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2020年07月13日 15:31

流通業界のニューノーマル~ブランドの溶解と新たな形

新型コロナで受けた危機

 我が国の民事再生法に当たる連邦破産法11章を申請してアメリカの伝統ファッションブランドのブルックスブラザーズが破綻した。同社の創業は、1818年のことだ。我が国の開国、いわゆる幕末のずっと前である。それから今日まで、幾多の苦難を乗り越えてきた企業が、あっけなく息絶えた。

 ここ十年来、ファッションを中心とした従来型小売業の不振が続いてきたが、コロナをきっかけに一気に加速した。この3~5月の間、我が国最大の小売業イオン(株)は539億円の赤字、(株)高島屋、(株)J.フロントリテイリングの百貨店両社も、それぞれ200億円の赤字を計上した。コンビニも同様で(株)セブン-イレブン・ジャパン(株)は営業利益が前年比13.3%減、同じく(株)ファミリーマートは67.9%の減少だった。(株)ローソンは81.5%減で42億円の赤字に転落した。

 アパレルの雄である(株)ファーストリテイリングも営業利益が93.2%の減少に。その結果、98億円の赤字に転落。ファーストリテイリングの場合は、季節性の高い商品の取り扱いが多いことを考えると、これからはその値下げによる影響も出てくると予想される。このことは、経費率と損益分岐点の両方が高い小売業や飲食業が客数減にさらされたとき、どうなるかを象徴的に物語るだろう。

 客数を見ると、コロナ後に買い物が従来のかたちに戻るかどうかは不透明だ。よしんば生活スタイルが元に戻ったとしても、「買い物意欲」の問題も考えなければならないからだ。モノの消費には、経済力に加えて、心理が影響する部分が小さくない。明るい将来があり、欲しいモノがたくさんあるという消費環境下ならば、工夫次第で売上は増える。しかし、明るさの見えない景気動向とこれといって欲しいモノがない環境では、売上や利益を確保することは容易ではない。今回はさらに、コロナという感染症の影響がそれに加わる。

 日本時間の10日、アメリカに進出した(株)良品計画(MUJI U.S.A.)が連邦破産法11章を申請した。2007年にニューヨークソーホー地区に1号店を出して、13年が経つ。その間、ハリウッドやサンフランシスコにも出店し、昨年7月にはニューヨーク最大の再開発施設、ハドソンヤードにも出店している。店舗数は合計18店舗で、出店効果で売上が増えていたものの、営業は赤字続きだった。しかし、もともとは今後も多店舗展開を計画していたようだ。

かつてない店舗激変の時代

 ブルックスブラザーズだけではない。アメリカではこの数年、世界的にも著名な小売業の不振が顕著だ。ホームファニッシング大手のベッドバス&ビヨンドは先日、200店舗の閉鎖計画を発表した。これは全1,500店の13%にあたる。
 直営店舗955店に占める比率で見れば20%だ。不採算店舗の閉鎖は一見、効果的な経営改善に見える。だが、不採算店舗が増えているということは、見方を変えると営業の中身に問題があるということだ。店舗閉鎖の後に待っているのは、会社の精算だ。

 ベッド社の場合、コロナにより3月半ばから50%の店舗で休業を余儀なくされた結果の営業減益というが、実はそれだけではない。同社の店舗数は3年前にピークアウトし、直近の総店舗数は1,500店。3年前より50店舗あまり減少している。さらに売上の伸びが停滞し、粗利益率も毎年低下傾向でこの5年間で38%から31%と7%低くなった。さらに直近のそれは27%を割り込んだ。これではもはや利益は見込めない。

 コロナが落ち着いても、現在増加傾向のオンラインの売上構成は、確実に上昇するだろう。そうなれば店舗の効率はさらに低下し、不採算店が増える。リアル店舗小売業では、オンライン売上の増加は必ずしも業績の改善に結びつかないのだ。
 リアル店舗小売業が自社のオンラインを効果的に運用するためには、オーダーオンライン、顧客にネット注文商品を店まで取りにきてもらうストアピックアップが不可欠だ。それには、店舗をオンラインより魅力あるものにする必要がある。買い物の動機の大きなものは、店舗売り場で魅力を感じての購入、いわゆる「衝動買い」だ。消費者はオンラインで、価格や品質を冷静に比較し、判断する。店にきてもらい、プラスアルファの商品を買ってもらえなければ、オンラインの売上分が店の売上から消えるだけのことである。

 さらにオンラインは、全国の同業が競合相手になる。同業だけでなく、そこにはアマゾンなどのオンライン専業という巨人も立ちはだかる。オンライン専業社はおそらく近い将来、リアル店舗の世界にも本格的に乗り出してくる。そう考えると、コロナ後の従来型リアル店舗の先行きはますます厳しい。

百貨店業界の終焉

 クオリティーブランドの店舗は、業態でいえば百貨店だ。その百貨店はもはや風前の灯なのかもしれない。ピーク時は9兆円を超えた我が国の百貨店年間売上は当時と比べると40%も減少している。アメリカも同じだ。2000年には960億ドルを超えていたクオリティ型デパートの年間売上が昨年は420億ドル。アメリカの物価上昇を考えるとこれはもう絶望的な数値だ。ここまで来るともはや採算を合わせようがない。それゆえ、創業118年のJCペニーも高級百貨店のニーマン・マーカスも倒産した。このままコロナによる店舗閉鎖が続けば、かのメイシーズでさえ安泰ではない。業態としては残るのだろうが、その数は激減するはずだ。

 この状況は大手専門店も同じだ。店舗過剰に加えてオンラインからの侵食を受けたうえにコロナということになれば、5ケタに達する店舗閉鎖の可能性も現実のものとして見えてくる。そうなるとそれらが入居するショッピングセンターも、同じ運命をたどることになる。かつて不動産投資の花形であったショッピングセンターへの投資は、もはや愚者の行為ということになる。

 いま、「ニューノーマル」が囁かれている。コロナ後はそれまでのライフスタイルが大きく変わることを予言する言葉だ。それまでのライフスタイルが大きく変化するというその予測は、小売の形態にも大きく影響するのだろう。シーラカンスなどかつての大量絶滅時代を生き延びたのは、深海に棲む生物だった。地球に大きな変化が訪れても、深海は環境変化が小さい。

 小売業の深海は近い、早い、安い、便利といったキーワードで表される業態だ。コンビニ、スーパーマーケット、ドラッグストアがそれに当てはまる。しかし、それらの業態も今やオーバーストアという店舗過剰に苛まれている。小売業の「ニューノーマル」がどのようなかたちであるのかは定かでないが、我が国の小売業も従来型の形態では生き残れないことを雄弁に物語るのが、「ブルックスブラザーズの破綻」ということだろう。

【神戸 彲】

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