。創業者三森久実氏の実兄で、社外取締役三森教雄・東京慈恵医科大学外科学講座特任教授が、マスコミに登場し、「遺伝子は現経営陣が継いだ」とコロワイドと智仁氏を牽制した。教雄氏は、創業家と経営陣の和解の労をとっていたが、智仁氏が株をコロワイドに売却するとは考えてもいなかったようだ。ことここに至って、創業家の長老として経営陣の支持を表明した。

(つづく)

【森村 和男】

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