2024年04月19日( 金 )

元総合商社駐在員・中川十郎氏の履歴書(2)イラクからの原油直接買い付けの試み

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏

 ニチメン(株)(現:双日(株))で長年海外駐在員として奮闘した日本ビジネスインテリジェンス協会会長・中川十郎氏から、当時の状況についての原稿が寄せられたので紹介する。

イラク原油ダイレクトデイール(直接買い付け)商談

 イラク向け自動車商談と同じころ、イラク国営石油会社(INOC)の石油タンク用に鉄鋼厚板をM社と競争して売り込んでいた。そのころイラク国営石油会社は、中東戦争で欧米がイスラエルに加担したとして、セブンシスターズ(大手国際石油資本7社)向けにイラク原油の輸出禁輸を発表した。さらにOPEC(石油輸出国機構)は、石油の値段を一気に4倍に引き上げた。厚板鋼板の売り込みを有利に展開するため、私は欧米石油会社を通さずに、イラク原油の直接買い付け交渉を開始した。

 ニチメン(株)は、私が入社した当時、ソ連のカスピ海バクー原油の直接買い付けを出光興産(株)と組んで実現していた。一方、出光興産は、当時世界最大のタンカーといわれる積載能力20万トンの「日章丸」を活用し、イラン産原油のダイレクト輸入でも活躍していた。

 ニチメンが出光向けに成約したソ連のバクー原油を、備蓄タンクのある徳山製油所向けに搬入しようとした。しかし宇部沖のタンクを満タンにして、国際石油資本はソ連産原油の搬入を邪魔した。そのため、宇部沖に待機したタンカーはバクー原油を長い間、陸揚げできず、デマレージ(滞船料)がかさみ、大きな損失を出したことがあった。

 だが、出光興産のソ連石油のダイレクト買い付けは、新入社員の私にとってすばらしい行動だという強い印象を与えた。第2の商談として、イラク原油直接買い付けを実現すべく、全力を投入した。しかし好事魔多しということか。運悪く、A新聞が、ベイルート情報として「ニチメンがイラク原油の直接買い付けに動いている」とスクープした。欧米石油会社からは「もしニチメンがイラク原油を直接買い付けるならば、今後ニチメンへの一切の石油販売を中止する」とニチメン本社に警告があったという。本社からは「直接の買い付け交渉を即刻中止せよ」と至急電話がきた。万事休す。かくして日本初のイラク原油の直接買付が実現しなかったのは誠に残念であった。

(つづく)


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

(1)
(3)

関連キーワード

関連記事